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VRChatであなたを綺麗に魅せるためのVR技術について~あきたん会アーカイブから~

 おはようございます。sunikaです。
 最近公開されたあきたん会のアーカイブの完成度の高さにまた驚いたので、前回記事の続きとして語らせてもらえればと思います。今回はダンス以外にも使えるあなたを綺麗にみせるVR技術についてフォーカスをあてていきます。

 私もVRダンスパフォーマンスを少しかじっているので、私なりのあきたん会に見るVR演出を使うための方法も紹介していきます。これでakidenさんのような舞台演出をあなたも使えるようになれるかも!
 あきたん会とakidenさんについては前回記事”VRChatでダンスを魅せるためのVR技術について~2024/7あきたん会再公演レビューから~”をご覧ください。


完成度の高いあきたん会のライブ動画!

 まずは、何も言わずに動画を見てほしいです(akidenさんのyoutubeチャンネルのリンクはここです。ここの2024年8月公開のものは全部あきたん会アーカイブです)。とても本番ライブ映像一発撮りとは思えない、多重撮り・編集・加工が相応に入ってるかと見まごう完成度!これはakidenさんが隙のないダンスパフォーマンスを行ったことと、仮想空間内でのライブ演出が優れていたことの他、しっかりアーカイブ用の準備もなされていたことが合わさっての結果なんだと思います。他にもVRライブは沢山開かれていますが、クオリティの高い動画として別途公開される例は私の知る限りそう多くありません。VRリアルパフォーマンスの最前線ではここまでできるんだということを記録した歴史的な動画ではないでしょうか。

 どのアーカイブも素晴らしいのですが、演出ということでは”ハイドアンド・シーク VRChatで踊ってみた”が特筆して良かったので、本記事ではこの動画にフォーカスしていきます。以下、対象の動画を埋め込みます。

 このダンスライブ動画の完成度を高く感じる演出効果としてとりあげたい、2つの重要なVR技術があります。それはライティング技術とカメラワーク技術です。この記事ではこの2つにふれていきたいと思います。

VRChat上のライティング演出効果について

 まずは上記の動画から抜粋した、以下の画像をご覧ください。akidenさんから見て後方からワールドのスポットライトがあたっていて、akidenさんに光の反射部分と影部分のコントラストが生まれています。akidenさんの真正面からの視点ではこの綺麗なコントラストに気づきにくいかもしれませんが、写真にあるakidenさんの左斜め前からの視点では明らかです。

ワールドライティング演出により、光と影を身体にまとう綺麗なakidenさん

 このライティング技術は最新の3Dゲーム等でよく使われる演出ですが、VRChatではまだありふれた技術ではありません。これは、VRChatが採用している光源から影を生み出す技術(Rendering Pipeline)につき、レガシーとも呼ばれる古いもの(=BRP<Built-In Rendering Pipeline>)を適用しているため、影の解像度を高く設定できない(=限られた範囲にしか有効な影設定を適用できない)という背景があります。このため、大抵のVRChatのワールドの光源からはリアルな影演出効果を生み出すことはできません。

vrchatの影に詳しい有識者(=nHarukaさん)の技術的解説

 少し脱線しますが、VRChatがより新しいRendering技術を採用すればいいのに、なぜしないのかという疑問を持つ人もいるかもしれません。例えば、Unityでも使えて多くの3Dゲームに採用されているHDRP(High Definition Rendering Pipeline)に移行すれば、皆がこの恩恵を受けられるのではと。しかし、この技術はBRP(Built-In Rendering Pipeline)とは動作ロジックが大きく異なるため多くの互換性問題があり、特にアバター・ワールドで多く使用されているシェーダーに大きな影響があります。VRChatがこの技術を切り替える場合、現存しているコンテンツの多くは壊れ、自動的に修復する方法はないと考えられています。(ref : ask.vrchat.com 2023/3のshinyscalesvrさんのコメント)

 そうした技術的課題を乗り越え、ステージ上のスポットライトに限定してこのワールドライティング演出を発現させ、akidenさんに綺麗な光と影が作られているということです。さすがakidenさんのあきたん会です。そして、あきたん会の演出担当のあきつきさんしそさんも本当すごいと思います!

 じゃあ、VRChatではこうした特殊なステージに上がらないとこの演出効果を受けることはできないのでしょうか?現在、この影効果をVRChatで使うには2つの方法が考えられます。


ワールドを利用した影演出について

 一つはこの影を落とすスポットライトが設定されているワールドにいくことです。これは多くはありません。私が知ってる範囲では、MANEさん『HIKARIBA』というワールドが良かったです。ここにいけば、誰でも影効果を受けることができます。

「HIKARIBA」は、日本語の砂場からの連想なので漢字では「光場」

 私も「HIKARIBA」で自撮りを少し試したことがあります。影効果は自身のアバターのシェーダーの影効果設定にも大きく影響を受けるので、ここを調整しないとツイートのサンプル画像のような陰影表現は得られません。より深い表現をこのワールドで模索する場合、アバター側の設定の最適化が必要でしょう。

HIKARIBAでの私の自撮りの例。コントラストもっと強めてもいいかも


アバターに実装する影演出ギミックについて

 もう一つはアバターに影効果を生む光源ギミックを実装する方法です。これは先ほど引用したVRChatの影に詳しい有識者nHarukaさん”リアル影システム (for Avatar) PCSS For VRC”という名前でBOOTHにて作成・販売しています。これをアバターに実装することで、どのワールドでも自分だけの影効果専用の疑似的な光源を置くことができます。ただし、ワールドの光源からは独立するので、ワールドとの統一的な演出には工夫が必要です。

 私も使ってみたことありますが、質感向上にすごい効果があります!一方体感重たくなるので、普段使いするアバターに実装するときはBOOTHの注意事項"常用する際の注意"をよく読んで、設定しましょう。個人的にはここぞという衣装に、これを含むものと含まないもの別々にアップロードしておくのが良いかと思います。

リアル影システムはパラメータ設定や光源の位置など設定難易度が高いですが、表現力は高い!

 そういうことで、この影技術をきれいに魅せるためには、VRChatの技術制約があることに加え、ワールドの光源/アバター側のシェーダーの設定が複雑に関係していることから、簡単ではありません。実際にライブパフォーマンスでこれをこんなにもきれいに魅せていることはすごいことなんだと改めて思います。


VRChat上のカメラワーク演出効果について

 まずはakidenさんの動画から抜粋した、以下のGIFをご覧ください。akidenさんから見て、akidenさんを中心に右前から左後方に徐々にカメラが動いています。(こうしたカメラ移動の映像演出のことをドリーと言うそうです)真正面からの視点では気づきにくい光と影の効果の強調や、壮大なワールド演出の奥行・立体感の表現、観客のサイリウムが入ることでのリアルイベント感の醸成と、短い映像時間で沢山の演出効果を生み出しています。
 あきたん会アーカイブからは、こうしたカメラワーク技術という観点でも、曲のタイミングに合わせたカメラ切り替えによるメリハリ感や、演出の奥行を感じさせるための抑制的で効果的な視点移動等、映像の質を上げる撮影技術が感じられます。さすがです。

カメラワーク演出効果で、akidenさんの躍動感あるムーブがより輝く!

 VRChat上で綺麗な動画を撮るこうした撮影技術の方法はすでに色々な方がご説明されていますし私もあまり詳しくないので、基本的な技術のポイントは触れません。VRChat標準ドローンカメラの使い方はバーチャルFOXのヤタノさんの動画でコンパクトにまとまっています。いい映像を撮るためのVRChatカメラの動かし方の技術は甘里もちさんのnoteがとても具体的で良かったので、ここにリンクを埋め込んでおきますね。

 VRChat上でこうしたカメラワーク演出効果を含む映像を撮影するには、上述のような撮影に詳しい協力者を確保してドローンカメラで記録してもらうのがいいですし、あきたん会ではこの分業がなされていたと推測します。

 じゃあVRChat上では、協力者を確保しないとこうしたカメラワーク演出効果を受けることはできないのでしょうか?私の知る限り、現時点2つの方法があります。


ワールドを利用したカメラワーク演出について

 一つは、カメラ移動ギミックが実装されているワールドを利用することです。これはいくつかワールドがあるのですが、そのうち、VRChatのライブパフォーマンスのステージとして、国際的なVRChatダンスグループのIDA(International dancer's association)さんでもよく使われていたDj Lukis․LTさん作の「DJL Dance Stage」を紹介したいと思います。私もこのワールドのギミックを使って協力者なしでカメラワーク演出効果も取り入れながら踊ったことがあります。以下が、そのときの動画です。

 こうしたカメラ移動効果を使ってみたい方は、ぜひこのワールドを利用してみてください。ワールド操作設定が英語なので、以下簡単に説明を。

 ワールドに入ったら、目の前のステージにあがり観客席側に向かいます。目の前の壁をクリックするとミラーになります。そのうえで、右手にSettingsとかいてあるボタンをクリック。すると、以下の画像にあるようにステージ演出の設定パネルがでてきます。

こんなに設定が色々できるのにVRChatは無料!

 ここで、画像の中左上段のCamera Settingsのうち、Camera controlsボタンを押してください。すると、画像一番左にあるようにカメラコントロールパネルが表示されます。うち、AutoボタンとPreviewボタンを押してください。ステージ上を移動する沢山のワールドカメラの視点がカメラコントロールパネル右上に表示されます。すでに自動でカメラがランダムに切り替わる状態です。この状態で、再び画像の中左上段のCamera Settingsのうち、Override desktopボタンを押してください。自身のカメラの画像がこのワールドカメラの視点へと切り替わります。これでランダムで色々なワールドカメラ視点に切り替わるステージ撮影が可能になります!
 カメラコントロールパネル上Target Playerボタンを押せば、対象者追随モードになって、include freeボタンをoffにすれば、自分で位置を変えられるフリーのワールドカメラをランダム視点切り替えの対象から外してくれます。

 ステージの床の状態は画像の中右上段のStatic floorsで選択できます。画像の中左下段のParticle effectsや画面右中断のSkyboxでエフェクトや背景を色々変更できます。沢山の設定があるので面白いですよ!

 このワールドの他、霧雨なのはさん「VRC LiVE STAGE」などのワールドでも自動追尾ワールドカメラがあって、楽しいですよ。


アバターに実装したカメラ移動ギミックの活用について

 もう一つ、自身のアバターにカメラ移動ギミックを実装する方法もあります。私はそんなに詳しくないのですが、リアル影システムと同じ作者のnHarukaさん”映像撮影用ドローン (アバターギミック) DroneRecorderSystem”をBoothで公開・販売しています。これを使うことで自分の任意のドローン移動軌跡を作っておいて、任意のタイミングでドローンカメラ移動を起動することができます。Expressionパラメータを95個使うので、顔トラッキング等で空きパラメータが逼迫しているアバターは導入不可となる他、多種類の軌跡を保存できないのと、このドローンの映像はカメラを動かしているわけではないのでポストエフェクトがかからない点に留意が必要です。でも任意のカメラワーク演出効果をどのワールドでも取り入れられる点は良いですね!

 他にもドローン軌跡記憶ができるアセットはあるようですが、よく知っている方がいれば教えてほしいです。いずれも操作は慣れるまで大変そうですが・・

 そういうわけで、カメラワーク演出は専用のワールドなどを使えば簡易的には実現できることがわかりました。しかし、曲やパフォーマンスの流れと合わせるのは一人だとやはり難しそうです。カメラワーク演出も流れに合わないとその効果が大きく発揮されません。やはり、色々調べていくと演出担当の協力者が必要不可欠の存在に思えてくるわけです。やっぱりすごいよあきたん会・・・


おまけ:4K動画について

 最後にこれは厳密にはVR技術ではありませんが、akidenさんの動画の画質をよく見てみてください。2160p60でいわゆる4K動画です!VRChatをやりながら4K画質で動画を撮影するのは、マシンスペック的にはとても大変なのですが、がたつき(VRChatのfps低下)などなく動画は仕上がっています。高級マシンの鼓動が感じられますね。そして言うまでもなく4Kはとても綺麗です。
 VRChatには8K録画に特化したDTVコミュニティというものがあるらしく、akidenさんもこうした方々の後援を受けてこの高画質を実現できたそうです。あきでん会のアーカイブ動画は高画質だからこその繊細なライティンググラデーションがしっかり描写できていました。
 これに限らず、演出に関わった技術陣の動画完成度への貢献は、とても大きなものであったと認めなければならないでしょう。

4K画質で水の波紋もakidenさんも綺麗に見えますね!


おわりに

 あきたん会は、ダンスだけでない色々な技術・工夫の結晶です。私も色々と刺激を受けて、直近Quest Pro買ってフェイストラッキング始めたりしました。これは私だけでなく、VRパフォーマンスに関わる様々な立場の色々な人の背中を押してくれるものだと感じています。是非あなたもあきたん会のアーカイブを見て、VR技術の演出パフォーマンスに魅入られましょう!

akidenさん
X / Youtube


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