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スニフ村的歌詞がすごい曲その6"シャワー"

思った事を言うって案外難しい

どうもスニフ村です。
実は前回書き切ったくらいであの楽曲にしようかなとか色々考えていたのですが、急に気が変わったので全然違う楽曲でいきます。

ここ最近楽しませてもらってる「ラップスタア誕生」
シーズン3からガッツリ見始めたのですが、この企画で生まれる楽曲は本当に素晴らしいものが多いなって思うので、「ラップスタア誕生」発の楽曲でやっていこうと思います。

さて、音楽を聴きましょう。
やっていきます。


noma「シャワー」

前シーズン僕が1番良いなと思ったnomaの言葉遊びと韻の置き所が秀逸で大好きな楽曲です。


【曲全体を聴いての感想】
この曲をしっかりとフルで聴けたのは去年のラップスタア誕生シーズン4final stageのライブ審査でした。
4th stageの時点で1バース目までは聴けていたので期待値が高かった記憶があります。

4th stage時点での審査員からの評価は「歌詞がわかりにくい」と厳しい目線だったと思います。
その評価からフルバージョンを書き上げた上でのライブ審査。

フルで聴いても思ったのは比喩の幅広さです。
想像力を掻き立てるnomaの歌詞がたまらなく好きでとても面白いこの楽曲。

そんな比喩と言葉の使い方に着目してこの楽曲を紐解いていきます。
そして2バース目から言いたい事がわかりやすくなる彼の歌詞の変化にも着目していきたいと思います。


【音楽に伏線を】
最初にフックが入りますがあえて端折ります。
バース1
点字ブロックにつまづく僕はちゃんと 現実を現実通りに見られてるか 朝5時2番ホーム 缶コーヒーとゴミ箱 シカトした飲み屋のイカつい客引きと同じ髪のやつが 向かいのベンチで口を空けて寝てるから ほら寝過ごした 汗すごいな 誰もかれもくたびれ 興味があっても根気がない 楽しそうに笑うがそれは本心から? 面白い時に笑い 悲しい時に泣いてほしいなあ サラリーマンがうどん屋のシャッター前で寝てる 働いて 働いて みんなは「当たり前」と言うように跨いでく 責める? 褒める? 耐える? 変える? どうせ君にはわからない お決まりの「正解ないんかない」 便利な言葉に逃げるのは涼しい 焦げるような日差しの下じゃ犬も猫も苦しい 陰を探し彷徨うこの感覚は ほとんど初めてと言ってくらいに久しい 何も買わずにコンビニを出る 汗の中身はほとんどポカリの成分 ふらつきながら脱いだアンダーウェア 冷たいシャワーを出し思わず膝から

あえてバース1全て書きました。
ここまでが4thステージで披露されたバースです。

ここだけですでに感じる小説のような言葉の扱い。
リズムがなく朗読するように読んでも文章のようにスラスラと違和感を感じない。
そして風景が目に浮かぶような表現力。
これにnoma独特の拍の取り方が相まって気持ちよく耳に入ってきます。

ここまで読んでどう感じたでしょうか。
ただの風景や事象を書いてるだけで、noma自身がどう感じたかまでは伝わってきません。

これが審査員にも指摘された「歌詞がわかりにくい」ということで、何を伝えたいのかが明確にわからないんです。

nomaはインタビューでこう話していました「親父の本棚から小説をパクって読んでて、伏線を張ったりするのが好き。それを音楽という短いものでも表現したい。」と。

そう。
ここまではあくまで伏線なんです。

フックも含めて。
うずくまって聞く 僕を囲む雫 落ちる前にはすでに取り戻す元の微熱を 目の前で光って 笑って 跡形も残さず消える 唯一僕が見えるもの

フックはすごくメロディアスで、聞いていて凄く気持ちが良く仕上がっています。

ただやはりフックを聴いてもどういうことなのかがまだ掴めない。

音楽というものは緻密に計算されてできていますが、歌詞までもをここまで緻密に計算しているラッパーは正直言って何人挙げられるかわかりません。

バース1とフックを伏線として使ったのは果たして審査員に「歌詞がわかりにくい」と言われたからなのか、最初からフルで書く場合はこうするつもりだったのか僕にはわかりません。

ここまで聴いてきた歌詞のモヤモヤがバース2から一気に解消されていきます。


【感情で伏線回収】
バース2
頼んで生まれてきたやつは1人も いないけど 今でもやり直せるなら 感謝できるような親の元に 親に感謝できるような子供に それも無理と知って賭けた道 いつ引き返す? フェスもライブもみんな延期 中止 何が生きる糧? 朝6時起きて 仕事行って 次の日まで 働き 金を稼ぐ 生きるために生きるだけの日々だけど いつまでか知りませんか? すでに諦めていませんか? 上限50%の会場 満員の電車 「口だけじゃ何も変わらない」 知ってんだようるせぇ とりあえず貸せよマイク こんな世界 俺はいらない こんな世界に俺はいらない 何が正解か誰も知らない だから1人目になるしかないんだ そう1人ずつ

これがnomaの思っていたことなんです。
なんだか答え合わせのような感覚にはならないでしょうか。

某ウイルスの蔓延によってこんな世の中にになって、アーティストが思うことをあえてバース1では全て一般的な人の目線で、風景として描いたんです。

そして、noma自身シャワーが壊れた状態の厳しい夏を過ごすことで、シャワーのありがたみを感じたことに比喩させているんです。

この凄さ伝わりますか?

某ウイルスの蔓延で、当たり前だったことがなくなって、失って初めて当たり前だった事がありがたいことだったと気づいた人も多いと思います。

でもそれを、口を大にして伝えようとした人が周りにいたでしょうか。

「正解なんかない」と便利な言葉に逃げて、この状況が改善されるのを待つのみ。
でも先に待っているのは一向に改善はされず、共存を目指す日々。

違和感を感じた人がほとんどだと思います。

それでもその違和感を口に出して言えなかったのは、この騒動について思っていた事を伝えようと口を開けるとロクな事がないからなんです。
この騒動について意見する事がタブー視された世の中になってしまったから。

noteも某ウイルスの単語を使うだけで「感染症対策がどうのこうの」と書かれた注意書きのようなものがバナーで表示される。
それで何になるんでしょう。
僕もずっと感じていました。
でも言えない。

だからnomaは思ってることは口に出して良いと自分が先陣切る事で伝えたかったんだと思います。
「いつまで寝ぼけたことしてんだ。このままじゃ何も変わらないぞ!」と。
これを去年の先の見えない状況下で言える20歳。

ライブが生きる糧の1つだった僕にとって、夏フェスの中止やライブの自粛は本当にしんどかった記憶があります。

それでも生きなきゃいけないから、生きるために仕事をしてお金を稼いで。
これがいつまで続くんだろうって思ったことありませんか?

そういった憤りをnomaは全て言葉にして、マイクを通じて口で伝えているんです。 

口だけじゃ何も変わらないってわかってるからこそマイクを握って口に出す。
そんなnomaの信念が見えて来て、ラップスタア誕生発の楽曲で1.2を争うレベルで好きになりました。

音楽的な部分で言えば細かく語尾で韻を踏んで、リズムで緩急をつけながら聴く人を飽きさせない工夫も、伝えたいことを伝えるためのスキルとして全面に発揮されています。

多分こんなクソなご時世じゃなければこんな歌詞も生まれなかったでしょうし、こんなに素晴らしいと思うこともなかったんだと思います。
その点に関して、クソなご時世で良かったのかもなって感じます。


【自分の考えに自信を持って口に出せ】
まだ続きます。
いつも1人で歩いてたこと 久々に思い出した 爪弾きにはもう慣れたよ ほっといてくれ 不器用に生きなきゃ 生まれた意味なんかないと信じてしまって時点で 言うべきか 黙るべきか でもずっと我慢できるわけない 世のルールは金 君の君主は誰? 誰でもなく自分だけに忠誠誓う 空腹じゃなけりゃ裕福か? 無視するな苦しみや窮屈さ うずくまって聞くだけじゃ 進まないから 立ち上がり拭き取る 汗と雫

おそらく、こんなご時世にこの騒動について口を出せば必ずと言っていいほど、批判や意見を浴びせられると思います。


でも元々人は1人だし、nomaは親を嫌い、退路を断ち、ラッパーとして不器用に生きる事が生きる意味だから、言いたい事を言うことにした。
除け者にするなり好きにしてくれ、ほっといてくれそれでも口に出して変えてやるから。と言いたいようにも感じます。

人の生活に不可欠なお金は、世のルールとして出回っているけど、君の君主は誰なのか、自分が自分を信じてやれなくてどうする。
生きる人々にとって必要不可欠なお金を、給料としてもらう立場であっても、自分の君主は自分自身なんだと再確認させられました。

そして僕が個人的にすごく好きな「空腹じゃなけりゃ裕福か? 無視するな苦しみや窮屈さ」フレーズ。
端的にこのフレーズから僕が感じ取った事を言葉にすると、「仕事をして飯を食えるだけがお前にとって幸せなのか?自分が感じるしがらみや不自由さを無視するな。小腹を満たすのではなく、満腹になる術を探せ。」です。

これが凄く刺さって、今の生活は安定しているけども、やりたい事を具体的にやれているわけではない状態にあるのってやっぱりどこかしらに違和感や、焦りとかそういったものが生まれてしまう状態なんですね。
まさに僕はその状態で、安定した生活で空腹でないことが幸せだと錯覚しそうになっていたんです。
でもやっぱりそうではなくて、自分自身の感情的な部分も満たさないと、人間心の底から幸せだとは思えないと気付かされたのがこのフレーズなんです。

ちなみに韻もめちゃくちゃ固くてバシッと耳に残ります。


そして最後にフックの伏線を端的に回収していく。

僕なりの解釈は、「雫」とは周りの意見や批判。
聞きたくない事を聞かされているときの姿勢ってうずくまっている姿を想像しませんか?
だからうずくまって聞きたくもない意見や批判を聞く。
でもそれが耳に届く頃には元の思っていた事を口に出したいと思う。
だからうずくまってそんなくだらない意見や批判を聞くだけじゃ何も変わらないから、立ち上がってその意見や批判と向き合おうとする。

自分を蝕む違和感という汗と、周りのくだらない意見や批判を拭き取る。

こんな風に僕は解釈しました。

音楽という短いものに伏線を張り、回収し、また聴く人に解釈させる。
nomaの作りたい音楽像や、メッセージ性が全面的に溢れた楽曲だと僕は思います。

このnoteを読んだ上で、バース1を聴くと、また聴こえ方が変わってくるかもしれません。
あなたなりの解釈を聞けることも僕は楽しみにしています。


【最後に】
いかがだったでしょうか。
言葉数が多くて書きたい事が書ききれないなと思って気合いで読みやすいくらいのサイズにしました。
読みにくかったらごめんなさい。

惜しくもnomaはラップスタア誕生シーズン4では、3位という結果に終わってしまいした。
ですが、僕としては出場していた全員がラップスタアに思えました。

企画としての優勝は別のラッパーであろうと、人の心を掴み、人を揺さぶる事ができるラップをできる時点で、もうすでにスタアなんだと思います。

1年前の企画の曲を、今聴いても「いいなあ」と思えるって最高の企画ですし、そんな曲を作り上げたnomaには尊敬の意しかありません。

今絶賛開催中のラップスタア誕生シーズン5もめちゃくちゃ面白いので、是非見てください。

ちなみに3rdステージでBonberoが落ちたのはほんとショックでした。


【次回作】
12月は年の瀬ということもあり、実はもうすでに色々と書きたい曲が決まっています。

僕と音楽の話をよくする人からすれば「年の瀬」という単語だけでもうすでに誰の楽曲かなのか想像がついていると思います。

ただ、まだ次回作だけ決まっていないので、フリーな感じで緩く考えていこうかなと思います。

誰も待っていないでしょうけどお楽しみに。

それでは皆さん良い音楽を。

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