韓国スタートアップ研究会 ①美容機器で2700億円のIPO達成-APR
はじめに
初めまして。ロッテベンチャーズジャパンで、日韓のスタートアップ投資と投資先へのゴリゴリ支援を心がけている申です。日韓のスタートアップは近いところ異なるところもあり、非常にシナジーが発生しやすい関係だと思いますが、何だかんだで結局「海外ならまずアメリカ見ようか」「商売できそうなのは中国かな」というのもあって、お互いに対するビジネスの優先順位が低かったとも。その背景にはやはりお互いを知らないのが一番かと思います。最初はK-PopやK-Dramaでも紹介しようかなとも思いましたが、自分はBigbangと冬ソナに止ってしまっているのもあり、これから韓国スタートアップ関連で面白そうな会社、構図、Deal、制度などなど、自分が気になったことを紹介していきたいと思います。
APR
その第1弾として決めたのが、最近上場したビューティーテック企業のAPRです。韓国のスタートアップ市場はこの最近全く元気ではありませんでしたが、この最近久々に美しい案件がありました。ビューティーテック企業のAPRが時価総額2700円規模で上場に成功したことです。
Kurlyの様なスーパースターユニコーンでさえ様子見している今のご時世で、公募価格か自社予測の60%を超え、今(3/18)も一か月公募時(25万ウオン)より20%アップ(30万ウォン)の価格を維持しています。
この1社のネタでも韓国IPO市場、韓国ユニコーン企業たち、D2C企業の勝ち筋、K-ビューティーの将来性、そもそものビューティーテックの将来性・全体図などなど色々話してみたいことがたくさんありますが、今日はとりあえず「製造業スタートアップの資金調達活用事例」の面で話しします!
*ここに出している情報は主に、記事・APRのIR資料などの公開資料を基にしています。流石にブログの話は入れてない(入れるときはついきする)ですが、事実関係には多少前後・違いがあるかもしれないことご了承ください。
*通貨はできる限り円表記(100ウォン=11円)ですが、IR資料を引用時には一部ウォンもあります。
会社概要
この会社を簡単に紹介すると、以下になります。
・創業:2014年、2024年2月上場
・創業者:キム・ビョンフン。元々広告会社に勤めていた。化粧品会社の広告を作っている中で「これなら自分でもできるかも」との思い、化粧品ブランドをロンチして創業。翌年売上14億円規模に。
・事業内容:機能性化粧品/美容機器/ストリートファッションブランド
2014年当時、大学を休学して化粧品流通事業をやっていたイ・ジュグァン氏とオンライン広告事業をやっていた金・ビョン氏が共同で創業しました。化粧品会社向けオンライン広告をメインにしていた金氏が、オンライン広告の中心がポータルサイトからSNSに移ってきているのを感じた時期です。代行したオンライン広告案件のパターンを見ると、が初期の反応が良かったが、結局製品力の問題で2~3か月で勢いがなくなるのをみて、「自分にマーケティングの実力は十分ある。製品力ある製品さえあればヒットできる」との思いで創業に至りました。
で、何だかんだあって創業してちょうど10年でチャンチャンと上場に成功します。その「何だかんだ」の中には色んな面白いことありますが、今日は1点に絞って話ししたいと思います。
成功には - 資金調達履歴
彼らの成功の理由は、結果が分かった今見るといくらでもあるのだろうとは思いますが、スタートアップ投資をする身からはやはり「適切な資金調達」をそのキーとして取り上げたいと思います。上に出した彼らの業績推移を少し過去に戻してみると(これを見てもすごいですね、創業2年で売上13億円、2億円黒字…)、創業以来ずっと黒字経営をしています。それが18年だけ赤字に転落しますが、この赤字こそが当時50億だった事業を500億まで伸ばすことができた原動力だと言えます。
下の表に資金調達履歴をまとめてみましたが、17年・18年にバン、バン、と大型資金調達を決めます。17年は売上50億でPreVal110。PSR 2(16年基準ならPSR 3)ぐらいですでに黒字企業だったと思うとCEOとしてはそんなに気持ちのいい数字ではなかったでしょう。それにはまだ製品群の幅が狭かった(one hit品)というリスクもあったかと思います。そして、18年は追加で30億円を調達します。17年からの新規ブランドが少しずつ結果が出てきたおかげか、PSRは3ぐらいでそこそこいい数字になってきましたね。
余談ですが、この事業タイミングの資金調達は個人的には非常に面白いポイントだと思います。「挑戦!」というのは他人事なら軽く言えます。しかし、自分がこの(オーナーの)立場になったら、安泰な事業運営ができる状況を捨てて、外部からうるさい投資家たちを招き、危うい新規事業の世界に行くってことですね。もちろん、それまでの事業を守るのもいい選択だとは思いますが、APRの他、ガンバン新規事業を決めていく世の中のすべてのCEOへのリスペクトを表します。
で、ここで集めた35億円で何をしたかというと
新事業(ブランド)展開
まず、機能性化粧品ブランド「Medicube」をロンチします。それまでの10代~20代の手が届きやすい製品では流行りも早く長期的安定性が低いと判断したのでしょう。そこで、より高価格帯の機能性ブランドを発売しかなり、かなり攻撃的なマーケティングをします。No.1認知度モデルを起用し、テレビ広告をバンバン打ちます。社員まで活用したSNS広告がメインだったそれまでのやり方と比較すると、すべてが変わったともいえるのでしょう。
そして、いきなり「NERDY」というファッションブランドもロンチしましす。分野は違ってても、顧客が一緒であれば、同じ成功公式で勝負できると思ったのでしょうか。加えてポートフォリオ拡大による外見拡大にも貢献できると思います。
その結果が、この今の売上構成です。
②と⑥を17年前後にロンチし、今や売上全体の約半分です。①においてもかなりの開発費がかかっていて、②と⑥の成功無しでは多分生まれてなかったでしょう。
当時メインだった天然素材化粧品の売上は今はだった6%です。500億の6%なので30億。ちょうど16年の売上と一緒ですね。
海外進出
もう一つの分岐点は海外進出です。APRは初期から韓国コスメの可能性を感じ、中国への石鹸輸出などはしてました。はじめはそれでもいいと思いますが、スケールアップするにはやはり現地法人を作り、その地域でのマーケティングが必要だと感じます。それもやはり「お金」ですね。
外部資金を使って、17年には日本・中国に、18年には香港・シンガポール・台湾に本格的に進出します。日本でも上述した様にCMに出たり、自社モールやビックカメラなどでよく見かけたりします。
スタートアップの海外進出のタイミングとやり方についても、(最近「韓国→日本」進出関連相談をよくうけるのもあり)色んな観点と考えて方がありますが、それはそれで面白いネタなので、ここの詳細含めてまた今度書いてみたいと思います。
まとめ
APRは、初期「石鹼」OEMという少ない資本でできる商材を決めて、自己資本で事業を始めました。その後、マスへの大きぼマーケティング・海外進出を目的にVCの資金を誘致します。今後はグローバル総合ビューティーテック企業を目指しながら自社の大規模工場を建設する目的でIPOによる資金調達を決めます。「資金調達は目標ではなく手段」という話はよく聞きますが、今回の事例ではまさに、その教科書の様なケースだなと思い非常に興味深かったです。また面白いケースを探し紹介します!
ついでに、、
APRはすでにかなり大きくなってしまったので、自分たちだけの力で世界のどこにでも進出できると思います。しかし、韓国の中にはまだまだグローバル進出を狙っていて、日本で十分ヒットする商品がいくらでもあるかと思います。私の希望はそのような会社を少しだけ早く発見し、少しでも日本進出のきっかけ・サポートを作り、日本で開花する姿を見ることです。その観点ででもこれからガンガン韓国に投資していきたい(日本ももちろんですが)と思います。皆さんの周りにも何か韓国コンテンツ・韓国ブランドなどに興味があるかたいればいつでも連絡お待ちしています!
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