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留目真伸インタビュー③ 「競争」から「共創」へ そのカギになる「インタープレナー」

スタートしてから約1年で、12個の新産業を生み出してきたSUNDRED株式会社。これから先にSUNDREDが目指していく企業としての姿、また、そのまた先にある作り上げていきたい未来の社会の形とは、どういったものなのでしょうか。
引き続き代表取締役・CEO、留目真伸氏に伺う、対談記事第三弾。今回は、将来を見据えた展望についてのお話です。

SUNDREDが目指すのは「スタジオ+PMO」

- 今後、SUNDREDとして目指していく世界をひと言で言うと、どういう形になるのでしょうか?

ひと言でいうと、一人ひとりの人間・個人が活躍できる世界です。今はインターネットで全てが繋がっていますよね。企業が社員に対して、どんなにSNSを禁じても、会社外での活動を禁じても、もう止められない。この先さらにスムーズに世界中が繋がっていくとしたら、個々の企業をどうするか、よりも先に「全体が繋がっている、先の未来」を考えなければならない時代に来ていると思うんです。

その中で、会社等の組織の枠を超えて「世界を良くしたい」「社会の課題を解決したい」という人たちが既にもう一定数以上いるし、どんどん増えてきています。あらゆる業界・セクターにいる彼らが、彼ら自身が見つけた課題解決のために集って、達成したい未来の絵図を描いていく。そして、その実現を図ったり、事業化を進めていったりできる世の中。彼らのそういった動きを、どんどん推し進めることができる世の中。そして既存の企業や組織も、自らが持つアセットをその新しく出来上がっていく繋がりの中で活用し、新たな価値創造に貢献することで成長していく。僕は、それが世界のあるべき姿だと考えています。

- その中にあって、SUNDREDが果たす役割はどのようなものになるのでしょうか?

SUNDREDはその中で「スタジオ+PMO」、すなわち、一つひとつの作品としての新産業を共創していくための映画スタジオのような存在であり、またプロジェクト・マネジメント・オフィス的な役割を提供していく組織になっていくと思います。PMOというのはまさに、プロジェクトの推進を包括的に支援できる機能です。新たな産業づくり、事業づくりをやりたいと思うインタープレナーがSUNDREDに集まると、それを実現していく活動のための最適な支援が受けられるようにする、ということですね。どうやってプロジェクト化していくのか、仲間づくりはどうするのか、プロジェクトをどう進めるのかといったことを、総合的かつ具体的にサポートする組織にしたいと思います。

- 具体的にはどのようなことをするのですか?

自ら目的意識を持って集まってきたインタープレナーの人たちに、ノウハウを含む適切なサポートを提供していくイメージです。目的をクリアにしていくための対話の仕方やワークショップのやり方を伝えたり、事業テーマ設定を組む際に参考となる4象限モデル等のツール群を提供したり、エコシステム仮説の共創を支援したり、人をうまく巻き込むための仕組みや、人と企業、あるいは企業同士が繋がっていくための仕組みを整えたり、必要な資金を集めたり、といったような形ですね。

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新産業を量産するフレームワークとは

- 今、お話しされた4象限モデルは、このインタビューシリーズでも何度か紹介されている重要な概念です。これは、どのようにして作られたものなのでしょうか?

これは日本政府が提唱している「Society 5.0」というコンセプトを基盤にしながら、SUNDREDでの12個の新産業共創プロジェクトから抽出してきた要素や理解を織り込んで作成したものです。「Society 5.0」で謳われていることは、ざっくり言うと「人間中心の社会」をどう実現するかということです。これは、SUNDRED流の解釈でいうと「売り手や市場が中心の社会」から、「人間、生活者が中心となる世界」に変わっていく、ということ。

- なるほど。

こういう言い方をすると、企業や市場と生活者の対立みたいな構図に見えるかもしれませんが、売る側の企業の中でも生活者は働いているわけじゃないですか。だから人間中心、生活者中心で産業をつくっていくということは、企業にとっても本来的にはいい話だし、自然でもある。そして既に多くの新産業プロジェクトにおいて研究者・生産者・消費者はデータを共有しながらより良い世界を実現していくためのチーム、コミュニティとして機能しはじめている。このように、これからの社会でそれぞれの領域が産業としてどのように再構築されていくべきなのか、新しく創出されていくのかを、人間という視点に立って考えてまとめたのが、この4象限なんです。

- 「Society 5.0」や、それにまつわる時代の流れに即した産業領域のモデル図なんですね。

この4象限のフレームワークを開発したことで、SUNDREDは次々に新しい産業を生み出すことができるようになっています。そういう意味で、非常に重要なフレームワークです。

- 具体的には、どのような考え方なんでしょうか。

今、そしてこれからの時代は、以前の社会で重視されていた物質的な充足を満たすための産業よりも、心身の充足を満たす産業に重点が置かれるようになると考えています。また、心身的なものの中も、それを実現するためのインフラという意味で「生活基盤」をつくる方向性と、「よりよい状態になっていく(Well-being)」ことを実現する方向性という2軸を設定しています。で、このマトリクスに対して「セルフウェアネス」「レジリエンス」「サステナビリティ」「ハピネス」という4つの価値観を組み合わせ、さまざまな新しい産業のアイディアを生んでいくんです。

- お1つずつ伺ってもいいですか?

「セルフウェアネス」は、自分自身をよく理解したい、その上で、本当に自分に合うものを選び取りたいという価値観ですね。いわゆるマーケティングでいうところの、個々の興味・関心・嗜好に合わせてサービスを選んでいく、パーソナライゼーション、カスタマイゼーションにつながります。これが今後、どんどん加速すると考えています。

「レジリエンス」は、柔軟性やフレキシブルさを表す価値観です。変化の激しい時代にどう追随できるか、対応できるか。例えば、大きな金額のものを何十年もローン組んで買うと生活コストが固定化されてしまい、レジリエンスが下がってしまう。サービス化やシェアリングエコノミーなどの広まりは、この価値観によってドライブされています。

「サステナビリティ」は、よく「持続可能性」と訳されますね。無駄をなくし、地球環境にも配慮し、正しく・善く生きていきましょうという価値観。

そして、最後の「ハピネス」。これがすごく大事です。先ほどの話で言うと、生活者も、売る側で働く人も、どちらも「人間」なんですよね。だから、お互いにお互いを幸せにするために何かをやって、自分も幸せになっていきましょうと。誰かの犠牲の基づく便益ではなく、コミュニティ全体としてのハピネスの大きさを大切にしましょう、ということ。これが4つの新しい価値観です。

「競争社会」から「共創社会」へ

- この4つの価値観を根底に起きながら、先ほどの4象限と掛け合わせることで新しい産業を構想していくんですね。それにしても今、なぜ新しい価値観が求められてきたと考えていますか?

やっぱり生活者のあり方が変わってきたからですよね。これまでは「ワーク」と「ライフ」が分断されてきた。「仕事なんだからガマンしてやって当たり前」とか、「お客様は神様で、そのために徹底的にやる」といった価値観が普通でした。でも今の社会では「ワーク」と「ライフ」が近づいてきています。「誰もが生活者であり社会人であり、生産者でもある」みたいな、そういう感覚にようやくなってきたんですよね。例えばブラックな働き方は「良くないこと」だから、誰かの苦痛に基づいて成り立っているサービスは生活者も受け入れなくなってきた。だから、「人間による人間のための産業」を目指していくべきなんだと思います。

- なるほど。社会の在り様が変容しているから、ということなんですね。

かつては、「競争社会」でしたよね。「限られた市場の中でシェアをいかに上げるか」というルールの社会的ゲームの中で、みんな生きていたんですよね。だから「自分たちの手札は見せない」とか「あっちをやっつけろ」とか、張り合っていた。

- それが変わってきた。

元々社会って、そういうゲームじゃなかったはずなんです。本音を言えば、「お金が欲しいなら働け!」とか「会社のために我慢して、部下にも厳しく当たる」みたいな世界って嫌だったわけじゃないですか。だから「企業も世の中にいいことをしたい、人の役に立ちたい」という人間中心の社会を目指すことが、働くモチベーションにもなると思うんです。

- なるほど。「競争社会」が終わると。

「競争社会」から、「共創社会」になっていくと思います。そして、イノベーションの起点は一層分散し、個人になってくる。SUNDREDでは「インタープレナー」と呼んでいますが、所属する組織の枠を越えて、新たな目的を探索したり、価値創出や社会課題解決のために活動できる個人のことです。インタープレナー同士が対話し、そこで新たな目的が共創される。その動きをまた個人や個人が持っている背景のリソースを活用して進めていく。本当の意味でのオープンイノベーションが中心となる社会です。

- 「共創社会」っていい響きですね。

一つの会社が自分たちの企業の利益やゴールに準じた目標設定で、「商品を売るため」ありきで社会の変革を偽りのマーケティングメッセージとして謳うのではなく、ある程度の共通言語・課題認識を持ったコミュニティーの中で、ソーシャルに本当に共感できる・される「実現すべき未来」を産業としてみんなで生み出していくような社会ですね。

誰でもインタープレナーになれる

- インタープレナーというのは大企業の社員が中心になるんですか?

いえ、そうではありません。経営者であろうが、中小企業の社員であろうが、起業家であろうが、NPOの人であろうが生活者であろうが、「新たな価値創出のために組織の枠を越える」という発想と行動があれば、誰でもインタープレナーになれます。新たな課題解決のための産業づくり、事業づくりというと、スタートアップとか、企業の新規事業とかを考えがちですよね。でもそれはあくまで「手段」です。本質は、世の中で次々に現れてくる課題に対して、適切な目的を設定をして、それを解決するための新しい関係性(=エコシステム)をいかに作っていくか、ということなんです。

- 今のお話しを伺っていて、なるほどと思う反面、やはりこのような考え方の対極にあるのが日本の大企業であるようにも思えます。大企業同士はどうしたら協力し合えますか?

新しい産業を生み出すには、むしろ協力するしかないんだと思います。既にインターネット/IoTで全て繋がってしまっているんです。個社の製品・サービスの完成度を高めたからといって、バカ売れすることはありません。それよりも、繋がった全体のソリューションとして社会に対して、生活者に対して大きな価値を提供していくことを目指していかないといけません。複数の会社や業界で手を取って提携せざるを得ないし、生活者にも共感してもらえるようなストーリー、共通項を探していく必要が出てくる。そのためにも会社の外に出て、多様な人達と対話を始めて、自らも共感し、共感を呼び、現実を見つめながらエコシステムを共創していくべきなんです。

- なるほど。となると大企業は社内にいるインタープレナーを発見し、どう活用するかという考え方が必要になってきますね。

インタープレナーは新しい時代の萌芽を感じて自ら動き出せる人たちで、今この瞬間、彼らはすごく稀有な存在ですから、企業の内部にこういう人たちが多くいるしたら喜ぶべきだと思います。彼らとエンゲージ、強固な結びつきを結んでおくべきですよね。それは現役の社員であっても、元社員とエンゲージを取り続けるアルムナイ的なやり方であってもいい。だからこそ、企業は社員を自由に動ける状態にしておいた方がいいと思います。個人が会社に閉じ込められたままでは、繋がり合う新しい社会での新規事業というのは生まれて来ませんし、アイデアがあったとしてもスケールさせることはできません。

インタープレナーに対する報酬制度も設計中

- 個々の会社という枠組みから自由に考えるインタープレナーは、SUNDREDに集まり、どういった活動をしていくのでしょうか?

今、SUNDREDは、インタープレナーのためのコミュニティーを立ち上げています。新しい課題解決をするためには、まずは「繋がり」を生み出すことが肝要です。さらには、課題とその解決策となるソリューションを結びつける、設計図を書ける人も必要になってきますね。インタープレナーって本当は誰でもなれるもので、ただただ本質的な目的を考えて、「社会人」として行動していくというだけの話なんですよ。

- インタープレナーのためのコミュニティー、とはどういったものですか?

目的思考で何か新しい価値創造をしたいという人が集まりながら、オープンに対話をしていける場にしていきたいと思っています。その中から新しい産業のアイディアが生まれることもあるでしょうし、生まれた新産業テーマに対して個人として関与、貢献する人も出てくるでしょう。また、例えば大企業のインタープレナーであれば、自分の会社を新産業に関わらせるスカウトのような行動をとる人も出てくるかもしれません。

- なるほど。いろいろな貢献の形がある。

同時に今、SUNDREDに関わるインタープレナーに対する報酬制度の設計も、並行して進めています。インタープレナーの方々が活躍できる仕組みを本当の意味で実現したくて、それが完成したら、ちょっと革命的だなと思っています。

- どういった制度になっていくのでしょう?

新しい産業や事業をつくることで得られた成長利益を、それに貢献してきた人たちで分配していこうという仕組みですね。信託型ストックオプションという仕組みを取り入れ、SUNDREDやトリガー事業の社員や株主でなくても利益を享受できる制度を目指しています。「会社に雇われる」「業務を受託する」「株主になる」という形じゃないと会社の成長に伴う利益を受け取れないというこれまでのあり方を変えていきたい。これができれば、例えば大企業の複業禁止みたいな考え方に一石を投じることができるんじゃないでしょうか。

また、SUNDREDのプロジェクトでは、新産業が創出される社会的インパクトと、トリガー事業やその隣接領域の事業が急成長していくことから生み出される財務リターンは両立できることが証明され始めており、これをベースに更に大胆にプロジェクトに対して資金を呼び込んでくる仕組みについても検討を進めています。社会起点で新たな目的を共創し、ヒト(インタープレナー)、モノ(エコシステムに参加頂く企業や研究機関が持つアセット)、カネ(社会的に意味があり、かつ高いリターンも望める新産業共創プロジェクトへ集まるお金)を集約し、適切なプロセス(新産業共創プロセス)に基づいて、プロジェクトを進めて目的を実現していく。このような新しいパラダイムに相応しい、新しい価値創造の仕組みのイメージはもう出来上がっているんです。

- なるほど、よくわかりました。最後に、これからインタープレナーを目指していく方々や、SUNDREDの取り組みに興味を持ち始めている方々に、メッセージをお願いします。

新産業づくりを実践していくことはすなわち、「会社人」ではなく「社会人」として生きることです。SUNDREDがやろうとしているのは、「これこそ、社会人としての生き方」という新しい方法を全ての人に提供していくこと、そして新しい価値創造の仕組みを創りあげていくことだと思っています。

これからぜひ、一緒に「社会人」になっていきましょう。

- ありがとうございました。


留目真伸インタビュー①

留目真伸インタビュー②

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SUNDRED / 新産業共創スタジオでは2月17日〜19日にカンファレンスを開催します。

インタープレナー、企業およびその他の組織、起業家・スタートアップ、それぞれの観点から新産業の共創について考えていくとともに、具体的な新産業共創プロジェクトについても皆さんとディスカッションしていく機会とさせて頂く予定です。是非ご参加下さい。

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2月17日(水)
【テーマ】ライフデザインのトランスフォーメーション
【キーノート】対話で生まれる新しい人生デザイン
【新産業セッション】
セルフデベロップメント産業 / フライングロボティクス産業

2月18日(木)
【テーマ】新産業の科学 - エコシステム発想の事業開発 -
【キーノート】4象限モデルからの新産業創出
【新産業セッション】
ハピネスキャピタル産業 / プレコンセプションケア産業

2月19日(金)
【テーマ】起業家は新産業の夢を見るか?
【キーノート】事業創出・起業の新しいカタチ
【新産業セッション】
ユビキタスヘルスケア産業 / フィッシュファーム産業

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