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"新規事業"に立ち向かう矜持 ~経営コンサルの視点から~

背景

ある業界での新規事業検討案件にアサインされた私が、新規事業の戦い方や心持ちについて、アサイン前に知っておきたかったことを綴ってみようと思う。

目的&ゴール

目的:コンサルタントとして新規事業立案にアサインされる方や、事業会社でいきなり新規事業の検討を任された方が、プロジェクトが始まる前に最低限キャッチアップすべきことを理解する。

ゴール:新規事業プロジェクトで実施すべきことのイメージが湧いている状態となっている。

新規事業とは?

様々な定義があるが、個人的には「企業にとっての大義を掲げられる領域で、既存の儲ける仕組みとは別の儲ける仕組みを検討して構築すること」だと考えている。

さはさりながら、新規事業を実施するための、大義はロジックが通っていればよい。要は、カウンターが大企業の場合、特に経営層に説明して筋が通っていると思ってもらえることが大切といえる。

新規事業立案の進め方は?

私自身の経験より、5つのステップで検討を進めるとよいと思われる。その際に、最終的な事業計画の目次と盛り込むべきコンテンツを先に、カウンター含めてグリップしておくこと。

さもないと、手戻り等が新規事業では多発する。(システム案件の比ではない。まあシステム案件はやってみたらダメで、最初からスタートして大炎上パターンになりがちではあるが、、)

①事業コンセプトの定義
事業コンセプトとは、なぜこのビジネスをするのか、どんなビジネス領域で展開するのかに関する概念であるととらまえている。
考える際にはワークショップ等を実施して、下記のアプローチ等で具体的な利用シーンを含めたイメージを作り上げていくことになる。
ワークショップの際には、ある程度枠組みを運営側で用意しておくことで、発散しすぎで、収束しないということを防ぐことができる。
・既存の業界×プロダクトの組み合わせアプローチ
・顧客ペイン&ニーズからのアプローチ

ポイントは、0から新しい仕組みを生み出そうとしないこと。
そもそも、そんなにクリエイティブなものは世界のどこかしらにいる天才が既に考えているからだ。

そして、いくつかのコンセプトの中から絞り込んでいく際には、市場規模や自社のリソースが活用できるかという視点よりも、「やりたいことか」「非常識か」の観点で選定するほうがおもしろいものとなりやすい。

②提供価値の定義
コンセプトに従い、「誰に」「何を」提供するのか、を突き詰めていく。戦略の人は、「バリュープロポジション」という言葉で表現する。

まず、「誰に」を考えるときには、家族といったフワッとしたターゲットではなく、「共働きで、保育園に子供を預けている家庭」というように具体化する。

次に、ターゲットとなる「誰に」に対して、何を提供すると嬉しいかを考える。例えば、「共働きにもかかわらず、女性のほうが仕事や育児をしている割合が多い状況から、平等に家事・育児を分担できるような仕組み」といった感じである。

2ステップで記載したが、実際検討する際には、この2つの間を行ったり、北入りして精緻化していくことになる。
ウォ-ターフォール的な進め方とは違いあくまでもアジャイル的な進め方のほうが考えやすい。プロジェクトスケジュールを検討する場合には、このあたりの行ったり来たりも織り込んでおくようにしたい。

③バリューチェーンの検討
バリューチェーンとは、顧客に価値をとどけるまでの一連の流れを示したもの。製造業であれば、R&D→調達→製造→流通→営業→カスタマーサポート、といったイメージである。
その際に、経営資源である「人」「モノ」「金」「情報」がどのように流れるか、ちゃんと流れるかを図示化して検証することで、抜けもれなく検証することができる。

いきなり描くのは、結構コツ・慣れがいるので、まずは「ビジネスモデルキャンバス」で頭を整理するのが個人的には良いと思う。(下記参照)
どのようなパートナーと組んで、リソースを活用することで、どのような活動を通して価値提供するのか。
価値提供する際には、どのような関係性を構築していくのか。長期的なのか、短期的なのか。
どんなセグメントを狙っていくのか。

キャプチャ

出所:ビジネスモデルキャンバスとは?活用のための3つのステップ

④マネタイズ方法の検討
マネタイズとは、誰から、どのように、いくら、とるのかを考えることである。その際に、価値を提供する先(顧客)から取得するだけではなく、第三者から収益を上げられないかを考える。
例えば、テレビは消費者に対して情報提供を無償で実施している(NHKは例外)が、恩恵を受ける消費者ではなく、広告を出すスポンサーからマネタイズする仕組みとなっている。

また、価格設定については詳細はPoC(概念検証)をしながら、決めていくのかもしれないが、その金額を自分がもし顧客であったら、払う価値があるのかを自問自答すること。
そうすると、意外にお金って払わないよね、ということが実感できる。では、どうしたら払ってくれるのか?と一段深く思考できる。

値付けこそ、戦略の要諦といえるが、下記の3つが方法としてあげられる。
どれか1つを選ぶというよりも、その要素も加味して総合的に価格を設定する必要がある。
・コストプラス(コストに得たい利益を載せて、値付けする)
・競合ベンチマーク(競合サービスの価格に合わせて、自社のサービスの価格を設定する。コストと利益はそれに準じて設定する)
・バリュープライシング(顧客が支払う価格に対して、最低限の部分を実装して提供する)

⑤ビジネスケース(収支計画)の構築

複数パターンを検討する。何がドライバーを明確にすること。例えば、顧客数×単価といった場合に、単価はコストを踏まえて妥当は値としてた時には、どのような顧客数が想定されるかに基づいてケースを構築していくことになる。ケースとしては3パターンが主流。

・アップサイドケース(楽観ケース)
・ベースケース(標準ケース)
・ダウンサイドケース(悲観ケース)

何度も見直しながら、時間軸としては2週間程度で作り上げていくことが多い。

ビジネスケース見直しポイント(By パートナー)
・本当にその金額払う価値あるか?で、価格設定せよ
・固定費ではなく、変動費で調整する。固定費を上げると少し売上げが下がっただけ赤字になってしまう。
・変動比率を高めるように設計するべし
・営業利益率40%とかありえないので、20%がMaxとして考えるべし
・新規市場の場合には、クープマン予測値が6年目以降に到達するとしてユーザー数を調整する方法もある。最終手段だが、新規事業は市場が形成されていないのであり得る話

実際に新規事業を検討する中で意識するポイントは?

ここからが皆さんに最も伝えたいこと。
新規事業案件は、0→1を生み出すものであり、
既存事業のように、1→10や、10→100にスケールさせていくものとビジネスの性質が違う。本当に違うのだ。。
(まさに今回のプロジェクトで私が痛感した、、)

それゆえに、新規事業に携わる際には、下記の3つの矜持を頭の片隅においてほしい。

①答えのないゲームなのだから、カウンターとの信頼関係がすべて!
新規事業を大企業で検討するとなると、背景をきっちり押さえておくことが本当に大切。というのも、カウンターの担当者も実は上に言われて実施しているだけで、本気で立ち上げようとはせずに検討した実績が欲しい場合も往々にしてあるのが現状であるからだ。
そんな中であるべき姿を突き付けるのはナンセンスでもある。

私の場合、背景を知らずに違った方向に進めてしまい、カウンターを激怒させてしまった。(ディレクターがちゃんとレビューしたにかかわらずw)
そこから関係をうまく作れずに、相手のああでもない、こうでもない、に振り回される悪循環に陥ってしまい、精神的に相当しんどかった。

大尊敬する方にアドバイスもらったのだが、「僕のこと嫌いですか?」とカウンターに聞くのがよいとのこと。
たいていの場合には、その仕事であなたが担っている役割が嫌いなだけで、人間的に嫌いではない場合がほとんど。もし、嫌いと言われたら、さっさとリリースしてもらったほうがよい。
答えのない、新規事業では相手との信頼関係がすべてだからだ。新規事業独特ともいえる。

②千、3つ!
新規事業はめったに成功するものではない。その確率は、1000あれば3つ程度であるといわれている。要するに、めったに成功しない。だからこそ、アントレプレナーはチヤホヤされるのである。(イーロンマスクや、ホリエモンなんかがまさにそう)

あなたに納得感ある根拠を突き付けられて説明されたとしても、カウンターの方がこれまでに複数の事業の立ち上げを経験(成功も、失敗も含め)しているのであれば、「絶対にうまくいきます!」、なんて口が裂けても言ってはいけない。
根気強く、毎回変わる気になりポイントを一緒につぶしこんで、地道に積み上げていくことが不可欠である。

あなたが考えたことは、すべて世の中でやりつくされているのが現状である。海外の同じ業界で、どのような類似の取り組みがあればパクって、検討することで、「どうしますか?」という答えのないゲームから、「この中でどれにしますか?」という答えのあるゲームに転換を図ることが重要である。

③仕事の自分と、プライベートの自分を分離すべし!
3つの中でどれが一番大切か、というとこれだ!
実は私は最終報告直前に、PPTの矢印がまっすぐ引けないくらい追い詰められてしまったのである。約2か月間、長時間ハードに働いていたこともあり、最後の最後で心が折れてしまった。
カウンターのお客さんに言われることがつくづく空虚に思え、やるべきことはわかっているであるが、全く手つかずになってしまった。
所謂、"バーンアウト(燃え尽き症候群)"というやつだ。

上司に勇気をもって状況を伝え、少し休みをもらって回復し、納品等々は結局対応したが、もしあのまま踏ん張っていたら完全メンタルにやられていたかもしれないと思うと、正直ぞっとする。

自分に足りなかったのは、カウンターとの信頼関係が深められなかったこと、大企業で実施する新規事業にあるべき論を突き付けてしまったこと、に尽きるのかなと。
あとは、新しいことをやろうとすると、ダメ出しばかりされて、褒められることはほとんどないものという心構えも大事だと思う。仕事とプライベートの自分を分離して、何を言われても仕事上のこと、と割り切ることが新規事業では不可欠だなと思う。

まとめ

企業にとって、新規事業は花形感が満載であるが、オペレーション要素の強い業務とは別のマインドや思考で臨む必要がある。これが意識できていないと、途中で挫けることに帰結すると思われる。(私も実際にそうでした、、)

私が関わる前に知っておきたかった、3つのポイントを頭の隅に置きつつ、今後、新規事業に携わられ方々にはワクワクして、健やかにプロジェクトを過ごしてもらえれば望外の喜びである。

参考:おすすめ本

 - 成功する事業計画書のつくり方
マンガ形式でストーリーが面白い。加えて、新規事業にかかわるエッセンスが凝縮している。事業計画書の作り方というよりも、それまでの検討ステップを明確に記述してある印象。
初めて新規事業に携わる方に特におすすめ。

- 事業計画書作成講座

こちらもいかに事業計画書をまとめるかをストーリー形式でまとめてあり、読みやすい。具体的な事例が多めでイメージがわきやすい。


- ビジネスモデル2.0図鑑
ビジネスモデルとは?が図鑑形式でわかる名著。コンサルが経営会議用に拵える資料はこれを多少なりともインプットしているものが結構あるのでは、と個人的には思っている。


まさかの全文無料公開もされていますが、紙で買って本棚に是非入れておくとよいですー!(うちのパートナーも「オーバービューは押さえられるから、絶対に買え!」と申していました。)

- イノベーションのジレンマ
新規事業にかかわる人は必読。いかに大企業を出し抜くか、の要諦が詰まっていて、Silicon Valleyのアントレプレナーは本書をバイブルにビジネスを考えているそう。

                   ~Our journey will still continue.~   

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