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2019.2.17(日) 物語りの力、想像力の翼 ー おぼんろ 「ビョードロ ~月色の森で抱きよせて~」 観劇記録

「おぼんろ」という劇団がある。
知っている人は知っているという界隈では有名な劇団だと思います。
僕も知ったのはほんの一年前で、葛西臨海公園の特設テントで行われた、「キャガプシー」を観たのが初めて。
そして、今回の「ビョードロ」が2回目です。

主宰の末原さんの一人芝居だったり、劇団員のさひがしさんの企画や野良の秘密集会なども観に行ったことがあるので、もっと観ているような感覚だったけど、「おぼんろ」としての公演を観るのは2回目なんですよね。

「おぼんろ」という劇団の世界観は独特で、演じられるのは「物語り」であり、それを演じる演者を「語り部」、観客は「参加者」と呼ばれます。
「語り部」によって語られる「物語り」は現実とは別の世界。
ファンタジーという言葉はあまりぴったりとこない。
絵本の中に迷い込んだような、おとぎ話のような、昔話のような、文字がない世界で口伝で伝えられてきたお話のような、やはり「物語り」というのがしっくりくる、そんなお話。

ビョードロと言うのは、鬱蒼とした森の奥底に住まう民の名前。彼らは、「病原菌」を作り出す技術を持っていて、何百年もの間、忌み嫌われてきた存在である。しかし、作られた病原菌は細菌兵器として戦争や政治に利用されることが常であった。

あるとき作られた一体の病原菌はジョウキゲンと名付けられた。彼は彼なりに無邪気に意気込み、自分を造り出したビョードロを喜ばせるため、より凶悪な病原菌いなろうとし続ける。手を触れればどんな者でも苦痛を伴わせて殺してしまうジョウキゲンは、次第に、自分がある願いを抱いていることに気付く。それは、絶対に絶対に叶えられてはならない願いなのだった。

ぼくを感じて。ぼくに触って。ぼくに笑って。
だけど絶対、ぼくに近寄らないで。

愛に憧れながら、絶対にそれを手に入れてしまいたくない。
どうしたらいいのかわからない。
誰かに触れて欲しい、感じて欲しい、愛されたい。
でも、近寄って欲しくない。

白くガラスのような木が生える
鬱蒼とした森の奥底。
そこに住まうビョードロという名の民。
彼らの使命とは。

おぼんろが全身全霊をかけて紡ぐ、
美しくも切ない物語。

あらすじを説明するよりいいなと思って、パンフレットより長々と引用させてもらいました。
いい文章だったので。

本当に、美しく切ない、「悲」の悲しさではなくて、「哀」の哀しさの物語です。

舞台はこんな感じで、中央に四角い舞台があり、そこを取り囲むように観客席があります。
そして、中央の舞台から四方に通り道が伸びていて、中央や前だけでなく、横や後ろにも舞台装置があるんです。
まあ、囲むように席があるので、どっちが前で後ろかなんて区別がそもそも無い、とも言えますが。

語り部たちはその舞台も観客席も一緒くたになったこの空間を縦横無尽に駆け回りながら、物語を紡いでいくのです。

緞帳などは無いので、会場に一歩足を踏み入れると、もうそこはビョードロの世界です。
しかも、語り部たちは袖に待機などしておらず、参加者を席まで案内してくれたり、会場をウロウロしていたりします。
入って席まで案内してくれたのが、わかばやしめぐみさんで一緒に行った友達は大喜びでした。
そして一緒に行った友達の一人がさひがしさんと知り合いで、近くを歩いていたところを見つけてもらい、劇中に出てくるリンドンという紙幣をもらってしまいました。
なんてラッキー!

物語りの始まりはいつも主宰の末原さんの前口上から始まります。
普通、携帯電話の電源を切ってくださいなどの注意事項を伝える、前説というものがあるのですが、おぼんろはそれが無くて、口上というべき導入があるんです。
僕はそれがけっこう好きで。
参加者全員で目を閉じて、子供のように想像力を使う練習をしてみるんですね。
空想の中で、想像力を使って、森の中に分け入り、地面を踏む感覚や、風が頬を撫でる感覚、落ちている葉っぱの色を心で見ることをやってみます。
葉っぱの色は緑? 茶色? それとももっと違う色? 想像の世界なのだから、何色でもいい。
銀色かも、金色かも、シャボンのような虹色かも、今まで見たこともないようなこの世で一番美しい色かもしれない。
そうやって想像力を使って、目を開ければ、そこはダンボール紙やペットボトルや布切れで作られた舞台の中、新宿の雑居ビルのフロアではなく、そこはビョードロの住む森の奥深く。

暗転やブザーの音などは無く、末原さんの「始めましょう。よろしくお願いします」という言葉から物語りは始まるのです。
この言葉はまさに、参加者の呼び名通り、観ている者も自分自身の想像力を駆使して、想像の翼を使って、能動的にこの世界を観なければならないことを意味します。

映画と違って、舞台では全てのものが舞台上に実物としてあるわけではないことが多々あります。
俳優がジェスチャーで表現したり、照明や音響で表現することもあり、観客はそれを想像力で補うのですが、おぼんろの舞台ではそれを最大限使うんですね。

今回は再演だったのですが、登場人物の他に、アクロバットやダンスなどのパフォーマーが参加しており、まるでサーカスのようなパフォーマンスが演出に加えられていて、ものすごく芸術的なパフォーミングアートのような舞台でした。
このへんは言葉で説明するより、体験してもらった方が早いので、これを読んで興味を持ってもらえたら、ぜひ一度体感していただきたい。

物語りが終わった後の後口上で、おぼんろと末原さんの目指すところが語られるのも好きなところだったりします。
本当に、キラッキラの理想なんですけど、この舞台を観たあとなら実現できるんじゃないかという夢が見られるんですよね。

同じ時間と空間で、同じ物語を想像力を使って共に紡いだ参加者の皆さんと、また繋がれますように。

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