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「ビジネス」と「開発」という境界線を溶かし、より良いプロダクト作りにつながる時代

ChatGPTの登場は、エンジニアの業務や開発体制に大きな変化をもたらしています。

実際の活用事例や将来的に開発組織にどのような影響があるのかについて、StartupTechLiveでは「ChatGPTによってエンジニアの開発体制はどう変わるのか?」というテーマのもとでイベントを開催。

業務でChatGPTを活用している各社をお呼びしてパネルディスカッションを実施しました。

▼登壇者
末永 昌也(株式会社グロービス VPoE)
金子穂積(株式会社Sun Asterisk CTOs)
西尾 拓也(オシロ株式会社 リードエンジニア)
増井 雄一郎(株式会社Bloom&Co. CTO)


生成AIの登場で「国語力」の重要性が高まっている

末永(モデレーター):今日のパネルディスカッションは大きく2つのテーマを設けています。まず1つ目は「今ChatGPTをどう使っているのか」。まだChatGPTが出てきて数ヶ月しか経っていない状況のなかで、業務で使われている方もそうでない方もいるかと思います。

今回は登壇者の方々が実際使ってどう思っているのかにフォーカスしながら議論していく予定です。

2つ目のテーマは「ChatGPTの登場でこれからエンジニアはどうなるのか」。開発体制をどう変えていくべきなのか、結構模索している会社も多いと思うので、答えを出しにいくよりもみんなで考えていくという観点でクロストークできたらなと考えています。

それではまず、西尾さんにお聞きしたいんですが、ずばりChatGPTを開発現場でどのように活用しているんでしょうか?

西尾:業務利用という意味だと、SQLとか文字コードをたくさんのテーブルで変えなくてはならない単純作業をChatGPTに投げてしまって運用しています。あとは私自身、ChatGPTが使えそうだなと思って着目しているのが、プロダクトにおけるマイクロサービスのような単純なインターフェースのものであれば、ChatGPTを活用して人間が管理することで、より効率化されていくのではと思ったりしていますね。今のところ、ChatGPTは分解されたマイクロサービスのような短いコードを書くのは得意なのではと感じているんですよ。

末永:マイクロサービスは面白いですね。やはり小さいものの方がChatGPTでコードを吐き出しやすいとかあるんですかね?

西尾:そうですね。テストコードを書いたり、AWS Lambdaを使ってSQSにメッセージをキューイングしたりするのは、ChatGPTを使えばすぐにできるんです。LambdaファンクションやECSのイメージなど、AIが生成したマイクロサービスを人間が運用するみたいな使われ方がされると面白くなるんじゃないかと思っています。

末永:簡単なツール系はChatGPTと相性が良さそうですね。金子さんはChatGPTをどう業務に生かしていますか?

金子:弊社の中ではいろんな活用のパターンがあるんですが、開発の現場ですとGPT3.5が入っているGitHub Copilotを社内でトライアルを行っています。実際に使ったメンバーからは「このままずっと使いたい」という声をもらっている一方、一部からは「まだ導入は早いのでは」という意見もあるのが現状です。とはいえ、早めに使った方がいいだろうという判断にはなっているので、これを全社的に開放するべきか否かは議論している最中です。

また、弊社は0→1でビジネスの立ち上げ支援を手がけており、事業をどう創出するか。サービスデザインをどうするかなどは、ChatGPTを使いながらアイデアをまとめていくのは結構やっています。クライアントからも、そういったチャレンジングなことをやりたいという要望も、徐々にいただくようになっていますね。

増井:うちの場合、僕ともう一人しか開発の現場にいないんですが、今は社内のSlackにGPT-4を喋るbotと、Webインターフェースを別にもうひとつの社内ツールを使って社内全体で運用しています。これが意外に結構うまく活用されていて。「エンジニアって数学ができないとダメですか?」とよく質問されるんですけど、僕はどちらかというと「国語の能力」だと思っているんですよ。コンピューターに説明する言語が、今まではプログラミング言語だったのが、生成AIの登場によって人間の言語で良くなるという風になってきているわけです。

開発に関わる人たちで言えば、これまではコードを書ける人しか開発に参加する資格がありませんでした。それが、今後はコードがわからない人も参加するようになっていき、開発現場においてもエンジニアだけでなく、コンピューターが苦手ででもLLM(大規模言語モデル)を扱えて、プロンプト指示がうまくできる人も開発に関われるようになっていくと思いますね。LLMを扱える人は、実は国語が得意だったということもあると思いますし、そういう意味では、開発の人という概念が広がったと感じています。

末永:国語力はすごくいいなと思ったのと、開発に関わる人の概念が広がるというのは、ひとつポイントかもしれません。やはり「ビジネス」と「開発」という境界線が引かれるなかで、ChatGPTはすごく可能性を感じるところがあってですね。

ソースコードを読み込ませると、それが何をやっているかをテキストに起こしてくれて、ここの境界を超えてくると、より良いプロダクトづくりにつながってくるわけで。その辺り、お三方の話を聞いていて思った部分です。

AIによるbotとの会話は「心理的安全性」が非常に高い

さて、次の話題ですが「現場で投資対効果が出ているか」というのを、登壇者のみなさまに聞いてみたいと思っています。

増井:うちの場合、プロダクトを作るのがエンジニアではない人たちなので、普通の一般的な活用としては、一定のメリットを感じています。実際コストがかかるのかという観点で言えば、APIの使用量も全社で使って数万円ぐらいなので、それを考えると圧倒的に効果があるなと思いますね。うちのGPTはWebインターフェースとSlackチャットがあるんですけど、チャットの方はDMできないように制限をかけています。

会社のツールとして、基本的にはみんなの前で質問させるようにしているんですね。そうすることによって、人に聞くほどじゃないけどbotに聞いてみることで、コミュニケーション自体が活発になったり、ノウハウの蓄積につながったりする。有形無形含め、ChatGPTのコストパフォーマンスはすごくいいのではと考えています。

金子:コードを書くという部分に関して、社内の250名くらいのエンジニアで実験しているんですけど、パフォーマンスが上がったと答える人が半分以上になっています。そういう人たちは自然に使いたいわけですが、そんなにパフォーマンスが上がった気がしないと言う人もいますね。ただ、ChatGPTを入れることで圧倒的にパフォーマンスが上がっているのは事実として受け止めていて、投資対効果はあるんだろうなと感じています。

弊社は0→1でサービスデザインし、開発まで一気通貫でやることは得意な会社ですが、エンジニアではない人たちが開発の領域に入るみたいな文脈で話すと、ChatGPTの登場である程度予測したプランを出してくれるのは、エンジニアがいなくてもできるようになってくると思っていて。

何かビジネスを考えるといった意味では、視野が広がったような気がしています。こういった状況において、エンジニアはどうやって自分のバリューを出していけばいいかを考えていくのも、個人的には面白く感じている部分ですね。

増井:エンジニアは「心理的安全性」という言葉が好きじゃないですか。botって、あれ以上はない心理的安全性があるなと思っていて。絶対にキレない。24時間即答してくれる。根に持たない。こんな人いないわけですよ。

例えば、会社の人に聞けないことでも、いくらでも聞けるわけです。同じことを毎日100回聞いてもいいわけで。こういった環境がある前提で話しますと、エンジニアって相談しにくい人種なんです。基本的に言葉も通じないですし、時々キレられるし。たぶん、エンジニアに対しての心理的安全性が高い会社って、そんなに多くないと思うんです。

ちなみに、ChatGPTを導入してから僕の個人的な開発速度は明らかに5倍くらい速くなっているんですが、一方で、「人に聞く」ということが、今までは僕の中でプレッシャーになって聞けないこともありました。それがChatGPTの登場で自由に聞けるというのは、すごくプラスになっているなと実感しています。

末永:心理的安全性は大事ですね。エンジニアとかだったら、「初歩的なことを聞いて馬鹿にされるのでは?」と思ってしまいがちですが、ChatGPTならそれが全然ないので。上長やシニアの方も、新人や若手への対応もChatGPTにある程度任せられる部分もあるなと思いますね。

西尾:弊社のデータサイエンティストが言っていたのは、彼自身Pythonのコードは読めるけど、あまり書けないエンジニアですが、階層に必要な構造や前処理などは、基本的にGPTに投げてしまい、エンジニアの手を煩わせないように意識しているそうです。いくら心理的安全性が担保されていようと、逐一エンジニアに分析業務をお願いしづらい部分は一定あるわけで。コンテキストを説明するのに時間がかかるくらいなら、そのぶんGPTに説明した方が早いのではと思う部分もあります。

ChatGPTをうまく活用する人をいかに盛り立てられるか

末永:費用対効果を考える上で、ChatGPTをすごく使う人とそうじゃない人に明確に分かれると思っていますが、皆さんはどう思われていますか。弊社ではChatGPTの利用率は取得できていないですが、Notion AIは300人の開発組織のうち、おおよそ100人にあたる3割くらいの人が使っています。

金子:ChatGPTに限らずだと思うんですが、まだ一般的なパターンがない状況で一旦トライしてやってみるという人自体が少ないのかなと。ただ、これがデファクトになってくるのは当たり前だと思うので、組織的に見てもChatGPTをやっている人は、それを扱えるだけで一定の価値を出せるのではないでしょうか。

また、先ほどbotに何度も質問できるという話がありましたが、上長からしても「どんな質問をしているか」というのを見たいですね。このレベルの質問をするくらいなら、だいたいこれぐらいのスキルだろうと予測できますし。そういったところもログを取りながら見ていけると面白いのではと思います。

増井:うちは会社全体でも20~30人規模と人数が少ないので、ChatGPTの利用率は取っていませんが、先ほどの「3割」というのは僕の肌感覚として近いなと思っています。どんなものでも、最初に新しいものにチャレンジするのは一定のハードルがあるし、得意不得意もあるわけで。

人に会話で説明する方が楽に感じる人と、喋るよりもチャットの方が気が楽に感じる人では随分違うと思うんですよね。でも、ChatGPTを全員が使うのが目的ではないので、うまく使える人が使いこなしていけば、それ以外の人たちも後からついてくるだろうと考えています。

パソコンも、インターネットもそうだったわけですし、同じように少しずつ上手い使い方をやる人が引っ張っていく。逆にそういった人を、どういう風に盛り立てて、うまくやっていることをみんなに見せるかというのは留意している部分でもあります。

末永:コロナで社内のLT会はやらなくなりましたが、GPTの活用例をLTで取り上げたりすると、もっと社内で使う人が増えてくるのではと感じました。やはり、GPTを使ってもらった方が組織の生産性の向上に貢献できるのではと思うので、ここはしっかりと力を入れていきたいですね。

西尾:2~3割というのは弊社でも妥当な数字だなと感じています。会社として使う決断をする前から、TwitterでGPT-4がすごい話題になったというので、「自分でも課金して個人的にプロジェクトとかで使い始めた」というメンバーが結構出てきたんですよ。それで、今までやったことのないChromeの拡張を作ったりと、GPT-4をガンガン試しているメンバーが、アーリーアダプターとなっていきました。私自身も、GPT-3.5とGPT-4は全然違うというのを社内で説明する会を開いて、普及させていくことはやっていましたね。

末永:僕も割と早くからGPTを触っていましたが、社内にはもっと早くから関心を持っている人もいて。そういう人たちをいかにフューチャーし、組織全体を盛り上げていけるかが大事になるかもしれないですね。

増井:この話はChatGPTに限らず、SaaSでも同様だと思うんです。SaaSを社内に導入してもらうのも、まず一人ファンを作るのが基本パターンなんですよね。それと同じことがChatGPTにも言えることで、先んじてGPTを上手く活用している人たちが組織をリードするファンの人みたいな形で、社内に浸透させていく活動は大事なんだろうなと感じています。

後半記事(2/2)に続く

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