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芥川賞を読む#2「ひとり日和」青山七恵

第136回芥川賞受賞作。

「変わる(変える)」ということは
人生においてとても大切な要素だと思う。
変化がないと、
人生は詰まった排水溝のように
いつまでも同じところでよどんだままになっている。

けれども変わることは、勇気を必要とする。
人間の潜在意識はその生存本能から
変化を避けるようにプログラムされているらしい。
あたくしも、「変化」がはなはだ苦手である。
変わることから逃げ続けた結果の、
現状なんだなとふと思う時がある。

そんなあたくしからすれば、
一見のんべんだらりと生きているような
この作品の主人公も変化に対してとても勇敢な人物だ。
吟子さんにちょっとした意地悪をしてみたり、
自分から心が離れていきつつあると思われる恋人に対して、
「うるさいと思ってるんでしょ」
「好きな人がいるんでしょ」
「もう連絡しない方がいいよね」
等の、自分にとって望ましくない状況を確認することばを
自ら発することのできる主人公は、
あたくしにとってはまさに英雄だ。

とりたてて大きな事件は起こらないように見えているこの作品だが、
あたくしには主人公の変化を恐れない意思によって
ものすごい起伏で推進していっている世界を描いているように思える。
ささいな言動が積み重なって、
世界は動いていっている。
そんなことを思い知らされた作品でした。

特別でない日常を特別な表現によって
特別なものに変えている。
端的に言えばそんな小説です。



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