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「原子心母」の想い出

「原子心母」(原題:Atom heart mother)とは、
1970年に発売されたピンク・フロイドのアルバムです。
初めて聴いたのは中学生の頃。
当時、周囲の同年代たちが、
アイドルや甲斐バンドとかに夢中になっていた中、
「中二病」に犯されていたあたくしは、
「とにかく人とは違う音楽を聴きたい!」と必死だった。
同様に中二病だった友人に教えてもらったのがピンク・フロイド。
まずこのタダモノでない感ぷんぷんのジャケットにやられました。
当時のアルバムジャケットはたいていメンバーの写真だった。
にもかかわらず
それをあざ笑うかのような
「牛」
牛ですよ?

「牛が演奏してるんかい!」
ジャスコのレコードコーナーでそうつっこみながらも、
ださいはずの牛が
なぜか超かっこよく自分の目に映っていることにとまどいを隠せなかった。
そして帯に妙なぐにゃぐにゃした字体で印刷されている
「原子心母」というキワモノ感満載のムリヤリな造語の邦題!
(ただの直訳といえばそれまでなんですが)
「原子心母?」・・・・「げんし、しんぼ?」
その摩訶不思議な語感は一瞬にしてあたくしの心をとらえた。
もう買うしかない。
「何やねん、原子心母って」
そうつっこみながら、レジに持って行きました。

帰って裏ジャケを見たら、

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やっぱり、牛。

中ジャケを開いたら、

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やっぱり、牛。

時代を感じさせるレトロな歌詞カード(「歌と演奏」って・・)

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やっとここでメンバーらしき人の写真。

余談ですが、
60~70年代頃は洋楽のアルバムや曲名には必ずと言っていいほど
レコード会社によって邦題がつけられていました。
たいてい、「それはないやろ」というトンデモ邦題が多かったのですが、
中には、センスを感じさせる傑作邦題も少数ながら存在します。

この「原子心母」もその奇妙な語感といい、
あたくし的には傑作邦題の部類に入ります。

今、すぐ思い出せる傑作邦題は、
ビートルズの「I saw her standing there」の
「その時ハートは盗まれた」というやつです。
元のタイトルの意味など片鱗もない超訳ですが、
逆に「そこに立っている彼女を見ました」という、
英語の教科書の例文みたいな散文的な原題を凌駕するかっこよさですよね。
「her」を「heart」に強引につなげたムリヤリ感も見るべきものがあります。
今思えば、当時の邦題は、翻訳というより、
担当者がそれにかこつけて自分の表現欲求を満たしている面もあったように思えます。

さて、話は戻って「原子心母」
当時のレコード盤では、A面が「原子心母」
B面が、短めの数曲で構成されていました。
「原子心母」、あたくしは一聴してぶっとびました。
単なるかっこつけのために聴いたはずが、本当に惚れこんでしまったのです。
いくつかのピースで構成された組曲風の長いこの曲は、
バックにオーケストラやコーラスがふんだんに用いられ、
当時あたしくが抱いていたロックと言う概念をずたずたに破壊し、
「ロックって要は何でもありなんや」という
妙にすがすがしい気持ちにさせてくれました。

B面の小曲も地味ながら何気にいい曲がそろっています。

あたくしのフロイドフリークのきっかけとなった名盤です。

後にCD盤も購入し、
数十年たった今でも愛聴しています。
レコードジャケットは部屋のインテリアになっています。
見れば見るほど味が出てくる、この牛。




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