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【ほぼネタバレ!】「スリー・ビルボード」に描かれた罪と許し。

アカデミー賞最有力と評判の高い「スリー・ビルボード」を観た。
娘をレイプ殺人で失った母親である主人公・ミルドレッドが、犯人を捕まえられない警察署、しかもその署長を名指しで批判した広告看板を掲載したことで起きる波紋と、人間模様が描かれている。

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この映画のジャンルは「人間ドラマ」になるのだろうか。基本はシリアスなテーマであるものの、コメディ的要素もあり、犯人探しのミステリー要素もある。宗教や哲学が題材となっているわけではないが、その両方の要素を兼ね備えている感じもする。

そして、これだけの個性派&実力派俳優が出演しながら、過剰になりすぎもせず、人間が主役でありながら、舞台となっている町を食わずにいられるのが、この映画のすごいところだ。

あらすじからもわかるように、ストーリーは「罪」によって発生した「怒り」からはじまる。
娘を殺された怒り。犯人を捕まえられない警察への怒り。
それを隠すことなく、掲載広告として「ビルボード」に表すことにしたミルドレッド。

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職務怠慢と公衆の面前で非難された警察と署長・ウィロビーは、とうぜん怒る。その彼は、膵臓ガンに罹っていた。
それもあってか、ビルボードでウィロビーを非難したミルドレッドを町中の人たちは冷ややかに見ている。
彼女は被害者であるにもかかわらず、泣き寝入りすることなく、権力者である警察を大っぴらに非難できるほど強い女なのだ。

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彼女から始まった怒りの連鎖が町中に広がるかに見えた物語は、あることを境に急展開していく。
ウィロビーの自殺だ。
苦しい闘病生活が始まる前に、家族と楽しい時間を過ごし、元気な自身の記憶を置き土産として旅立った彼は、残された者たちに許しを求め、そして許しを与えた

キリスト教では自殺は罪だと考える。
ウィロビーは、愛する家族へは先に旅立つ罪を。
自分と警察を非難し、彼が元気なうちに犯人逮捕を求めるミルドレッドには、犯人を捕まえる前に去っていくことへの許しを請う。
そして、彼女がビルボードに広告を掲載したことを許し、さらにその掲載を続けられるように援助したのだ。

もう一人、許しとは違うが、ウィロビーによって慈悲を与えられた男がいた。それは、彼の部下であるディクソン。

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ディクソンの罪は、ビルボードの広告を承諾した広告マンに暴行したことだ。ミルドレッドは、そのに対して罰を与えるかのように、無人になったときを狙って警察署に放火。
だがそこには、暴行を起こしたことでクビになっていたディクソンがいた。ウィロビーが彼に書き残した手紙を受けとるために。

「お前はよい刑事になれる」

クビになり自暴自棄になっていたディクソンだったが、ウィロビーの残したメッセージに救われ。そして彼は、警察署が燃えたぎるなか、デスク上にあるミルドレッドの娘の事件簿を炎から守り、大火傷を負った。
彼が運ばれた病院は、先の暴行の被害者である広告マンも入院していた。しかも同室になる二人。
包帯でグルグル巻きになったディクソンに優しく接する広告マンを見て、ディクソンは彼に自分の罪の許しを請いだ。

こうして怒りからはじまった物語は、のように広まるかと思いきや、死を前にした一人の男・ウィロビーによって、許しへと昇華され伝播していったのだ。

しかし、宗教色が強い映画というわけではなく、むしろうすい。その証拠に、ミルドレッドの行いを非難しに家にやってきた牧師を、彼女は論破している。

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娘を失った彼女ならば宗教にすがってもおかしくないのだが、彼女は拒絶する。そこには、神の手にはすがらない、強い意志があった。
神ではなく、自分の命を自ら断ったウィロビーがおこなった許しによって、登場人物の凝り固まった心が少しずつ瓦解していく。

実は、ミルドレッド自身にも罪があった。
それは、娘との最後の別れとなる日の出来事。日頃の行いを戒めようと、車を借りたいという娘の要望を却下したミルドレッドだったが、それが引き金となって彼女がレイプされ、殺されたと感じていた。
ビルボードの広告は、ミルドレッドの罪滅ぼしでもあり、娘に対しての許しを請う象徴でもあったのだ。

ラストの場面。
真犯人を探しあてたかと思ったディクソンだったが、お上の事情もあってか、その男は真犯人ではなく、無罪放免となる。
その復讐を果たそうと、ディクソンとミルドレッドは二人で、その男の住む町へと向かう。
昨日の敵が今日の友となった二人は、復讐への旅へ向けてこう話す。
「もしその男を前にしたら、殺せる?」
ディクソンの答えは、「そのときになれなければわからないが、あまり気が進まない」
それはミルドレッドも同じだった。
「そこに着くまで、どうするか考えましょう」

二人を乗せた車は、果たせられる罰へと辿り着くのだろうか。それとも、許しの旅になるのだろうか。それは神のみぞ知る。

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