『小旅行.EP』/sumeshiii a.k.a.バーチャルお寿司 旅情レポート
この記事は、2021年7月30日にリリースされたsumeshiii a.k.a.バーチャルお寿司さんの『小旅行.EP』の各楽曲について、個人的な感想を述べたものです。
音楽的な分析などは含まれておりません。楽曲のネタバレはふんだんに含まれています。また、解釈違いにはくれぐれもご注意ください。
それでは、暫しの間、お付き合いください。
『小旅行.EP』のサブスク・DLリンク↓
01.小旅行(2016 Piano Demo Ver.)
ショートトリップはいつも さよならの繰り返し
耳からすうっと入ってくるピアノのメロディーと、「小旅行」という言葉がまとっている「寂しさ」や、「孤独と等しい比重を持った自由」を表すような歌詞が印象的な楽曲です。
※歌詞の表記とsumeshiiiさんの歌唱が少し違っているので、歌詞カードを見ながら聴くことをおすすめします。
02.江ノ島で海鮮丼(feat.幽夏レイ & 月舘おもち)
江ノ島で海鮮どんどんどんどんどん
江ノ島で海鮮丼を食べたくなる歌です。100%その要素だけで出来ています。featuaringの幽夏レイさんと月舘おもちさんがとてもかわいいです。楽曲のイントロからアウトロまで鳴り響いている潮騒が、いい味を出しています。
ちなみに、幽夏レイさんはsumeshiiiさんからの楽曲提供を受けてのオリジナル曲『ファジーブルーの僕らは』を歌われていて、月舘おもちさんは『ファジーブルーの僕らは』の作詞、そして今回の『小旅行.EP』のジャケットも担当されています。
唐突に差し込まれる『ファジーブルーの僕らは』のサブスク・DLリンク↓
それと、これは完全な私事ですが、この曲を聴いて、10年以上前に江ノ島で食べたうに丼の味を思い出しました。わさびの入れ過ぎで辛かったですが、美味しかったです。
03.ピクトグラム・ラブ
音には形はない それは愛も
自然と胸が弾み、心躍るような、旅の途中、あるいは夢の最中を思わせる、不思議な浮遊感と酩酊感がある曲調と歌詞の楽曲です。
どの歌詞もいいのですが、個人的に特筆したいのは、
ピクトグラム・ラブ 見つからない 愛の形、描いてみても 表せられない ああ揺れて滲んで
というくだりです。本来、「表す」ことが不可能であると示す適切な言葉は「表せない」だと思うのですが、ではなぜここでsumeshiiiさんが「表せられない」という言葉を使ったのかと考えると、「そういった持って回った言い回しをすることによって、愛の形が描けないもどかしさを表現している」という考え方と、「表せない」のではなく「表させられない」、つまり、自分自身が「表せない」のではなく、自分の持っている表現手段(「描く」という言葉になぞらえるなら絵筆、sumeshiiiさん本人に添って考えるなら音楽ということになるでしょうか)について、「表させること=表現させることができない」という苦しみを歌っている、という二通りの考え方ができます。
実際のところがどうなのかはsumeshiiiさんのみぞ知ることですが、いずれにしても、この詞はとても素晴らしいものだと感じました。
それから、この曲でのsumeshiiiさんの歌唱は、これまでのどのオリジナル曲よりも味わい深いというか、非常にアーティスティックに聴こえました。
単純に歌が上手いだとか聴き心地がいいだとか、そういうことではなくて、この曲に籠められている想いを、最大限の出力で聴き手のところまで届けようというような、『伝えたい』という気持ちがとても強くあったように思います。
(『ハッピーだけ歌ってたいよ』にもそういった節はあったと思うのですが、あちらが比較的真っ直ぐ飛んでくる楽曲だったのに対して、こちらはもっとねじくれているというか一筋縄ではいかないという印象を受けました)
04.遠くに遊園地が見える(feat.イトイ)
ゆらりゆられて夢にうつつ メリーゴーランド同じとこぐるぐる
どこか昭和歌謡チックな曲調とノスタルジックな歌詞が、心の奥のどこか、触れることのできないかつての憧憬や、ふとしたときに去来する『気づけば遠くに来てしまったなあ』という気持ちをくすぐる一曲です。
それから間奏にて、イトイさんのピアノの静かな調べで心が落ち着いた後に、ぱっと元の曲調に戻っていくところが、『電車に揺られて眠りに落ちそうになっていたところを、線路の繋ぎ目を通過するときの震動で起こされてはっとする感覚』に酷く似ていて、『旅の帰路』っぽいなあと感じました。
05.TOKYO OSUSHI 2020
ここはいつかのゴーストタウン こころの向こうにビル風が吹く
ここまでの楽曲で、感情があっちに行ったりこっちに行ったりと、ふらふら彷徨った後、トリにこの曲があることで、すごく心が穏やかになります。
暗さや重さ、切なさや、やりきれなさを滲ませながらも、不思議と力強く、勇気づけてくれるような曲調と歌詞だと感じます。
特に、一番の歌詞である
ことばはこころにつかえて 澱んでいた 長い信号を待っていた
が、二番において、
こころにつかえたことばを ゆっくりほどいていった 青い信号を待っていた
に変化しているところが、とても好きです。
短いようでいて長かった、この『小旅行.EP』という旅の終わりに、これ以上なく相応しい、素晴らしい作品だと思います。
おわりに
何が言いたいのかよく分からない文章に、長々と付き合わせてしまい、申し訳ありません。
おしまいに、一つだけ。
このEPは聴く時間帯によって心の揺さぶられ方、呼び起こされる感情が全く違ってくると思うので、是非、早朝や夜明け前、あるいは真夜中、お休みの日の昼下がりなど、色んな時間帯に聴いてみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それではどうぞ、よい旅を――Bon voyage.
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