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趣味は、人間観察。

趣味は人間観察、という人がいる。
特筆するほどの趣味を持たない人間のありふれた言い回しではあるが、私もまたその一人かもしれない、と今日ふと思った。

最近SNSで細川たかしがバズりまくっていて、何度も見ているうちになんとなくクセになってフォローしてしまった。あの独特のヘアスタイル、アートメイクバッチリの眉、ラフな普段着、謎のアクリルスタンド等、今最もアツい演歌歌手の一人かもしれない。
そんな細川たかしをウォッチしていると、どうやら本日高知県で行われるのど自慢に出演することが分かった。自然とテレビをつけていた。

最初は細川たかし目当てだったものの、だんだんと一般の出場者を見ることの方に夢中になっている自分がいた。

まさに老若男女、様々な年齢や職業の方々がそれぞれに想いを込めて歌う。中にはお世辞にも決してうまいとは言えないような方もいるし、それも含め人生色々だなぁと感じた。
愛する人のために歌う人、それをみて客席で感無量の表情を浮かべる伴侶、少年の眩しいほど純粋な歌声、巡り合わせで偶然同じ地方の勤務地で再会した同僚同士、移住仲間…
一人一人それぞれに人生があるのだということを改めて感じさせられた。

ゲストの細川たかしや瀬川瑛子の貫禄もさることながらやはり出場者たちの表情から緊張、高揚、喜びがひしひしと伝わってきて思わず引き込まれる。

番組が終わって、「ああ、私は自分の知らない人たちの人生を見たいんだ」という欲求に気づいた。

思い当たる節はある。

私は、作家の代表作より先に作家自身のエッセイを先に読むことが多い。
思いつく具体例ではヴィクトール・フランクル、ジョージ・オーウェル、ルソーだ。ルソーに至っては『エミール』を読んですらいない。

「有名な本は読んでおきたい。けれどもなんとなく難しそうだ、そうだエッセイならいくらか読みやすいかもしれない」という単純な理由からなのだが、それと同時に元々自分は「人となり」というものに強い興味を抱く傾向があるのではないかということに思い至った。

どんな創作をするかということより、どんな人間が作っているのか、ということに関心があるのだ。

どんなことを考えて生きているのかということが知りたいのだ。
「は〜そういう人生もあるのか〜なるほど〜」と勝手に想いを馳せるのだ。
「知ってどうするのか」と言われればそれまでだが、映画鑑賞が趣味の人に「観てどうするのか」というくらい野暮な質問であると思う。

だから、私のような人間にX(旧Twitter)は危険である。
Twitterという魔境では、本当にいろんな人たちが日々好き勝手呟いたり、時に仲違いしたり罵りあったり、意気投合したり団結したりの人間模様がほぼ無限に繰り広げられているのである。

「今日はどこにも出かけない日曜日。かと言ってスイカゲームやTwitterばかりやっていてもなぁ」と思い定期購読している「暮しの手帖」の最新号を手に取りパラパラとめくってみた。
美味しそうなお料理のレシピ、暮らしに役立つ一手間、手芸、マインドなどが穏やかな雰囲気の中に散りばめられている。

その中に、暮しの手帖に読者から寄せられたエッセイのコーナー「家庭学校」というものがある。
「ミルクティー」というエッセイがあった。

詳細は紙面で確認してもらいたいのだが、内容はギャンブル好きでお金にだらしなかったという筆者の父についての話だった。
離婚が成立するまでは娘である筆者にフェリーに乗って会いにきていたという父。よくない父だということは子どもながらに分かっていたが、自分には優しかったという。
フェリーを待つ間決まって筆者にミルクティーを買ってくれていたそうだ。ミルクティーの香りと、去ってゆく父を乗せたフェリーの排気ガスの香りと相まって複雑な感情を描くその見事な筆致に私はガツンと頭をやられたような衝撃とともに読後、思わず天を仰いだ。
香りのこともさることながら、「死んでも治らんバカ」と母に言わしめたその父が最近他界したという事実も淡々とした文章の中に、戸惑いなのか悲しみなのか、渦巻く様々な感情を想像せずにはいられなかった。

この筆者は暮しの手帖のイチ購読者にすぎないかもしれない。
けれどもこの文章の中に、確実に筆者や父、母の人生が存在しているのだということを考えずにはいられなかった。

どんなにだらしがなくとも、父としての自覚がなくとも、子にとって親は親、生まれながらに憎むものではない。頭では分かっていても…親子のつながりというのはそう割り切れるものではない。母にとって父は他人でも、子にとっては父も母も自らをこの世に生み出した存在なのだ。


細川たかし目当てののど自慢での気づきから始まり、Twitter無限徘徊を経て暮しの手帖読者によるエッセイに至るまで、詰まるところ私はいろんな人の人生の「のぞき」が趣味であるということがよく分かった1日だった。

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