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投げ銭は現代の「お布施」なのか

僕は以前、エンディング業界の某企業で広告制作に携わっていた。現在もその経歴を活かし、ある葬儀屋でホームページのコンテンツ制作を担っている。

エンディング業界は激動の時代が続いており、価値観の変化が著しい。制作するコンテンツにも変化は色濃く反映され、「お布施」にまつわる否定的な内容はとかく目にする機会が多かった。

現在はお布施というと、クリエイターや推しに金を落とす意味合いで用いるほうが多いかもしれない。実際「投げ銭」は拡大し続け、億単位の金が動いているというニュースが話題になった。

本家の「お布施」に忌避感が高まる一方で、新たな投げ銭という「お布施」は我先にと金が積まれる。こんな皮肉で興味深いことはない。

お布施の金額を提示すべき

近年、お布施の金額を明確にすべきという意見が広まっている。2020年のある調査では、「お布施の金額のことでよく聞く『お気持ちで』という伝統は続けるべきだと思いますか?」の問いに対して72%が「わかりにくいので料金は明確にすべき」と回答したという。
参考:https://www.dreamnews.jp/press/0000223601/

また、2022年の鵜飼秀徳氏(浄土宗僧侶・ジャーナリスト)の記事では、「お布施の金額を明示することの是非」についてのアンケートで、68.7%(大賛成 21.6%、どちらかといえば賛成 47.1%)が賛成したと紹介されている。
参考:https://president.jp/articles/-/55009

いずれも小規模な調査ではあるが、7割は「お布施の金額をはっきりと示すべき」と考えているわけだ。

対して、投げ銭はどうだろうか。配信者に「投げ銭はいくら必要か提示してください」などとコメントする野暮な人はいないだろう。そして「お気持ちで」贈られる金額も、一人の配信者に対して億単位のお金が動く時代となっている。

本来の意味での「お布施」が配信文化のなかで根付いてきているのに対し、お寺への「お布施」では金額の明示が求められているのは皮肉が過ぎる。

安寧をもたらしてくれたことへのお布施

配信のコメント欄では、「助かる」「生きがい」といった言葉が常用される。おおよそ「癒された」「明日も生きていける」的な意味合いで用いられていると思うが、昔はお寺や僧侶に対しても似たような言葉(思い)が捧げられていたはずだ。

つまり、市井の人々の悩みや課題を解決する機能としても、お寺は存在している。葬儀でのお布施にしても、「故人との辛い別れを乗り越えるために手伝ってくれてありがとう」といった意味合いもあるはずなのだ。

その点で、日々の悩みや苦痛から解放されるための手段として配信を見ているのであれば、投げ銭とお布施は同義といえる。

お布施でトラブルに発展するのは、つまるところ「坊さんにありがたみを感じてないから、金なんて支払いたくない」ということだろう。

一方で、クラウドファンディングもそうだが、今でもありがたみや必要性を感じていれば「お気持ちで」金を積む文化は残っている。お布施の本質である喜捨の精神が消えたわけではない。

戒名という課金システム

露悪的に言っても、投げ銭とお布施に大差はないと思う。その最たる例が、お布施と戒名の関係性だ。

戒名は仏教徒として戒めを守ることを誓い、仏門に入った者に与えられる名前だ。戒名には位があり、皇族や社会貢献に励んだ人には高い位が授けられる。

しかし、現在の戒名はお布施の金額によって位が上がる。現代風に言い換えれば「課金すればレベルが上がる」わけだ。

札束で殴るだけのソシャゲからは人が離れるように、こんな生臭い課金ゲーをしていれば信仰心など薄れて当然だろう。

こうした課金ゲーは、バブル期に世間体などを意識した裕福な檀家から生まれたといわれている。つまりは承認欲求というやつだ。

投げ銭も承認欲求が根幹にあると指摘される。認めてほしい対象こそ違えど、一定の共通点が見て取れることは興味深い。

やや余談となるが、お布施という文化自体、ムラ社会における「エコチェンバー現象」によって支えられていた側面があるのではないかと勘ぐってしまう。
エコチェンバー現象:自分と似た考え・意見を持つSNSやネット掲示板などのコミュニティで、同じような考えを繰り返し聞き、自身の考えを肯定されることで、偏った情報だけを肯定してしまう状態。

葬儀で投げ銭は飛び交うか

断っておくと、仕事柄たまたま皮肉な対比を目にしただけで、このnoteに意味や目的はない。正直、まだまだお布施と投げ銭を同列に語る段階ではないと思う。

投げ銭は世間に与えているインパクトに比して、実践している人は少ない。日本トレンドサーチによれば、投げ銭をしたことがあると回答したのはわずか6.6%だ。

しかも金額は1,000円未満で74.2%を占めており、10,000円以上の投げ銭経験者は4.8%に過ぎない。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000166.000087626.html

「結婚式で投げ銭が有りなら、葬儀を配信したら『ご冥福をお祈りします』と投げ銭が飛び交うのかな」と不謹慎なことを考えていたら、こんなことをつらつらと書いてしまった。

オチもないので「檀家が減って困ってるなら、配信すればいいじゃない」とクソみたいな提言をして、締めとさせていただく。

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