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やすかれ、わがこころよ


暖冬らしくずっとぬるかった
雨が降った春先、真空みたいなかんじ。首元がすかすかした服を着たい年はだいたい上手くいってない。あの図書館に行きたいのにいつまでも行かない理由を説明できない。自分が朝起きたときの気持ちさえ寝る前に分からないのは、あまりに無防備すぎるよね。神様のバランスは納得できることが少ない。

つめたい石みたいな、透き通ってこもるにおい
いつも嗅ぎたいと思っているにおいがある。街中の工事現場から漂ってくることもある。セメントなのかな。ひんやりと澄んでいて、でもこもっているようなにおい。初めて嗅いだのは中学校のトイレ掃除用具入れで休み時間になる度に嗅ぎに行ってた。なかなか出会えないけど近年では西田辺駅の地下道。数年前なのに覚えてる。嗅ぎたい。

塾の蛍光灯
街の中でいちばん黒くて汚い色をしていると思う。黒が混じった白は逃げ場がない色をしていて、信号待ちをしながら見上げているだけで苦しくなってしまう。これは私の記憶がそうさせているのか。中学生のとき、塾で数学の先生に「この文章題で出てくるジュースはりんごかな、ぶどうかな、と考えてはいけませんよ。」とこちらを真っ直ぐみて言われた。


スーパーの2階
うっすら埃の積もった焼き芋焼き機、スライサー、テープカッター。いつまでもいつまでも同じクイズ集が並べられている本棚。身動きひとつ取らないおじさん。ここに居るとき、自分には居場所がないのが良くわかる。時間はたくさん持っているはずなのにいつも焦っていた、ちいさいわたし。家に帰りたいのか帰りたくないのか分からない子供だった気がする。スーパーの2階はいまでも同じ様子でいつもさみしい。あの場所にいると全部分からなくなってよく買い忘れをする。あの頃から街も人も変わったはずなのに。おんなじことを感じて去年とおんなじことを言っている。

繁華街にあるチェーンの古本屋
お酒のにおいがする。2日目の身体の中から滲んでくるお酒の、におい。100円の古本を探す。ただ100円だったらいいわけでは無い。一番のポイントは作者が死んでいるか生きているか。死んでいる人の本は古本でもいいという謎ルール。


あしたの朝ご飯の話はつながりの象徴
家で待っている人が居ることはどれだけ尊いかよく知っている。そしてどれだけおそろしいかも知っている。待っている人はきっと待っていなくても。いつどこにいても夕方になると早く帰らないと、って思ってた。もう一度それがほしいような、ほしいなと思ってるくらいでいいような。


やすかれ、と思う。できるだけ必死に安かれと。


みんな気付いているんかな。

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