北陸新幹線 小浜-京都ルートの是非



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2024年3月16日、ついに北陸新幹線 金沢~敦賀間が延伸開業した。当初の予定からは1年遅れて開業となったが、これにより北陸三県と首都圏が完全に一本で繋がり、これらの間の移動が大変スムーズなものとなった。一方、北陸新幹線は敦賀から先の区間においては、2016年に与党の整備新幹線プロジェクトチームによって小浜-京都ルートが決定され、新大阪駅までの延伸は確定こそしているものの、着工はおろか環境アセスメントさえ完了できておらず、開業の目処が立っていない。山間部や都市部を多く通るこのルートは、そのほとんどが山岳トンネルや地下トンネルによって建設されるとのことだが、このルートには京都府北部の丹波高地にある「芦生の森」の保全や由良川の流量減少、京都の地下にある遺跡の問題、大深度地下利用による陥没、更には地下水(京都水盆など)への影響などといった問題が多く指摘されている。更には、コロナ禍によって沿線住民への説明が満足に行われていない。これらの要因から京都府民からは「問題がクリアできておらず、メリットがない小浜ルートには反対」との声が上がっている。また、加賀市など6つの自治体のトップや商工会の代表で作る「オール加賀」からは米原ルート再考を求める動議が全会一致で採択され、そして自民党石川県連からは米原ルートの再考を求める決議案を6月に県議会に提出予定であるなど、小浜ルートの建設には暗雲が立ち込めている感が否めない。様々なところからの反対意見が多い小浜ルートを無理に推し進めるのではなく、今一度米原ルートなど他のルートも検討してみるべきなのではないか。

北陸新幹線両ルートの比較

そこで、今回は「北陸新幹線 小浜-京都ルートの是非」について議論したいと思います。私は小浜ルート建設に反対の立場(代案として北陸・中京新幹線、および東海道新幹線鈴鹿新線の同時整備(新 米原ルート)を提唱)から立論しますので、皆様は賛成(小浜ルートを推進すべき)の立場から反論をお願いします。なお、今回の議論では形式上是非を問う形にはしていますが、それだけではなく、北陸・中京新幹線を含めてどうすれば早期全線開業へこぎつけられるかについてもぜひ議論できればと思います。

【北陸・中京新幹線とは】
全国新幹線鉄道整備法第四条第一項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』(昭和48年告示第466号)により告示された新幹線の基本計画路線。

【前提条件および運行計画の概要】
・全列車を京都・新大阪両駅へ列車を発着させるものとする。
・米原ルートと東海道新幹線新線は同時期に着工するものとする。
・東海道新幹線では鈴鹿山脈・三重県四日市市経由の新線を建設し、東海道新幹線の全列車を切り替える(東海道新幹線には整備新幹線法は適用されない)
・米原ルートは名古屋・京都方面両方へ線路を接続し、それぞれから北陸方面へ列車を運行する。また、JR西日本が全線にわたり運行を担当することとする。

Q.環境アセスメントでは小浜は大丈夫?
A.終わっていると言われているが、実際自然環境の保全など終わっていないところもある。(20年くらいかかる?)
Q.他のルートは年数がかかる?
A.敦賀と米原は50㎞短いから早く建設できる
Q.JR東海・JR西日本は誰が運営?
A.JR西日本かと思う。

Q. 海を開発すべきだ
A.小浜は海水浴・鯖など観光資源はある一方で、アクセスが良くない。

意見・論点

1.費用対効果が薄い。→小浜ルートは8年前の試算でさえ2兆1千億円の建設費がかかり、その費用便益比B/Cは1.05(滋賀県試算だと0.54)である。費用便益比は1を超えれば採算ラインとなるので、試算結果によれば小浜ルートは採算ラインギリギリ。8年前よりも建材費や人件費が高騰している現在において、建設費はこれよりも増大する事は容易に考えられる。また、北陸新幹線は整備新幹線の1路線であり沿線自治体もそれ相応の建設費を負担するものの、小浜ルートのほとんどを占める京都府や京都市にとっては非常時を除いて大きなメリットはないため、京都府や京都市は財政難を理由に首を縦に振りにくいのではないか。

Q.政治や環境アセスメントが決まり切っている中で、ルート変更を決める必要があるのか?米原ルートが安いわけでもない。
A.環境アセスはお金がかかっているが、米原敦賀ルートの方がメリットが多い。脱線防止・既存の運行システムの観点から、こっちの方がメリット。

Q.米原ルート(新大阪発)1時間7分・小浜ルート(1時間20分)運賃6500円 サンダーバードは4500円安い・時間的メリットも小浜の方が高いのでは?サンダーバードの本数を多くすべき。(名古屋ルート)
A.京都の地下を通ることによって、デメリットが大きく発生する。敦賀の乗り換えが面倒くさい。新幹線と特急の乗り換えをする必要がある。キャパシティ的に難しい。また、乗り換えのない高速バスの人気が出た。

Q.米原案はJR東海が難色。JR西日本・東海の区別は?
A.鉄道運輸機構に移譲して、両方走れる仕様・システムを行う必要がある。

Q.費用対効果はどれくらい?
A.鈴鹿山脈のトンネルを掘ることになる。距離が短くなり、関ヶ原の遅延を減らすことができる。名古屋から中国地方・九州への時間を短縮することができる。費用対効果は1を超えることができる。

2. 国定公園を通過すること、また京都市内を大深度地下で通過することによる環境問題。→小浜ルートの途中には、京都丹波高原国定公園が大きく横たわっている。ここには国内有数の原生林かつ京都大学の研究林となっている「芦生の森」が存在しており、そこを通過することで「芦生の森」付近に源流を持つ由良川の水流が減少してしまうのではないかという懸念が生まれている。また、地下40m以下の大深度地下では事前の環境への影響の予測がしづらく、伏見の日本酒など、産業用水としても使われている京都盆地の豊富な地下水へどれだけ影響するのかが未知数ではないか。

3. このままでは鉄道での中京圏との結びつきが弱くなってしまうのではないか。→ 小浜ルートはあくまで対関西圏へのアクセスのみが重要視されている。北陸地方、特に北陸3県は昔から大阪発着の特急列車が運行されるなど関西圏との経済的な結びつきが強く、北陸新幹線が金沢まで延伸された2015年以後は首都圏との結びつきも強くなってきたが、一方で名古屋発着の特急列車も数多く運行されていたり、中部圏開発整備法によって北陸地方は中部地方の一部に区分されたりなど、中京圏との結びつきも依然強い。小浜ルートでは中京圏からの不便なアクセスは現状維持となってしまい、高速バスといった競合他社への顧客の流出は避けられないのではないか。

Q.米原は作る段階は安くてもその後にはつながらないのでは?
A.北陸新幹線の駅として、需要は取り込める。経済的価値はある。しかしそれに払う代償が大きい。京都の産業がダメになる可能性がある。

予想される反論・再反論

  1. 建設費用がかさむのでは。→たしかに同時並行で2つの路線を建設するため、現行ルートと同程度もしくはそれ以上の建設費用が見込まれる可能性が高い。ただ、慢性的な財政赤字に苦しむ京都市や京都府の財政を傾かせないこと、対関西、対中京の両方の需要を喚起できること、そして何より建設に伴う自然環境や京都の地下水へ与える影響リスクを減らすことができることが大きなメリットである。

Q.1973年の整備新幹線5線は50年間かけての約束、北陸のゴールデンルートの構想があるが、北陸と京都をつなぐことが、観光への起爆剤となるのでは?
A.50年前の法律で、法定経由地となっているが、50年前と50年後は状況が違う。今はそうではない。維持管理にお金がかかりすぎる。

Q.田舎のコミュニティを維持するためには必要
A.政治的思惑が強い。コミュニティを維持するためには、小浜に特急を多く通るようにするなどの工夫をしやすくすることでも改善できる。

2. なぜわざわざ三重経由の新線を建設するのか。→現在、既に東海道新幹線のダイヤは過密となっており、さらに東海道新幹線と北陸新幹線は信号システムの違いから、容易に直通運転をすることができない。そこで、新線を三重県方面へバイパスを建設し切り替えることで、東海道新幹線のダイヤに支障をきたさずに、北陸新幹線と東海道新幹線を分離することができる。また、新線には冬季に発生する関ヶ原付近での積雪に伴う遅延を解消できたり、京都~名古屋間の距離が既存ルートよりも短くなることか、東海道新幹線全体の所要時間短縮につながるなど、メリットも大きい。そのため、国策である国土強靭化の一つとして新スキームのもと建設すればよい

3. 滋賀県や福井県、および東京行きの列車がなくなる岐阜県の調整はどうするのか。→たしかに、北陸・中京新幹線については北陸新幹線 米原ルートの一部として建設されることになるために整備新幹線法の対象となることが考えられるので、滋賀県や福井県、特に小浜ルートを渇望してきた小浜市との調整は必須となる。その際、小浜線の存続や北陸本線・湖西線を経営分離しないなど、ある程度の見返りは必要となるかもしれない。

Q.福井県が日本初の原発の見返りに小浜ルートを認めたが、こうした現状を踏まえれば、現状維持の案でよいのでは?
A.京都府民・京都市の考えとしては、自分たちの負担も考えたら、推奨はできない。
Q.米原案でも滋賀県にメリットが出ないのでは?
A.米原ルートの方が合理的。リニアが通る予定もあり、東海道が乗り入れる余裕がある。

4.果たして本当に路線の切り替えはできるのか。
→新線はこれまでの整備新幹線の事例と同様、鉄道・運輸機構が施設を保有して運行会社のJR東海に対して線路使用料などを支払わせるようにする。また、既存路線の譲渡についても、既に政府がリニア建設に投入した財政投融資を活用するなどして政府が買い取り、新線と同様鉄道・運輸機構の管理下においてJR西日本へ運行権限を移譲するなどで可能となるであろう。

参考文献

滋賀県「北陸新幹線敦賀以西の3ルート案の試算結果」
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kendoseibi/koutsu/12430.html 
北國新聞「京都で米原ルート求める声 小浜なら「メリットない」 【日曜特番・北陸新幹線敦賀以西の整備】」
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1396801 
産経新聞「北陸新幹線「小浜経由は金科玉条か」 敦賀開業3カ月「米原ルート」の再考求める動き」
https://www.sankei.com/article/20240614-ZY6KDXJCLBLT3N2QUQGJRT5WMM/ 
京都新聞「社説:北陸新幹線の延伸 再考すべき京都の地下縦断」
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1219994
MRO北陸放送(TBS NEWS DIG)「「小浜派」と「米原派」のゴングは鳴ったのか 北陸新幹線の延伸”仁義なき戦い”のゆくえ」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mro/1231731?page=5 
タビリス 鉄道計画データベース「北陸・中京新幹線」
https://railproject.tabiris.com/hokuriku-chukyo.html 
東海テレビ放送「北陸新幹線の敦賀延伸で話題に…国の基本計画の“北陸・中京新幹線”構想 専門家「滋賀県の動向がポイント」」
https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20240505_34010 
春野伊吹「北陸新幹線米原ルートを再考する〜東海道新幹線とあわせて〜」 
https://note.com/haru_ibuki/n/nc5eabba46123 
鐵坊主「加賀市長が米原〜新大阪をJR西日本に移管という大胆な提案【そんなことできるわけ無いだろ、と言わずに、敢えて実現性を考える】」
https://youtu.be/Lsnqh8BbASg?si=GHQvQ4SL2ZAmy74O 
鐵坊主「米原ルート推しが多いので、敢えて実現への解決策をご提案【基本的に相当困難だと思いますが…】」
https://youtu.be/G2ZbqpnkpGQ?si=tPrmUnR5rna_sztV 

【先生からのコメント】

在来線の第3セクター化が背景にある。国鉄100年の悲願。
路線が狭く、高速鉄道を走らせることができない。
新幹線の最終的な理想像はリニアモーターカー。
政治的思惑関係なく、新幹線が在来線となる社会がJRの本来の理想。

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