破廉恥憧憬紀 一
「恥を残して死にたくない」
田舎の病室に臥せっていた高島は窓外を見つめて言った。その表情は捉えがたい。
まさか友人が齢二十五にして死を迫られるとは意想外であった。その死が身近であればあるほど、実感は湧かぬものである。
高島は昨年の六月、精神を患った。職場での人間関係の拗れであるという。
「俺にはもう無理だ。何もかもが灰色だ」
「最近流行りのハラスメントか?」
「思い出したくもない。少なくとも今は無理だ」
「今日は黙って呑むのが乙というわけだな」
実際、その日の高島は負田(おんだ)の歓楽街で酒も飲まず俯くばかりであった。存外事態の深刻さに私は心慌しくなったのを憶えている。
高島はその後ほどなくして職を辞した。精神疾患であるならば、今時は診断書を簡単に入手できる。幾らかの手当てを得ながら休職すればよいと助言したが、本人はそれどころではなかったらしい。
高島は依然として生気を失っていたが、その理由を明かすことはなかった。
ある日ニュースを見ていると、日本の平均寿命がここ五年ほど前年を下回っているとのことであった。それも急激なものであるという。政府は有識者を集めて原因の究明に努めるとしていた。
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