脳は進化する~脳の可塑化 (NEUROPLASTICITY)~
あなたが、何かを決める時、頭で考えてから、その決断を下す。問題解決のステップを経ていくにしたがって、
●問題は何か
●何が問題解決を遮っているのか
●解決法は何か
●どうやれば解決するのか
と言う経緯を経て、解決策に向かう。
一遍に考えようとせず、一つ、一つ、ハードルをゆっくり跳び越えて行く感じが人間の思考法だ。
一瞬、あなたが決断内容を決めるまでのこの
「問題解決または問題解析プロセス」
は、勿論、あなたの知らぬ間にあなたの脳が瞬時に司ってくれる。あなたの知らない内に、終わるだろう。然も、誰も想像しない様な方法で。
脳は、あなたの「ニーズ」に従ってくれるのだ。この動作を「脳の可塑化」と呼ぶ。脳が、あなたの求めに応じて、一番あなたに取ってやりやすい方法で、まるで顧客対応するかの如く。脳は我々の求めに『応相談』して『対応』してくれる。
今日は、『脳の可塑化』について、話をしよう。
脳は神様の最大の発明品
人類の脳は、欧米で、
「神が創り給うた、最大の発明品」
と言われている。
進化の過程で、何がどう変わってこの人類の最大の発明品が出来たか、どう進化してきたか、いまだに謎が多いのである。
脳は、簡単に言うと、潜在意識が98%を占めており、この98%があなたの過去の経験、思い出、トラウマ、話を聴いた事から本当に知っている知識の上での「知っている」事までを含めて、全てを管理している。
このコンピュータ並みの機能性が世界中の脳医学者をワクワクさせているのだ。何故、どうやってこんな事が1日中、24時間、休みなく可能なのか、理論で分かって居ても現実として分かり得ない。
『脳の可塑化』とは
あなたの脳は、問題が発象した際に、脳内に存在する、膨大な「経験記憶」の中から、現在あなたが感じるべきベストと判定される回答と思われる方法、術、感傷まで促す。その際に、術が脳内に見つからない・または、未だ試行したことが無い場合、脳は『新たな応用策』を取り出す。
この応用策は、時に、『劇的な脳内ネットワークの再生や新生』を作り出し、新たな方法になりえる。この新たな応用策を創生する機能が、脳の可塑化と呼ばれる神経ニューロンの活動だ。
今まで、「心理的な問題」と言われていた幻肢痛が神経の問題であって心理原因ではなかった事実や、リハビリプロセスに於ける成長を遮る一種の問題や躓きの解決に貢献した。
脳は、問題解決の為に、決まりきった活動ばかりでなく、新たに新規神経ニューロンが創生されていた、と脳科学者達が気付いたのは、ごく最近の事だ。
この新たな神経ニューロン進化を前に、新たなリハビリプログラムや新たな問題解決方法が登場したのは、言うまでもない。
脳の記録倉庫
あなたの脳にある記録倉庫は、PCで言うと、ファイリングシステムだ。ちょっとしたエクスプローラー擬きなのである。だから、頭をぶつけてはいけない。頭蓋に対する大きな外傷は、中に入っている大脳に大きな影響を与えるからだ。
そう。ありとあらゆるあなたの経験事項は、些細な出来事まで、全て、規則的に分別され、大脳がそれらを保存し、大切に保管して持っていてくれている。あなたは編集も出来ないし、新しい名前をつけて保存も出来ない。だが、これらはあなたが経験した事実なので、あぁ、あの事か、と変にくっきり思い出したりするのだ。
脳は、あなたが如何に脳や身体を大切にせず、知らん顔して身体を酷使したとしても、あなたがこの世に生まれ落ちてからと言うもの、いつの時にも、あなたの行動、言動、影響、感情、感傷、受けた身体的な傷、他人との関係、病気、思い出、受けた心理的なトラウマに至るまで、全てを一つ、一つ、大切にファイルしているのである。だから、頭を傷つけてはならない。あなたの歴史が吹っ飛んで行ってしまうからだ。
犬猫が無償の愛をくれる様に、自分の身体も、自分自身に無償の愛をくれている。脳は、その一例とも言える、『超高級な機能』だと言えるだろう。
現在、あなたが直面している問題の解決法として、今のあなたが今までに経験した全ての感傷、決断、出来事、「あなたのあなたである故の由来になるような、生まれてから今までに於ける、全ての経験」から参照した結果、一番妥当で適当と思われるものを宛がうのが通常の脳の活動だが、脳の可塑化は、それが廻りくどかったり、辿り難かった場合、もう一歩、プラスワンで新たな道程を加わえて、解決しやすい方向性にあなたの立ち位置を変えてくれるのだ。
脳の「記憶と経験」は、あなたの脳の中に、例えば、OneDriveやGoogleDriveの様に、ファイルシステムを配置し、規則的に起こった順に配置され、丁寧に分別されて並んでいる。長期記憶と短期記憶だ。
そして、「必要である情報」と脳が判断しない限り、あなたの心に浮かびも思い出しもしない情報が、何千、何万、何億と脳には存在している。脳は、これらを的確に考慮し、参照し、管理する。但し、あなたに教えてはくれない。そこがもどかしいと言えるところかも知れない。
通常なら、この「今までのあなたが歩いてきた」経験の道程は、今のあなたが作り上げられた経緯、履歴を前提として、現在直面している問題や課題への解決策は脳の中で構造されている。
「○○については、どう決断すべきか」、
あなたに、さり気なく促そうとしている、と言う事になろう。
よって、脳は、経験に基づいているので、傾向性で言うと、その決断は
●慣習的であり、
●保守的だ。
※この保守的な決断は、時に引寄せをする際のメンタル・ブロックとして表現される事もある。
現状維持を優先して保持したがるからだ。が、脳は、トラウマなしにあなたにより良い結果を齎すべく、これらのメンタル・ブロックを齎す。これらについては既に他のエッセイで語ったのでその辺をお読み頂きたい。
さて、そんな私達を守る様に脳が形成する『可塑化』について、もっと話そう。
脳は、可塑化する。脳の可塑化とは、どういう意味か。
可塑化は新しいオプションを作り、あなたの学びを生まれ変わらせる
GEMINIに尋ねると、一番シンプルにこう言った。
「CHACHAさん、『脳の可塑性』についての質問ですね。
『脳の可塑化』とは脳の神経細胞群が新たなネットワークを築き、生まれ変わることです(マクロ的可塑性)。
繰り返し練習することで一過性ではなく持続的なネットワークが構築されることです。
例として、学習や記憶、麻痺の改善(運動学習)などがあげられましょう」。
さすが、GEMINI。的確にポイントを捉えている。PCではないので、脳はあなたにオプション料など請求しない。その代わり、この創生を成就させるにあたり、詳細な状況把握が必要になる。この詳細な情報源をもとに、脳は可塑化するのである。
その情報源は、医療情報や、特大トラウマ(例えれば、肢体の切断ややけど、それに対する身体の制限、制限に対する挑戦的リハビリや幻肢痛へのあなたがするべき対応や、特大トラウマに対するさらなる悪化からの回避策が求められた際の対処等など)に、リハビリプログラムなどで努力を重ねていると、或る日、脳がすべてをキャッチして理解し、可塑化した結果、神経のネットワークが新たに形成し、新たなニューロンの道程が確定され、対応が認識される。
脳だけでなくあなたの身体には、小さなミニマイクロンの神経細胞達が常時体内で相互作用し動いて、刺激し合って繋がり、ネットワークを形成している。このネットワークで行動X1については言動X1±で返す、とか、ある一定のレベルで対応するリアクションが設定され、決まっている。ソレ等のグループをカリオグラフするのは、大脳なのだ。
心で感じ、身体でさらに感じる痛み、悲しみ、喜び等々、あなたの心に感じられる一つ一つの感傷から、症状や外傷経験により経験する疼痛まで、理論的に判断する会話、試験、面談、例えば契約書への対応やら、細かい仕事、さらにはプライベートに於けるあなたの恋人や配偶者との会話などまで、脳神経は、一つ一つのたどる道を読込み、理解して今までの経験に基づいて、脳が引いてくれた道程を辿る。つまり、我々は、脳が導く通りの道程を辿るのだ。そして、それらの大体は、今までの人生で学んだ経験に基づいてベストな道のりを辿る。
脳の機能からの指令
併し、たまに与えられた問題が大き過ぎて対応が出来ないと脳が判断した場合、脳は「可塑化」するのだ。つまり、驚くべき新たな道程を作り上げ、成長させ、さらにそこからあなたを進化するのだ。
脳は、ギブアップしない。代わりに、新たに的確に結果を導く道を敷き直す。
この脳の可塑化作業を見つけ認識したのが、V.S.ラマチャンドラン MDである。
一番分かり易い、有名なケースで説明しよう。
幻肢痛
リチャード(仮名)は30代のハンサムで頭も良く、真面目で逞しい青年だ。彼は、米国海兵隊に入り、職業軍人として、日々の糧を得ていた。
或る日、トレーニング中の事故で、リチャードは、突然、左側の肘から下の片腕を失った。
肢体の一部を失っても、絶望せず、リチャードの人となりは変わらなかった。今まで通り、努力してリハビリに励み、その努力を重ねた結果、如何に不自由が有ろうと、今では片手で何でも出来、独立した生活が可能になっている。車も運転出来る。
正常人同様にゴルフも出来る様になった。
過大なる絶え間なき努力の結果と言えよう。皆がリチャードを敬い、尊敬した。
だが、この真面目なリチャードには、不可解な悩みが一つ、あった。
リチャードは、朝、顔を洗うと髭そりをするのだが、その時に不可解な触感が彼を襲い続けていた。
脳神経医学博士の友人で、彼のリハビリ対策を助けたV.S.ラマチャンドラン博士に相談した。
「僕、朝、髭を剃る時に幻肢痛があるんですよ。変だと思いませんか」
「どんな痛みだね?」
「実は、痛みじゃないんですよ。ただ、『触感』が感じられるんです。ある筈の無い場所で。髭を剃っていると、この」
と、彼はラマチャンドラン博士に左腕の切断部分の先を右手で指し示した。
「この傷口に明らかに『触感』があるんです」
と、彼はそこを摩って言う。
「ここで確実に触感があるんです。髭を剃ると。誰かが触ってる様な」。
「…ほう...」
ラマチャンドラン医学博士の脳医学史に於ける大発見は、この患者からのちょっとした発言から始まった。
初めての出会いは軍病院で、患者も医学博士自身もいまだにこの経験を話し続けている程、この会話は1990年代、実に筆者がまだアメリカにいた頃に、起きた事象だった。つい27年程前に起こった、「ちょっとした会話」が、脳の可塑化を見つけるきっかけとなったのである。
脳には、その箇所によって、触れられている感覚を感じる事が出来る場所が定められている。私もアメリカで生物学を学んだ際に暗記した運動皮質と呼ばれる脳の中枢の機能の一部を横に切断すると、ちょうど下図の様になる。
手の形や口、顔の形でどこら辺がこの皮質で感じ触感を得ているかを見た者に伝えるべく表現しているこの図は、脳医学者をはじめとして、リハビリなどで患者に向けて医師が良く使う凡例図だ。
状況を振り返ろう。リチャードの左側の掌、手首、腕、肩部分に至るまで、運動皮質はかなり大幅にカバーしていたが、突然の外傷で、彼は肘より先の左腕をなくしてしまった。
コレをラマチャンドラン脳医学博士は、リチャードの脳があたかもリチャードとは別人の如く、擬人化してこう説明する。
「運動皮質の頂点から下向きに、色々な動作に基づく運動皮質触感の箇所が続く。この皮質の特化された箇所別に、あなたの頭から足先までの感覚が並べられて管理されているのだが、突然のトラウマで、リチャード、君の肢腕が一つ、肘から先、完全に無くなってしまった。コレは、大きなロスだと、神経が感じた。神経細胞繊維から放たれた神経細胞ニューロン達は、
『自分達が、リチャードの役に立っていない』
と、感じているわけです」。
リチャードは、説明を聴きながら、
「でも、その箇所は必要ないでしょー」
「そう。リハビリを君は懸命にした。君の神経線維達は、
『上腕にも何かを感じさせたい』、
とリハビリを君を通じて体験しながら、ワクワクして待っていたが、いつまで経っても、待てど暮らせど、上腕の感覚箇所に対応したニューロン情報が発信されてこない」。
ラマチャンドラン博士はリチャードから相談を受けてから、リチャードの頭脳をスキャンして、脳の中で彼の肩から下の上腕について、反応する神経細胞のニューロンの位置を特定した。各箇所のニューロンを色別に確定し、実際に左腕に在る神経細胞繊維とニューロンが生きているのを確認した。
ニューロンは脳に「遣って貰える」のを待っている
これについて説明を依頼されて、素人のNOVAの視聴者達に分かり易いので、神経細胞を擬人化して、ラマチャンドラン博士はさらに続けた。
「神経細胞ニューロン達は、運動皮質の触感箇所がすぐ下に顔面の触感箇所が続いている為、その辺まで自分の肩から上腕に架けての感覚を拡大して研ぎ澄ませ、この神経細胞を使ってほしい、とワクワクと使われるのを待つワケです。使ってほしくてずっと待ってるにもかかわらず、この特定箇所はお呼びでない。神経細胞繊維は、
『あれ?そんな筈ないよね』
と、自分の守備範囲が誤っているのか、と考え始める。
そこで、毎朝、歯を磨いてから、リチャードが髭をカミソリで剃っているのを知っている脳は、顔の上の方にまで神経細胞繊維のサイズを拡大した。お蔭でその為に、触感箇所が反応し、やっとの事で切断患部にも触感を感じさせる事が出来た」。
医学博士は苦笑し、
「併し、リチャードにとっては、不要の産物ですよね」。
なる程、神経細胞が自分の守り場所の運動皮質を飛び越えてリチャードの顔面神経、つまり特定すると外面口腔領域にまで「守り」を広げ、「脳に遣って貰える」のを健気に待っていた、と言うのだ。
ラマチャンドラン博士は、リチャードの脳スキャンで、腕の触角の神経細胞が大きくズレていたスキャン結果を見て、
「ニューロンはリチャードの役に立ちたいのだ」、
と言って、リチャードの持つ幻肢痛について鏡を使って解決方法を編み出した。
患者であるリチャードの視覚神経を騙す事で、簡単に解決を齎したのだ。つまり、視覚ニューロンを鏡を凝視する事で刺激し、両肢が揃っているように神経に思わせ、「誤解させる方法」を想定して、この問題を乗り越えた。
不自由な左腕の前に大きな鏡を置き、鏡の中では、両手が揃っているように見せる。
右手を伸ばせば鍵が取れる様に配置して、
「あなたが今見ているのは左手です。その左手を伸ばして、この鍵を手に取りなさい」
と患者に指示し、右手でやってはいるのだが、実際に患者の視点からは、鏡なので逆方向に見える。つまり、失われた左腕を伸ばして物を取ろうとしている自分を鏡を凝視する事で
「視覚神経に左腕はまだ生きている、と感じさせ」
たのだった。
リチャード(患者)は、自分が失った片方の腕が現実に存在しないことを理論的には、充分わかっていたが、
「鏡で見せられると、昔自分に存在した左腕が存在するように懐かしく感じた」、
と涙ぐんで言っている。
この心情がシナプスに現実味を生んだ。可塑化したのである。何故こんなに簡単に視覚を騙す事が可能なのか。
神経ニューロンは、その活動をする際に各感覚の細胞核が共同で活動する。
例えばリチャードが試行した、モノを取り上げる動作は、
●視覚皮質を通じて目に見える対象を刺激し、「見る事が出来」
●運動皮質を通じて手が動き、「動作」が現実になる。
●鏡を見せて、視覚皮質を「騙す」事で、在るべき腕の切断が神経ニューロンの視覚動作を通じて存在しない、と動作運動皮質神経ニューロンに伝えたのだ。このニューロン同士の会話、コミュニケーションをシナプスと言う。
コレを繰り返す事で、視覚動作を通じて「見つからなかった」左腕が鏡を通じて「視覚に見えて確認出来」、運動皮質を通じて鍵を左手を使って取る「動作が出来」た、と神経皮質同士で確認した。
或る日、ふとリチャードが気付くと、もう幻肢痛は無くなっていた。
ラマチャンドラン医学博士の神経細胞ニューロンとニューロンが作り上げた繊維核のチームワークをシナプスと言うが、このシナプスを使ったリハビリ対策は、脳の神経細胞の活動を利用した簡単な方法で、脳スキャンさえして、事前にシナプスが生じる場所さえ特定して設計したプランであれば、「エンドユーザのリハビリ師や患者側」には大げさな予算がそんなになくても、容易く試行出来、神経ニューロンを視覚で刺激するからそんなに大げさな機材も要らず、楽に成就出来る課題解決に繋がった。
シナプス:神経細胞皮質のチームワーク
人類の脳では、数百億個の神経細胞がお互いに連絡することで精密な神経ネットワークを作り、脳のさまざまな機能を発揮している。 神経細胞同士が連絡する接点はシナプスと呼ばれる。これらは、謂わば、「神経ネットワークの要」である。
神経細胞繊維核と神経細胞のニューロンのシナプスを使った可塑化トレーニングは、このシナプスの加減を上下増減させながら作る。
我々が子供の頃に自転車に乗る練習を両親としたことからピアノの練習をしたことまで、神経のニューロンは大脳の長期記憶を通じて憶えている。
記憶する際に神経ニューロンは新たに創生され、新たなシナプスで繋がれる。上図の様に脳の中はシナプスだらけであるが、或る一定規則が存在し、新しい経験や体験で脳が活性化されるとシナプスの通りが整頓され、良くなる。
初めて自転車に乗った頃、あなたは何度も自転車から落ち、その経験の一つ、一つがシナプスを通じて繋がれ、ニューロンを通じて定義される。
身体の重心のかけ方や身体の一定の動かし方を練習し、応用し、学んでいくにつれ、あなたは自転車に乗れる様になっただろう。この「学習」で、転ぶとシナプスの修正がなされ、乗れた際の感覚は学習経験後の成功した際のシナプスに認定される。
このようにあなたが学習を繰り返す事によって、あなたの脳の神経ニューロンは創生と再生を繰り返し、シナプスは編成と再編成を繰り返す。コレをシナプスの可塑性と言う。
身体的な記憶だけではない。ニューロンは読書中の記憶についても対応する。殺人事件のミステリー小説を読むとしよう。主人公は誰か、どう言う関係性の有る、誰の何某と付き合っていて...と、関係図から話の進展まで、脳のニューロンは絶えず書換をし、そのお蔭で、あなたは、
「あ、そうそう、花子ちゃんのママが殺されて、お父さんが疑われていたんだけど、恵理子おばさんが来て警察と話をしたのよね」などと、筋書きのフォローアップまでしておいてくれるのだ。
記憶亡失と記憶忘失
長期記憶は、膨大な生まれた直後からのあなたの思い出をすべて脳の保管庫に抱えた状態のモノだ。たまには人間の身体なので忘失もあるが、脳にはない。人間の身体が忘れる事はあり得る。
この大脳の中のシナプスの藪の中に置き忘れになってしまう
「記憶亡失」
が認知症であり、した事、話した事の記憶が全く失われた状態なので、思い出す事が出来ない状態である。
反対に、きっかけを創ればすぐに思い出せる度忘れやシンプルな物忘れ (例えば、ショッピングバッグの置忘れや眼鏡を頭にかけっぱなしで見つけられないなど)は、記憶の襞を辿り直すと「あっ、分かった」と解決出来る
「記憶忘失」
がある。コレはいわゆる度忘れで、大脳が盲点を想定してわざわざ作り上げたりするので、面倒が多い。
記憶忘失された出来事は、記憶倉庫の中で、優劣をつけられ、優先順位が与えられなかったモノに当たる。
脳が勝手に設定する記憶倉庫の引き出し情報は、
「細かくて密だった神経回路の網目が、老化によってだんだん粗くなってくるようなイメージ」
と東洋大教授、児島伸彦医学博士が語っている。
粗くなった網目から、ボロボロと記憶対象が落とされて行ってしまう。だが、単純な物忘れは、記憶の襞を辿ると、必ず見つけられる。認知症患者には、記憶の襞が無い。辿る術も無いのである。
老化で一番思い知らされるのは、物忘れだ。
「あ、あのファイルの名前、何と付けたんだっけか...。この課の担当の人、名前は何だっけ…」。
仕事をしていても、多忙な日には、つくづく、後で忘れるから書いて置かなきゃ、等と考えていると、大当たりで、全て忘れてしまう。
この手の物忘れは、記憶の倉庫に置かれた一つ一つの名前や人の顔、表情や話した内容などをシナプスでつないでいたが、強弱で言うと繋がれ方が非常に弱かった場合、脳の方で判断して、記憶倉庫から淘汰されてしまう。コレがシナプスの上下増減判断される際の優劣選定の基本である。
例えば、例を言おう。
入ったばかりの会社で、或る人と出会ったとしよう。仕事で出かけた先で紹介された。上司の▲原さんが紹介してくれたとしよう。
「CHACHAと申します。宜しくお願い致します」
と挨拶して、頭を下げると、多分、相手も一緒に頭を下げて、名前を自己紹介してくれるだろう。
さて、ここから、CHACHAの脳が出会った方への記憶における強弱優劣の選定をする。そのやり方は、下図を見てみよう。コレはニューロンがシナプスに繋がれる際の脳の新たなシナプス選定判断でどう言う繋がり方になるかを示した図だ。
「あ、初めまして、〇山と言います。宜しくお願い致します」
と、紹介された〇山さんが、CHACHAにとって非常に職務上大切な上司や、上司の上司だったとしよう。
〇山さんは上司▲原氏の上司だとすると、▲原氏も
「あ、ちなみに、この方は私の上司です」
などと、冷や汗掻きつつ、にやにやしながら紹介するかも知れぬ。
失礼が無いようにしたいのが人情だろう。
優先順位はトップに飛んでくるかもしれない。
よって、長期増強の太いシナプスで繋がれた、しぶとそうなニューロンが引っ付いて繋がれる。下図で言うと、上部の大きなシナプスだ。
今後、CHACHAは〇山さんの名前や顔を忘れたりしない。
若し、〇山氏がこの部署のパシリを仰せつかった新人君だとしよう。
4月に入った新人で、上司の▲原さんも好いように使っているし、〇山君、と呼んでいる。
目立たないタイプで、ヘコヘコしていて、皆に遣われている様だ。いずれCHACHAも〇山君、と呼んじゃいそうな若者だったとすると、目から受けた視覚皮質の刺激がシナプスにニューロンを通じ、「抑圧」(思い出す必要が無いと言う意図)の「弱性」信号を受ける。
つまり、憶える必要はなさそうだ、と言う信号だ。上図の下部にある「長期抑圧信号」は、「いずれ記憶が淘汰される予定」にあるような、シナプスの繋がり吸口も小さく、いずれ切れてしまいそうな印象である、と言う事だ。
この様に、出会いがあまりにも相性が悪かったり、相性が良すぎて初めから仲良かったり、いつもの自分の設定したレベルから外れると、印象が強い分、長期増強度も激しくなる。人の紹介だけで、これだけの情報を上下左右増減判断(取捨選択)を大脳がしているのだ。
人類の長期記憶の容量は無限だ。終わりがないが、その代わり、淘汰される情報も多くなる。
だが、淘汰されない様に、メモを書いたり、頭に入れようと暫し集中して、取捨選択を淘汰に向けない様に、再度長期増強へ再生したりするのは、あなたの自由だ。あなたがどんな人も名前を忘れずに感じよく人当たり良くいられたら、それだけで周囲の人から好かれるだろう。ニューロンシナプスのメリットとデメリットを見分けながら、毎日の暮らしを歩んでいきたいところである。
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