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歯科医の正義と患者の自立・夕張から学ぶ事 #14

総入れ歯の勉強会

2024年1月14日(日)
「リアル車座ミーティングin麹町」が4年ぶりに開催された。
コロナ禍を経て、総義歯臨床研究会「車座」の主催を
船橋市開業の森山幸一先生に替わっていただいた後の
最初のリアルミーティングだ。

久しぶりに集うメンバーの皆さんは、
其々に溜め込んだストレスを一気に吐き出すかの様に
積極的・パワフルに意見交換、ケースプレゼンテーションを
展開してくれた。

オンラインミーティングを上手く活用すれば、
オフラインが充実して、
活発・濃密な意見交換の場となる事を実感する1日となった。

皆んな、若いのに総入れ歯に取り組んでいる。
総入れ歯作りが上手になりたいという思いが伝わってくる。

が、ちょっと引っかかるな。
皆さんの話を聞いていて、
もう少し残った歯を大事に出来ないのかな?
歯医者側の理論、ペースで治療を進めていないかな?

そんな思いを抱きながらプレゼンを見ていると
森田洋之先生のお話しが頭に浮かんできた。
深い意味はない。
何となくだ。
しかし、医療サイドの正義・常識と患者サイドの自立・自律との間に有る溝を埋めるための大きなヒントがあると
常々思っている。

2014年のTEDxKagoshima by Hiroyuki Morita
今でも時々見返している動画である。

夕張に学ぶ「医療崩壊のすすめ」


「医療の介入が最小限になれば」つまり「自己管理せざるを得なくなれば」医療費は減少する。

夕張市では、病床数が減り、医者も去り、救急病院もなくなった。
CTもMRIも一台も無いが、死亡率、医療費、救急車の出動回数、全てが下がったという。

近くに総合病院、救急病院があり、医療に対するアクセスが良いということ以上に価値のあることとは一体何だろうか?
形の上では財政破綻による医療崩壊である。
しかし、実際に起こったことは
患者さんの強制的自立(&自律)だった様に感じる。
医療への依存から、予防への意識転換。

片山恒夫に出会ったその日に聞いた言葉だ。

歯科治療の現場では?


これを歯科医療に落とし込んでみよう。
歯医者が行う「抜いて総入れ歯」という治療行為は
一本無しでも生きられる状況を作る。
これは、素晴らしい医療技術である。
野生動物ではあり得ない。
反面
自然の口腔、天然歯による咬合、咀嚼、姿勢維持、運動能力の確保&向上・・・etc
という歯、歯周組織、顎口腔系の持つ本来の能力を、早期に減少させる行為になりかねない。

総入れ歯は
マイナスをゼロまで引き上げる。
更には
ゼロからプラスに向かわせるのが総入れ歯治療だ!
なんて威張っているけれど
そもそも、抜歯して総入れ歯にしてしまう行為は、
一歩間違えば「人為的寝たきり患者創造」
になりかねない。

「早めに抜歯した方が、顎の骨が残るので良い入れ歯が出来ますよ」
私が大学を卒業した1984年から、今でも継続して聞くコトバである。

違和感しかない。

虫歯や歯周病という生活習慣病を身体の外へ追い出し、
再燃、再発の芽を摘んで、
その状態を長く維持できる様にすること=自立&自律だ。

その上で、不幸にも歯を失ってしまった場合には、
総入れ歯やインプラントの助けを借りれば良いのだ。

健康長寿へのカギは
入れ歯とインプラントの作り方にあるのではない。
途中でその助けは借りても、
あくまでも自分の歯と歯肉を丈夫にすることから始まる。

ある患者さんが言った

「先生、歯が残っている時の歯医者の言葉と、
一本無しになって総入れ歯の治療が始まる時の歯医者の言葉には大きな隔たりがあるんです。
同じ患者の同じ口の中に、歯が残っているか否かの違いしかないけれど、
総入れ歯治療になった途端に、全く別の治療が始まるかの様に歯医者の言葉と態度が一変するんです。」
また
「歯を丁寧に治療してくれる先生の入れ歯治療は、一本無しなのに、まるで自分の歯の治療を受けている様に感じる」
とも。

総入れ歯は歯科治療の最後の砦、セーフティーネットだ。
そして、一本無しの口腔の治療というのは
歯医者と歯科技工士の独壇場になりかねない。
患者さんも「お任せ」の受け身になり易い。

下地作りを学べ!

自分の歯を少しでも多く、そして長期間健全に保とうとし続けてきた皆さんは、
たとえ総入れ歯になってしまっても、
治療が非常にスムーズに進む。
心身に芯が一本通った感じ
或いは
ブレがない感じ
とも思える。

足回りのセッティングが決まって、低速でも高速でもビタっと安定して走る車の様だな。

我が師:片山恒夫が作った入れ歯の形や
実際の食事の様子、その能力の高さはハンパない。

しかし、グダグダの歯や歯肉を放置した後、
総入れ歯になった途端にスーパーマンになったわけではない。
下地作り
健康への上向きのベクトルを維持し続けたからこそ出来た事だ。

そのためのアレコレを、入れ歯作りを学ぶ若い先生や技工士さん達には
もっともっと知っておいてほしいな
と思った1日だった。


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