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まちづくりの大誤解。キーマンは「よそ者、若者、馬鹿者」…ではない!

「地方創生でよく言われる『よそ者、若者、馬鹿者』。そこに頼りだしたらもうその地域は終わりですよ」

そう語るのは地方活性化のプロフェッショナル、木下斉さん。今回、私小林の新著「まちづくり戦略3.0」の出版に際し、木下さんと「田舎のまちづくり」をテーマに対談をさせていただきました。

あまりにも面白すぎて、対談のつもりが木下さんの話にすっかりのめり込んでしまいました。ご本人にも許可をいただき、二人で話した内容を一部noteでもシェアしたいと思います。

木下斉さん

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エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
まちづくりの専門家で、内閣府地域活性化伝道師も務める。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、00年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。2009年一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、2015年、都市経営プロフェショナルスクールを設立。事業開発・連携、人材開発、情報発信の3つの柱をもとに日本全国のまちづくりに携わっている。

小林大輔

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株式会社SUMUS(スムーズ)代表取締役社長
住宅メーカー、リノベーション会社を中心に経営コンサルティングを行い、500社以上のクライアントをサポート
地域そのものをリノベする「まち上場」を実現させるコンサルティング案件が多く、サービス継続率は96%と高い実績を誇る。

一つのビジョンを継続し続けるためのキーマンの存在

コロナ禍もあり、東京などの大都市から移住を考えている人もいるかもしれません。同じ田舎でも、今後伸びる地域、土地の値段が上がる地域、今はへき地だが将来明るい地域。そうした光る田舎を見つけるポイントはどこにあるのでしょうか。

一つはっきり言えるのは、地元ブランドのコンセプトが決まっている地域は強い。例えば、「スローライフ」「森の中」など、コンセプトがしっかりと決まっている地域は、一人の確信犯が全体をマネジメントできてぶれがなく、しっかりとそこに来る人、住む人の心をつかみます。

とはいえ、この「確信犯」が例えば市長など、行政のトップだった場合、選挙で市長が変わるたびにコンセプトが変わってしまう、といった不安定さもあります。

そこで、一つのビジョンを継続し続けるために重要な存在が「地主」です。話が合う事業者がちゃんと地主にいるのかどうか。

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木下僕は、「よそ者、若者、馬鹿者」に頼り始めると、もう終わりと思っています。やっぱり地元で何代も続いていてそれなりに土地とかも持っている人がアホなところはやっぱりやめたほうがいいです。

都心一極集中と言われてきたこれまでにも、田舎といえど外からの人が入ってきている地域はやっぱりあります。そうした地域に共通するのが、まちの未来を真剣に考える地主やその土地に根ざした事業者の存在。

その地域にもともといて、資産がある。さらに将来的にその土地で果たす役割を自覚しているからこそ、良い教育を受け、日本国内や世界を見て、ビジネスの経験も積んできた人。

彼らが、「次の時代はこうなる」と先を見据えて動くことで、元からその場所に住んでいる人と、外から入ってくる人の良いバランスを保ちながらまちを育てつづけています。

その地域で暮らし、働いてきた人々が担う役割と責任

例えば会社において、同族経営の2代目と聞くとどのような印象を持ちますか?社長の息子だからって偉そうに振舞う?血筋だけで頭は悪い?

そんなネガティブなイメージが独り歩きしていますが、実際にお会いするとそういったオーナー企業の御曹司のほうが、よっぽど30年、40年先を見据えて真剣に会社の未来を考えている、というのが僕をはじめその場にいた全員の感覚です。

逆にサラリーマン社長ほど、目の前のことしか考えられず、いかにあと〇年何事もなく過ごせるか…といった思考に陥っているように見えます。
※もちろんサラリーマン社長全員ではありませんよ。

こうした短期的視点でモノを考えるサラリーマンと同じようなことが、まちづくりにおける行政にも言えます。そもそも市長といえど、独断で借金すらできない(表向きは報告をすれば良いということになっているが、実際は事前に話を通すのが筋らしい)現状。

行政まかせになっている地域は、ここぞというタイミングで突破力を発揮するのが難しいことにも頷けます。

木下:例えば行政の中でも分かっている若手はうまくやっているんですよね。やっぱり行政も上に行けば行くほど、みんなもう、あとは退職金までどうするかってなっちゃっている人も…。そうすると何もできないよね、という話になってしまうんです。

伸びる地域・伸びてきた地域は、民間の、まさに地元の中で何代も続いているような同族企業が、まちの未来を考えて行動を起こしています。

その最たる例が代官山。

日本一おしゃれなまちとして有名な代官山は、代々の地主である朝倉家が、独自のコンセプトを守りながら30年かけて開発してきたまちです。

他にも、天王洲の寺田倉庫さんも分かりやすい事例です。倉庫会社の域を超えた事業を多数展開しており、中でも目を引くのが、本拠地でもある天王洲アイル地区の活性化。

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画像:天王洲運河に浮かぶ船上スペース「T-LOTSU M」
https://www.terrada.co.jp/ja/service/space/t-lotus-m/

「水とアートの街」というコンセプトが掲げられたこのまちは、まるで外国に来たかのように錯覚するほど異世界を感じます。

天王洲アイルはもともと、高級ブティックやホテルなどが並ぶトレンディなエリアとして再開発も進められていました。ところがバブル崩壊後、再開発は中止。その後東日本大震災では、外資系企業をはじめテナントが次々と撤退。

そんな中、天王洲アイルに本社を置く寺田倉庫が立ち上がり、お祭りやアートイベントなどをひとつひとつ手掛けながら、コンセプトを具現化していったことで、今改めて注目されるまちになっています。

その場所に根ざした人々、民間企業がどれだけ本気になれるか?田舎のまちづくりには欠かせない論点です。

勝手にまちづくりをすると訴えられる!?海外のまちづくり事情

日本の地方創生で、皆さんが一番イメージしやすいのは「〇〇地区を再開発します!」と行政が発表し、予算を一気に投下するような流れではないでしょうか。

しかし、実はそのやり方が通用するのは日本だけ。アメリカでは訴えられることもあるのだとか。

木下さん曰く、そもそもアメリカでは地主自身がお金を出さない限り、役所もお金を出さないのが基本。そうでないと、他の地主や納税者団体から裁判を申し込まれる事態になってしまうのだそうです。

だからこそ行政側も、

・今よりも固定資産税の評価額が上がる
・固定資産税、総収入がこの地区でこれくらい上がる

という見込みをしっかりと明示した上で、投資をする。そのためにもまずは地主がきちんとお金を出すというのが基本。むしろ、地主が出さないまちづくり自体が成立しないんですね。

木下:だからタイムズスクエアが93年にずごく荒れていた状態から再生する時も、地元の人たちが出すって決めて、そこにニューヨーク市議会が出すっていう話になって、っていうのがスタートなんですよね。

この話は私も初耳でした。勉強になります!

「地方創生の聖地」徳島県・神山町を興す名士の存在

実際に、地元の名士が積極的に関わることで現在進行形で成長しているまちは他にもあります。

木下さんが例に挙げて下さったのが、徳島県の神山町。人口5,000人の小さな町が今、地方創生の聖地として注目されています。

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画像引用:神山町公式サイト

一見すると、何の変哲もない田舎。このまちが、

・SansanをはじめとするIT企業16社のサテライトオフィスの誘致
・テクノロジー×デザイン×起業家精神を育む「神山まるごと高専」構想
・アーテイストがまちに滞在し制作活動をするアーティスト・イン・レジデンス
・ドローンワークショップ

など、独自の取り組みを次々と展開しています。

その仕掛け人とも言えるのがこの町で生まれ育った大南信也さん。大地主でもあります。大南さん自身も、若い頃にスタンフォード大学に留学した経験を持っており、広い見識を持っていることがうかがえます。

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画像引用:BeyondHealth「地方創生のロールモデル Vol12. 大南信也氏」

地元の名士ならではのスピード感ある取り組みは、外から見ていても圧巻。まちづくりに興味がある人は絶対にチェックしてほしい人物です。

「ドローンを飛ばしていい」と言えるのも、まさに中心人物に地主、あるいはそれに近いひとがいるからこそ。まちづくりでは、アイデアは素晴らしいのに、その土地の持ち主が首を縦にふらず実現ができないというケースは少なくありません。その点地主であれば「俺の土地だから」の一言で解決してしまう話です。

木下:一発でおしまいなんですよね。いいよっていう人がちゃんと大地主でいれば、話がまとまるんです。逆に大地主が話分からない人だと延々と調整をしないといけない。
北海道の大樹町もロケット飛ばしますけど、あれも漁業権について調整がついてるからやれる話です。その調整がつけられる人がいる所はやっぱり、新しいものが絶対起こってきますよ。

まちの未来を作っていくのは、行政ではなく、「人」です!

一口に「田舎」「地方」といっても、ただ衰退していくだけのまちと、改めて盛り上がりを見せているまちがあります。

その違いは、そこに住む人々が「このまちをもっと良い場所にしよう」と考え、未来のために行動しているかどうか、ではないでしょうか。

結局、まちを作れるのは、国でも自治体でも、よそ者でも馬鹿者でもありません。そのまちに住み、暮らし、働く人々です。

代官山の朝倉家も、あるいは六本木ヒルズなどで有名な森ビルの元社長、森稔さんも自らが開発した地区・ビルに住み続けていました。その場所に住んでいるからこそ、空気の変化を感じることができるし、本気にもなれる。

そしてこれからの時代、キーマンはいわゆる「大地主」だけとは限りません。新しい地主がまちを作る時代に突入します。あなたのまちに影響を及ぼすのは、他でもないあなた自身かもしれません。

次の記事ではそのあたりも書いていきたいと思います。

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔

\『まちづくり戦略3.0』 発売開始しました!/

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カネなし、人脈なし、知名度なし…。そんな地域でも、大丈夫!むしろ弱者だからこそのまちづくりがあり、それは強者には真似できないものです。
これからの時代のまちづくりの新戦略です。

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