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【noteでお花見】ひまわり/短編小説「羽化」

※小説部分は約900字(約1~2分)で読めます。

「羽化」


容赦なく照りつける日差しが、夏の訪れを知らせていた。

麦わら帽子を被ってひまわり畑を歩いている苑夏(そのか)は、すらりと背が高く、ノースリーブのワンピースからは日に焼けた腕が伸びていた。
ワンピースの裾は風になびいて、苑夏のくるぶし辺りをひらひらと泳いでいる。
黒い大きなアゲハ蝶がふわりと目の前を通りすぎて上昇した。
青く澄んだ空は一色の絵の具を塗ったようにその色以外何もなかった。
信じられないほど空が広くどこまでも続いている。
ここに来てどのくらいの日数が経っただろう。
苑夏はアゲハ蝶を目で追いながらふと思った。
母方の祖母が沖縄に住んでいて、そこに苑夏はひとりで遊びに来ていた。
両親は仕事で忙しいからめったに来ない。
沖縄といっても本島ではないから、とりたてて観光地もなかったが、まったく退屈しなかった。
そもそも都会の空気があわない。
自分でも分かっていた。いつも周りから浮いてしまう。
それでも、好きな陸上のおかげで学校にも通ってはいた。

ひまわり畑を過ぎると、祖母の家が見えてくる。
今日もひと回りして戻ってくると、縁側に麦茶が用意されていた。
「おばあちゃーん。ありがとーっ」
縁側から家の中に向かって大声で叫ぶ。
「あいよ~」
台所の奥から答える声が聞こえた。
苑夏は縁側に腰を掛けて庭を眺めながら麦茶を飲んだ。
冷たい液体が喉から体の奥へと落ちていく。
日差しで熱した体にその感触が心地いい。
ぷはぁ、とつい言ってしまった。
オヤジの顔が浮かぶ。
いつもオヤジがビールを飲んだ後にそうしているのを見て、苑夏は嫌だと思っていたのに自分がやってしまった。
ちょっとした屈辱を感じながらもそうやってしまう気持ちが少しわかった。
ひざ下を振り子のようにぷらぷらさせ、足を見つめる。
「ごっつい足」
27センチはある。ひとめで女性の足ではないことが分かってしまう。
二杯目の麦茶を飲む。
ふぅ。と息をもらすと、そのまま上半身だけ縁側のうえに倒し、目を閉じた。
瞼の裏には先ほどみた黒いアゲハ蝶が自由に羽ばたいていた。
これから長い長い夏が始まる。
広い空と黄色いひまわりだけの場所で。


***

読んでくださりありがとうございました!

桜に続き、今回もyuca.さんのお花見企画に参加させていただきました。
yuca.さん、企画ありがとうございます✨


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