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【読書記録】殺した夫が帰ってきました/桜井美奈

   ちょうど最近ハマっている別の作品‘タコピーの原罪’を思い出した。感想文の冒頭に他作品を持ち出すのはご法度では?と思うものの、【生まれは選べない】ということが共通していると思った。

    私もおそらく人並みに家族に対し思うことはある。が周囲の人達には仲のいい家族だと言われるし、自分でも仲が良い方だとは思っている。家族間とはいえ改善して欲しいことはあってもそもそも大前提に産み育ててくれた感謝があり、縁を切ろうだとか家を出ようと思ったことはなく、本作や‘タコピーの原罪’を読んでいて家庭環境に恵まれない登場人物をみると私はすごく恵まれているんだなと思う。

   思い返してみればこないだ読んだ‘未来’もそうだったがここ最近自分が読む作品の登場人物の家庭環境が酷いものが多い。元からミステリーを好んで読んでいるためそういう設定は多いが本作を含めたココ最近の3作は特に酷い気がする。

    家庭環境の酷さは置いておいて、本作のポイントとなるのは【生まれは選べない】ということだと思う。

    私の体感だが自分の育った環境、特に家庭環境は一人の人間の人格形成に大きな影響を与えると思う。ほとんどの人間が自分が普通だと、自分を基準に色々なことを判断していると思うが、その普通の基準を作るのが家庭だと思う。その家庭を自分では選べない。厳密に言えば最初の家庭、生まれた時の家庭を自分では選べない。

   この作品の登場人物ほぼ全員が、もう少し普通の、ここにきて普通と表現するのは難しいけれど、もう少し普通の家庭で生まれ育っていればなにかも話は違ったかも知れないが多様な種類の不幸が、不幸とは違うかもしれない、不便が重なった家庭環境で育ってしまったがためにこんな事件が起きてしまったんだろうなと感じた。上手くいけば、簡単ではないが上手くいけば防げたのではないかと思う。

    話はかわるが、本作の題名や帯のあおりをうけ、様々なパターンを考えながら話を読み進めていたため、もちろんとても面白かったし、帯にあった‘起承転転という感じ’というのもよくわかったが、本当に『殺した夫が帰ってきた』というストーリーでいってほしかったなと思った。
   結局端的に言えば勘違いで‘(友達が)殺した(友達の)夫’は死んでいて‘帰ってきて’いないし、鈴倉和希の白骨死体が出てきたというシーンで和田佑馬の不気味さが際立ちさらにページを進めたが、結局鈴倉和希とは全くなんの関係もないんかーい!!と思ってしまった。
   またラスト数ページにおいて、主人公の救いもあったのかもしれないが、私としては結局主人公だけは一生救われないまま生きていくんだなと感じた。
    茉菜は最悪の結果にはなってしまったものの、好きな人と家庭をもつ、子どもを持つ体験もしたし、本当に好きな人(佑馬)もいた。佑馬にしても、死んでしまってはいたが、好きな人に1番好かれていたことがわかった。
    けれど主人公の愛だけは結局なにも得られなかった。たった3ヶ月の幸せな時間、佑馬はその時間を幸せだと感じていたのは愛だけではなかったと言っているが、だからなんだと言うのだろうか。
   私が愛の立場であったら佑馬が1番愛していたのは茉菜だと、そして茉菜も佑馬が好きだったとわかった以上、3ヶ月の幸せも嘘になる。嘘でないにしても信じられなくなる。そのあと死ぬまで愛と佑馬が一緒にいたとしても、仮に‘普通の家庭’をもったとしても、私が愛なら一生償いの気持ちとしてでしか一緒にいられないと思う。償いでないにしろ、そこに恋愛感情は生まれないと思うし、結局一生愛されるということがどういうことなのかわからないまま死んでいくんだろうなと思う。そしてその人生は想像の何倍も辛いだろう。

   結局愛は生まれた家庭環境において、自分という存在は必要ないということを何度も学習させられ、それは今なお続いているんだろうなと思う。幸せな3ヶ月間、自分に向いていると思っていた好意も結局信じられなくなると思うし、それはやはり自分は誰かの替えでしかなく、必要のない存在であるという負の学習を強めただけになったのではないかと思う。

生まれについて、家庭環境について深く考えさせられる作品だった。

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