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個の時代

私は長男の嫁だ。
30年近く前、まだ結婚は【家】と【家】のもの、という概念だった。
昭和10年代生まれの親、
明治・大正生まれの祖父母世代の価値観を、鬱陶しくも、ある程度【当たり前のこと】として受け入れていた。
結婚にあたり、長男の嫁として、祖母にも、母にも諭されたものだ。
そして近所のおばさんにも、職場のおばさんにも厳しいアドバイスをされたものだ。
【お給料が少ないことと、帰りが遅いことは、絶対に責めちゃいけない】とか、
【家出をするなら旦那の実家に行け】とか、
【お中元とお歳暮に、親に1万円でいいから渡しなさい】とか、
【自分の親より旦那の親を大切に】とか、
まあ、とにかく色々言われたものだ。

ちょっと試しに、とりあえず


という軽いノリで結婚する私が、心配だったのだろう。
私にしてみれば、覚悟を持って嫁ぐことのほうが恐ろしかった。
なにごとも、やってみなけりゃ分からないのだから。

とはいえ、そうやって周りからヤイヤイ言われたおかげか、旦那の家系にしっかり、すんなり入り込めた。
私という異物を、消化できないデキモノとして許容してくれた。
それはひとえに、義両親の理解と我慢によるものだろう。
大いなる価値観のズレを、黙って飲み込んでくれていたのだと思う。

だから私も、
私の価値観は30年遅れているものとして、置いていこうと思う。

息子ふたりが結婚した。
それぞれのパートナーも、息子たち自身も、
結婚は【ふたりのもの】と思っているようだ。
幸い、後取りを産まなきゃならないような名家でもなければ、【家】にこだわる家系でもない。
それでも【長男の嫁】【○○家の人間】と自覚していたのは、私の代で終わりのようだ。
良いも悪いもない。

昨日、次男の嫁っこに『なんて呼んだらいいか迷っていて…。』と言われた。
(入籍して数ヶ月経つ。)
迷うもなにも、結婚した相手の親は【おとうさん、おかあさん】だろう、と思うのだが。
ちがうのだ。
旦那の親は、【旦那の親】なのだ。

だから私は言った。

あなたは息子と結婚して、私たちの大事な家族になった。大事な娘になった。
だからって私たち親に縛られる必要はない。
息子のことも、ひとりの人間として尊重してきた。息子のパートナーとして、ふたりで考えて、ふたりで生きていってくれたらいい。

と。
これは、ある意味、訣別宣言だった。
私の、子離れ宣言とでも言おうか。

繁栄している家は、【家】を大事にする。
家を大事にするということは、【個】が二の次になる。
良いとも悪いとも言えない。
時代や環境やメンバーによって、家族の正解はぜんぜん違うから。

そういえば、
長男の嫁っこは、私のことを名前で呼ぶ。
次男の嫁っこも、きっとそうするだろう。

家族はいつか解散するもの。
こどもは巣立ったら他人。
元気ならそれでいい。

私は【家】が(繁栄しないまでも)健やかに存続するよう、個人的に祈るのみだ。


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