犬がいた季節 伊吹有喜 読書感想

八高前に捨てられていた犬はコーシローと名付けられ、学校で飼われることに。

卒業していく八高の生徒達を見送るコーシロー

高校時代、振り返ると学校に犬がいたなあ、という青春小説

犬がいたというタイトルでなんだか号泣しそうと予想しましたが、安易にコーシローが……、で泣かせる作品ではない

コーシローが何かする、というわけでもなく本当に学校で犬を飼っているというだけ。あら、思ったのと違うなという人もいるかもしれない(自分がそう)

でもこの学校で犬を飼っている、くらいが普通で、ありそうな話になっている。

昭和から平成、そして令和へ。その時々の卒業生達が主人公で、コーシローはそっと見送っている。

「手を振ろう、コーシロー。あの子の幸せを祈って。先生たちはいつか同窓会で会えるが、私たちはおそらく二度と会えないから」

見送るだけというのが切ない。どれだけ可愛がってもらってもいずれ生徒達は卒業し、旅立っていく。それぞれの青春を過ごし、コーシローを置いてってしまうのだ。

お別れなんですね……とそっと悟る。その姿を想像すると本当に切ない。

ただ一番最初の主人公の優香のみ、先生となって八高へ帰って来る。

それは嬉しいことだが、優香の境遇が明るいものではなく、実家のパン屋が倒産し家族に呼ばれたからだ。

まず彼女は東京の大学の受験の段階から何故受けるんだと祖父と祖母から文句を言われる。兄は中学高校と荒れていて今家業を手伝っているからokと理不尽な扱いだ。

「納品先にもおるわ。いい大学出ても、まったく使えねー奴」

こんな事を言っていたが、兄は実家の家業のパン屋を事業拡大して失敗して潰してしまう。借金も作る。

その実家に帰って来いという家族に中原くんという生徒は「勝手だね」と正直な感想を言う。

しかし優花はそうでないと答える。

「身内にしてみると、やっぱり孫や子どもって近くにいてほしいのよ。その思いを振り切れるほどの何かを東京で見つけられなかっただけ」

結果的に優花は早瀬と再会して良い予感はありそうだが、この後は早く地元から逃げてほしいと思う。

兄が性懲りもなくあやしげな商売に手を出そうとしているという一文に逃げて、としか出て来ない。

もう一つ。

コーシローは幸い八高の生徒達が頑張って飼おうとしてくれたから幸せに過ごせた。

でも序盤の

「お前は賢いから、自分で安全な所に行けるだろ。優しい人に拾ってもらいな」

虐待だから、その言葉!

こいつは許されない。命をなんだと思っているんだと腹が立つ。

コーシローがすっかりこいつのことを忘れて生徒達との良い思い出だけで過ごした。それで救われた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?