見出し画像

呼吸の手引き

 深夜2時。
 煌々と明かりの灯るコンビニで、雑誌を読む。
 くたびれた雑誌。
 ページを捲る。
 文字は頭の中をぼんやりと通り抜ける。
 同居人と喧嘩をした。
 些細なことだった。
 わたしと同居人は似たもの同士だった。
 外では息のし辛い2人だった。
 正しいこと。間違ったこと。
 白黒つけること。
 世の中に満ちたそれらに倦んでしまった同士だった。
 だからわたしたちは曖昧に一緒に暮らしていた。
 白黒つけずに暮らしていこう。
 歪なのは明白だった。
 どちらともなく正しさを求めてしまうのは自明の理だった。
 白黒つけまいと。
 互いの過ちをきつく咎めた。
 息が、苦しくなった。
 苦しくなって、互いの酸素を奪おうとしてしまう。
 耐え切れなくて、わたしは酸素を探し求めて飛び出した。
 ぺらり、ぺらりと捲られる雑誌はもう少しで終わる。
 苦しかった呼吸は、随分と落ち着いていた。
 ラックに雑誌を収めて、少し迷ってアイスを買った。
 2人分。
 コンビニを出ると同居人がタバコを吸っていた。
 わたしを目が合うと気まずそうに目を伏せて、それでも歩み寄る。
 手に提げていたビニール袋をかすめ取る。
 難しいね。
 目を逸らして同居人は言う。
 私は頷いた。
 でも、こういうのはやめにしよう。
 心配で苦しくなるから。
 私は頷いた。
 決まりごとを作ろう。
 互いを縛るためではなく、息のしやすいように。
 適切な酸素がわたしたちの間に満ちるように。
 ゆるやかに、わたしたちの骨組みを作るのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?