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スタートアップ大国、イスラエルがなぜ注目されているのか(連載第1回)

はじめに

イスラエルのエコシステム、各分野のスタートアップ、日本企業がイスラエルでのビジネスにおいて検討すべき法的問題点などについて紹介していきたいと思います。

イスラエルについて危険なイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな方はまずはこちらをご覧ください。

イスラエルは、非常に美しい国ですし、テルアビブはリゾート地でもあり、ヨーロッパからは多くの人が訪れます。治安も良く、テルアビブでは、夜になっても女性、子供が一人で出歩いています。私が住んでいたカルフォルニア州バークレーとは比べ物にならないほど安全です。

本ノートでは、スタートアップネーション、イスラエルがなぜ世界で注目されているのかについて紹介していきたいと思います。次回以降は、私が所属するTMI総合法律事務所の数名が、日米のビジネス法務等について解説しているBizLawInfoというブログにて更新していきたいと思いますので、よろしければフォローをお願いします。

自己紹介

最初に少しだけ自己紹介をさせていただきますと、私は、2017年7月に留学するまで約5年半TMI東京オフィスで勤務し、2018年5月にUCバークレーのロースクール(LLM)を卒業した後、TMIシリコンバレーオフィス勤務を経て、現在は、イスラエルの大手法律事務所Herzog Fox & Neeman Law Office(HFN) に出向しております。

留学前にスタートアップ関連業務に携わっていたこともあり、4年程前から弁護士としてイスラエルと日本の架け橋となるべく、テルアビブの法律事務所で勤務することを計画し始めました(UC BerkeleyではUndergraduate生用のヘブライ語のコースも受講していました)。昨年9月にようやくHFNでの勤務をスタートし、主に、日本企業のイスラエル企業への投資、M&A、イスラエルでの拠点設立、就労ビザ手続、その他イスラエルでのビジネスに関連するサポートや、イスラエル企業が日本でビジネスを行う際のサポートをしてきました。

本年3月26日から4月12日まで、日経産業新聞コラムの「戦略フォーサイト」で、イスラエルに関する私の連載が掲載されていましたが、まずは、そちらを一部アップデートしたものをお届けします。

スタートアップ大国、イスラエル

最先端技術を生み出し続ける、中東のシリコンバレー、イスラエル。人口約890 万人、四国程度の面積の地域に、約6,000 社のスタートアップ、350 社以上のグローバル企業R&D施設、100以上のアクセラレーター、約70のVCが存在します。2017年にインテルが約153億ドル(約1兆7000万円)で自動運転に不可欠な先端運転支援システム(ADAS)を開発するモービルアイを買収しましたが、日本ではこのニュースをきっかけにスタートアップ大国としてのイスラエルに注目し始めたという方も多いかもしれません。
イスラエルは、国民一人当たりのVC 投資額、R&D 投資額の対GDP 比率、米NASDAQ 上場の米国以外の企業数、1 万人あたりのエンジニア数等において世界トップを争う位置におり、世界的には以前からその高い技術に注目が集まっていました。我々の身近にある技術が実はイスラエルで生まれていたということも多く、たとえば、USBメモリ、インスタントメッセンジャー、ファイアウォール、Zip圧縮技術、カプセル内視鏡、サジェスト機能などは、イスラエルで生まれています。

イスラエルには、その高い技術から世界中から資金が集まっています。IVC Research Centerのレポートでは、2018年のイスラエルスタートアップが調達した金額は、累計で約64億7000万ドル(約7000億円)となっています。AI関連の企業は累計約18億9000万ドル、ライフサイエンス分野の企業は約12億ドル、サイバーセキュリティ関連企業も史上最大の約10億800万ドルを調達しました。また、フィンテック関連のスタートアップは累計約9億4100万ドルの資金を調達し、こちらも2013以降で最大を記録しました。

世界初のべレシートの挑戦

最近では、イスラエルの民間団体SpaceILの月面探査機べレシート(ヘブライ語で創世記を意味します)が、米SpaceXのFalcon 9ロケットによって打ち上げられたことで話題になっていました。月面着陸が成功すればソ連、アメリカ、中国に続く4番目となり、民間では世界初となる快挙でしたが、晴れの海(月の表側の北部にある広大な火山性盆地)への着陸を目指して降下中にメインエンジンに不具合が生じ、残念ながら快挙達成とはなりませんでした。彼らの挑戦は以下の記事に整理されていますが、この挑戦を可能にした、イスラエル宇宙局や、イスラエルの主要な軍需企業であるイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)の大きなサポートについても紹介されています。

イスラエルには失敗を許容する環境がイノベーションに必要であるという共通認識があります。今回の挑戦をテルアビブにある管制室から見守っていたベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「1回目で成功しなかったのなら、また挑戦すればいい」と激励しました。
写真は、べレシートが月の表面に激突する直前に送られてきた映像ですが、「SMALL COUNTRY, BIG DREAMS」はイスラエルの企業家精神を示しています。

このニュースで、イスラエル、宇宙ビジネスへの注目がより高まりましたが、この挑戦が今後同国、同ビジネスの発展を更に加速させる要因の一つとなることは間違いないでしょう。スペースILは、べレシートの月面着陸のみを目的とする非営利組織のため、今回のプロジェクトの終了をもって解散しましたが、IAIはドイツのOHBシステム社と提携して、欧州宇宙機関(ESA)の月面探査ミッションを請け負うことになったとされています。

日本とイスラエルのビジネスの発展

日本との関係では、2014年5月にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が訪日し、安倍晋三首相と「日本・イスラエル間の新たな包括的パートナーシップの構築に関する共同声明」を出したころから日本企業の進出が急激に進み、2012年に約2億円であった日本からイスラエルへの投資額は、2017年には約1300億円になりました。

日本からイスラエルへの投資額の推移(日本銀行「国際収支統計」)
2012年 2億円
2013年 11億円
2014年 27億円
2015年 52億円
2016年 222億円
2017年 1300億円

本年1月中旬には、世耕弘成経済産業大臣がイスラエルを訪問し、IT(情報技術)を活用した医療分野で協力する覚書を結びましたが、その際に行われた日本・イスラエル・イノベーションネットワーク(JIIN)のイベントには、日本から日本企業約100社、約200名が参加した。私もイスラエル側から参加しましたが、同イベントでは、大企業の役員クラスの方々が多数参加しており、日本企業のイスラエルスタートアップへの関心の高さを再確認しました。

日本企業がイスラエルに注目する理由

日本企業が、シリコンバレーと比較してイスラエルに注目すべき理由として、イスラエルのスタートアップの方が相対的にバリュエーションが低いということの他に、日本企業がスタートアップのエコシステムに入り込みやすいということが挙げられます。イスラエルのスタートアップは、その市場の規模もあり、国内ではなく、海外の投資家を見ている場合が多く、海外投資家による投資額の割合が高くなっています。

CBInsightsのGlobal Tech Hubs Report 2018によれば、2012年から21017年に行われた投資について、海外投資家による投資の割合が、シリコンバレーにおいては24%にとどまるところ、テルアビブでは71%にも及んでおり、この数字は、グローバルテックハブ6都市の中でも抜けています(テルアビブ71%、ロンドン44%、シリコンバレー24%、ニューヨーク20%、ボストン16%、ロサンゼルス14%)。

これは、他の都市のスタートアップと比べて、日本企業が海外投資家としてイスラエルのスタートアップに対して投資するチャンスが拡がっていることを意味しています。また、イスラエルスタートアップの中には、アジアへの事業展開を視野に入れて積極的に日本企業からの投資や日本企業との業務提携の機会を求めているところも多く、この点も日本企業がスタートアップエコシステムに入っていくのを容易にしています。日本は、アラブボイコット等の影響もあり、中国や韓国と比べてもイスラエルへの進出が遅れていましたが、ここ数年で日本企業によるイスラエル進出は急激に進んでいます。

本年9月には両国間の直行チャーター便が就航することが予定されておりますが、来年3月から、イスラエルのエル・アル航空会社が週に3便、念願のイスラエル日本間の定期直行便を就航することを発表しました。これで益々イスラエルと日本の連携は加速していくと思いますが、日本企業が、今後益々、幅広い分野でイスラエル企業の高い技術と自社の技術を融合させ、国際的に更に飛躍されることを期待しています。

次回からイスラエルのスタートアップエコシステムを概観していきますが、次回以降は、以下のBizLawInfoに投稿していきたいと思いますので、フォローをお願いします。

また、Twitterで、イスラエル関連、スタートアップ関連、海外留学(特に米国LLM)関連の情報を発信しておりますので、よろしければそちらもフォローしていただけますと嬉しいです。

ご不明な点等がございましたら、是非ご連絡いただけますと嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

田中真人

Email: matanaka@tmi.gr.jp

(本ノートは、日経産業新聞2019年3月26日、27日付のものを一部改変しています。)

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