『左半分さとがえり』
風鈴と豚の形した蚊取り線香と縁側。それだけだった。
僕の視界の左半分には、蝉時雨が降り注ぐ夏の庭、それに臨む縁側が映っているものの、右側にはその縁側を縁側たらしめる家がない。というか何も無い。無というか混沌というか、なんとも形容し難い黒渦があるだけで、あえて言葉に変換するならば、『何も無い』が在る、といった様相。おかげで縁側は縁側になり切れずただのベンチに成り下がり、その上にある庇と風鈴、置かれた蚊取り線香が、安っぽいドラマのセットのように「とりあえず縁側ということにしよう