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息子が誕生して、夫が産婦人科で時の人となった話

今回の第二子となる息子の出産時の備忘録として、書き残しておこうと思う。

新鮮なうちに。ホヤホヤなうちに。私の脳内が美化しすぎないうちに。(はよ書け)

・・・・・・・・・・・・・・・・・

息子はのんびり屋さんのようで、予定日になっても産まれてくる様子はなかった。 

出産予定日を2日過ぎた日の19時頃だった。

晩御飯が終わり、夫と談笑していると下半身に違和感を覚えた。

!!??!!!???

何かがでた。

トイレに行って確認すると赤い鮮血がでていた。

お腹の痛みも全くなかったけど、破水かもしれないと思い念のため、病院に連絡して一旦確認してもらう事に。

病院で30分ほどモニターをつけて赤ちゃんの心拍を確認。

看護士「うん。破水ではないね!赤ちゃんは元気!一旦帰ろう!」

うん。帰ろう。

という事でまた自宅に戻り様子を見ることに。

夜中に陣痛がきてそのまま出産となることも考えて、娘は母のところで見てもらう事になった。

まだ2歳にもなってないし、初めてのお泊まりだから私たちが居なかったら泣きわめくかも…

慣れない場所で不安がるかも…

お母さん!お父さん!って涙流しながら探し回るかも…

そう思いながら、2階で私の母と遊ぶ声に耳をすませる。

「キャハハハハ!!!」

「こっち!こっち!」

おい、寂しがれ。ほんの1ミリでいい。寂しがってくれ。

すごく楽しそうだったので、そのまま声はかけずに私と夫は帰宅することに。

寂しがられると困るのに、求められないと寂しいなんて、私はなんて勝手な生き物なんだ。

そんな逞しい娘の姿に背中を押され、私は自宅に帰って、いつ来るかわからない陣痛に備えた。


出陣!

朝5時半、夫のいびきで起床。

少しお腹が痛い。

用を足しに起き上がろうと片膝をついた瞬間


バッッシャアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙


大量に破水した。大きめのナプキンをつけていたにも関わらず、ベッドはびしょびしょ。

寝てる夫を起こす。

すぐに状況を把握し、ビショビショのシーツをせっせと剥がし、洗濯機にぶち込む夫。

こんな一生に1度あるかないかわからない起こされ方しても冷静な男はそういないだろうな。

そう思いながら、電話しておいた産婦人科に向かう。

破水してから陣痛の間隔がある程度一定になって、だいたい7~8分間隔で痛みの波がきだした。

6時半前、病院に到着した。

そのまま分娩室に通され、赤ちゃんの心拍と子宮口の開きを確認。

子宮口は3cm。

軽い陣痛が来た時には更に1センチ開いてるから、進みは速いかもしれないと言われた。

この時はまだ話す余裕もあって、この痛みがピークだったら良いのに…と本気で思った。

お産の進み具合によって、夫には一度抜けて娘を保育園に連れて行ってもらう段取りだったけど、予想より早く「ギブ!」という母からの電話があり、急遽迎えに行くことに。

ちょうど保育園が空く時間でもあったので、「またね」と告げ夫は娘のもとへ。

助産師さんから「間に合うかな?旦那さん」と言われながら、徐々に強くなる陣痛を呼吸法で凌ぐ。

今回私についてくれた助産師さんは、前回娘のときにもずーっと背中をさすり、お尻の穴を押さえてくれた恩人だ。

このサポートなしに私のお穴はきっと乗り越えられなかった。

そんな穴の恩人ともう1人の看護士さんが今回の担当だった。

2人は神妙な面持ちで、新人育成の話をしていた。

始めはどこの職場も一緒だな!と静かに話を聞いていた。

でも、陣痛がきたとなれば話は別だ。

キリキリキリキリキリキリ…陣痛が…くる…

看護士「中川さん(仮)の覚えが遅くてねぇ…もっと自分から聞いてくれればいいのに」

助産師「どこまでわかってるのか、判断できないところありますもんね」

キリキリキリ…ぐあぁ…ふぅ〜ふぅ〜…ふぅ〜

「いつでも覚える暇あるじゃない?」

ふぅ〜ふぅ〜…うおぉ…ふぅ〜ふぅ〜

「そうですねぇ」

…ふぅ〜ふぅ〜


・・・もしもし!!!わしの背中を!!!どちらさんか!!!摩ってくださらんか!!!後に!後にせんかい!!!!

そんな心の声を察してくれたのか、助産師さんは話をしながらも、次の陣痛がきたときからは絶妙な位置を押したりさすったりしてくれた。

あぁ、やっぱり恩人は違う。

絶対的な信頼と安心感がある。

私はこの人に新たな称号を与えることにして、『お穴のガーディアン』と名付けることにした(恩人になんてことを)。

一方で看護士は話掛け続ける。

頼む。私の恩人に。いや私のお穴のガーディアンに話しかけないでくれ。


そうこうしているうちに、さらに痛みが強くなり間隔もだんだん短くなってきた。

子宮口5~6cm。

この時、長いけど軽い痛みと短くてすんごい強い痛みが交互にきていた。

横向きに体勢を変えるとさらに陣痛の間隔は縮まった。

その頃には新人育成の話は終わっていて、2人とも一緒に背中をさすったり声かけをしてくれた。

そうそう、それそれ(誰目線)

頭が下がってきてるよ!いい感じ!

と言われ頑張る。


子宮口7cm。

目を瞑って、痛みを逃がすことに集中する。

出勤時間なのか、なんだか人がぞろぞろと入ってきた。一気に分娩室が賑やかになった。

その後に続いて扉を開ける音がして「大丈夫ぅ〜?」という声と共に旦那が入ってきた。

居酒屋の暖簾くぐる位のテンションで。

緊張感のなさに色々と突っ込みたかったけど、そんな余裕も気力も私にはもう欠片もなかった。

陣痛の波が押し寄せる。


ふぅ〜…ふぅ〜ふぅ〜ふぅ〜

ふぅ〜ふぅ〜うぅ…ふぅ〜

(ズズッ…)

ふぅ〜ふぅ〜…ふぅ〜

(パリパリ…ズズッ)


・・・はい?

明らかに何かを食べている音がして、薄れそうな意識の中ふと横を見た。

・・・飯食うとる。

今?今か?やっぱり居酒屋と思って入ってきたか?

そう思った瞬間、気が抜けて急にイキみたくなった。

でも、今イキんだらどうなるか私は知っている。

そう、裂けるのだ。盛大に。私の大事なお股が。

前回のお産では、そのせいで産後2ヶ月間も痛みと二人三脚だった。

座るのはもちろん。立つのも涙が出そうなくらい痛くて、この痛みは長くしぶとくどこまでも着いてきた。

だから今回は絶対に死守しなければ!と心に誓っていた。

とにかく全意識を集中させ、イキまないように呼吸をしながら、力が入りそうになるのを我慢した。

子宮口は8cm。休む暇なく次から次に痛みの波がやってくる。もう無理。痛すぎる。

助産師さんから仰向けになろう!と言われ、イキむ時にかける台に足を置いた。

同時に

「よし!ご馳走様!」

ご飯を綺麗に平らげた夫が分娩台の横に現れた。

よし!じゃねぇ。


そろそろイキんでいいよ!おしりの方に力入れてね!

という助産師さんの声に歓喜した。

時は来た。

念願のイキみ!!!私の得意技!!!今度から、特技『イキみ』って自己紹介で言う。

本領発揮や!!!とにかく力を込めた。

少しだけ赤ちゃんが下がった。

また次の陣痛と共にイキむ。ぬおぉおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!

「いいよいいよー!上手上手!」

「ほら、呼吸して!ふぅ〜ふぅ〜!」

「みんな待ってるよ〜!安心して出てきていいよ〜!」

ガンガン褒めてくれるし、呼吸法もレクチャーしてくれるし、息子にまで声をかけてくれる。

ただ、助産師さんや他のスタッフではない。

この声は紛れもない私の夫だ。

多分、分娩室には7人くらいスタッフがいたはず。

だけど、ほぼ1人で7人分の声掛けをしていた。

「助産師いらず。」

後日、産婦人科で噂になった。

そんな夫の声かけが届いたのか、赤ちゃんがじわじわと産道を降りてきているのがわかった。

この時また、イキみ禁止令が発令された。

嘘だろ・・・私の特技が・・・

イキみたいイキみたいイキみたいイキみたい・・・

イキんじゃえと!囁く悪魔の声と、裂けたらオワコンよ!という天使の声が混濁して、頭がおかしくなりそうだった。

赤ちゃんの頭がもう出ているのはわかった。

だからこそ勢いで押し出してしまいたかった。

足がガクガクする。

だけどここまでの努力を無駄にしたくない!!!

私は地球の重力に身を委ねることにした。

バーにかけていた手を離し、胸に手を置いて少しでも力が入らないように、呼吸に全神経を集中させた。

股の呼吸!第三の型!だ。

そんな私に向かって夫は相変わらずずっと実況している。

いや実況というか、進捗状況をずっと教えてくれている。

「もうすぐ会えるよ!」

「もう見えてるからねー!」


プロをも押し退け、第一線で声掛けをする夫がどこにいようか。いや、いるまい。

そんな夫の姿に笑いそうになる。

おい!ラストスパートをかけている妊婦を笑わせないでくれ!!!

そう思いながら気を取り直し、3回ほど深呼吸をしたその時、

ズルルルルッ!!!!

一気に痛みから解放され、

2~3秒立ってから大きな産声が聞こえた。


2020年6月11日  AM8時16分。

体重3522g、身長52.5cmの元気な男の子が誕生した。

約1時間45分というスピード出産の類に入るお産を終えた。

肝心のお股の方は多少の傷は入ったものの、無事に裂けずに済んだ。

私のお股は守られたのだ。

ありがとう。皆ありがとう。


息子が私の胸元にやってきた。

しわしわで真っ赤な顔。小さく今にも折れそうな手足。だけど力強く生きる力を感じた。

夫を見上げると満面の笑みで頑張ったね!凄いよ!と言ってくれた。

その一言で、大将やってるー?くらいのノリで分娩室に入ってきたこととか、お産の終盤にも関わらずご飯を横で完食したことはもうどうでも良くなった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回出産を終えて、やっぱりお産は死ぬほど痛いということ。

命の誕生には多彩なストーリーがあるということ。

また、命をかけて産んでくれた母と、ここまで育ててくれた父母への感謝の日になった。

この日を絶対に忘れない。

そしてまだ幼いにも関わらず、逞しすぎる姿で私を送り出してくれ、離れている間も精一杯の我慢をしてくれている娘。

松岡修造ばりの熱量で立ち会いをしてくれ、私が不在の間もキツイ顔ひとつ見せず、娘に精一杯の愛情を注いでくれている夫。

そして存在するだけで周りに癒しをもたらしてくれる、新たに誕生した尊い息子。

愛してるぞ!私の宝物たち!

Fin.





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