「謝らなくていいよ」と許した話

全ての学校がそうだとは言わないがクラスに1人くらいは風変わりな奴がいたと思う。
かくいう私もなかなか風変わりな奴ではあるとは思うが、『障害者学級(または学校)に行くほどではないけど境界線付近にいる風変わりな奴』はクラスに1人または学年に1人、少なくとも学校に1人くらいはいたと思う。

小学生の時分、そんな感じの風変わりなT君という同級生がいた。彼のエピソードは枚挙に暇が無いのだが、裸で校内駆け回ってしまったり、窓から外に出て壁の出っ張りや配管を伝って遊んで、もしも足を滑らせて落ちたら確実に死ぬ映画のワンシーンみたいなことをしたり、凍ったプールの氷の上に立とうとしてそのままドボンするような子だった。
ちなみに将棋がめっちゃ強い。

決して邪悪な奴ではないし、彼自体におそらく悪気は一切ないとは思うのだが、上述のように行動が奇怪であったり、ルールを守れなかったり(将棋のルールは守れる)、単純に不潔であったり(鼻水を垂らしており服で拭うなど)するので比較的嫌われるというか若干鼻つまみ者というか、そんな感じの子だった。
ちなみに算数と歴史がめっちゃ得意。

で、

小学2年生の時、そんなT君と些細なことから言い合いになり、やがて喧嘩になり、掴み合いになり、先生が止めに入り、別室に連れて行かれ、事情聴取を受け、
もう全然詳細覚えてないんだけどT君が悪いということになり、
小学校名物の「謝りなさい&謝ったんだから許してあげなさい」が始まろうとしていた所で、T君が唐突に自分語りを始めたのだ。

「このまえ〜、お風呂に入る時ぃ〜、ドアがかたくてぇ〜、キックしたらぁ〜、穴が空いてぇ〜」

…は?

その年の「は?オブザイヤー」を受賞しそうな言い訳である。お前んちの風呂の扉など知ったことか。
その後もT君は要領を得ない謎の言い訳を続けるばかりで、一向に謝る気配を見せない。
先生も焦れる、私もだんだん飽きてくる。なんだこの茶番。
と、ここで天啓を得たかのような名案を思いつく。

「謝らなくていいよ」
「だってT君は、さっきから沢山謝ろうとしてるんだもん」
「それが難しくて、お風呂のドアの話をしたりしてるんだよ」
「T君が一生懸命謝ろうとしてるのは分かるからもう謝らなくていいよ」

決まった…!

めっちゃ良いこと言った!
いつまで続くのか分からないこの状況も打開できたし、
自分の評価を上げることにも成功したし、
しかも「謝らなくていいよ」ですよ?
いやー、私は聖人か何かの生まれかわりかしら。なんだこの茶番。

きっと先生に褒められることだろう。
帰りの会でこのことはみんなに伝えられることだろう。
クラスのみんなは私の聖人対応に尊敬の眼差しを向けることだろう。
道徳の時間でこの美談は語られることだろう。
もしかしたら来年から道徳の教科書に載るかも知れない…!

完全に打算である。

なお、そんな打算が透けて見えたせいか、聖人を演じきれていなかったせいか、私は褒められることもなく、この"美談"は公表されることもなく、20余年経った今まですっかり封印されてきたのであった。

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