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あいをこめて、

 遥か彼方、天使たちの内緒話。
 「こないだ、神さまがね…」
 「ぼく、おはなをかいたんだよ!」
 「…ぼくも!ぼくも、とどけたい!」


 柔らかい風が背中に触れて、ふと空を見上げた。そのとき、ぐーっと私のお腹を押す、君の元気な印。愛おしさいっぱいでお腹に手をやると、「あっ、たんぽぽ」。下を向くことは悲観的なイメージがあったけれど。君と一緒に下を向いたときはいつだって、つま先で春の訪れを感じたり、水溜りのなかの夕暮れに気づいたりして。ふふって笑ってしまうことばかり。君と過ごす日々は、すべて煌めきでいっぱい。毎日、伝えている「ありがとうね」をはやくこの手で君に降り注ぎたい。

 「今日はどこへ行こうね」
 そう囁いてみれば、裏路地にぶち猫。猫を追いかけてみたら、見慣れぬ本屋。こんなところに本屋なんてあった?新しくできたのかもね〜。行ってみる?歌うように君に話しかけてみれば、またぐーっと元気な印。
 本屋にはたくさんの本があったけれど、自然と足は絵本コーナーへ。君といるようになって、絵本が好きになった。いっぱい一緒に読もうねってお腹を撫でてみる。
 棚の隅っこ。一冊だけ妙に古びたの藍色の背表紙。表紙には可愛らしい小さな翼のイラストが描かれている。なんだか君が「これがいいよ」って言ってる気がして。ワクワクを抱き締めながら、本に手を伸ばす。

 帰り道、公園で開くのは先ほどの絵本。ゆっくりと背表紙を撫でて、君に囁く。
 「はじまり、はじまり」。

【藍色のポスト】

 「“藍色のポスト”の話、知ってる?」
 「ぼくね、おてがみだしたんだ!」
 「知らない…どんなポストなの?」

 とあるビルのなか。懸命に仕事をする女の人がいます。仕事を始めたばかりのようで、わからないことだらけ。
 そんな彼女の心を表すように、窓の外はどんよりとしていて、今にも雨が降りそうです。


 はるかかなたの空の上。
 小さな天使も一生懸命に画用紙を彩っています。水彩絵の具で咲かせるのはピンクのチューリップ。
 「ぼくがげんきをとどけるんだ」
 その一心で、描き続けます。

 「…できた!」
 優しく封筒に入れて、天使は“藍色のポスト”を目指して駆け出します。

 「あいをこめて!!!!」 


 絵本の最後。挟まれていた、藍色の封筒。
 そのなかには、画用紙が一枚。丁寧に広げてみると。そこには、ピンクのチューリップでいっぱいのお花畑。そして、2Bの「ぼくがいるよ」。

 「届けてくれたのね」
 涙で滲む声が茜色に溶けていく。
 また、ぐーっと。君の元気な印。絵本の結びをもう一度。

 “藍色のポスト”
 それは、空の上に住む天使たちが。
 一度だけ、大切なひとに手紙を出せるポスト。想いと想いをぎゅっと結ぶ、素敵なポストなのです。


 いつか一緒に絵を描こう。私は絵が苦手だけど、君のためなら。たくさんのチューリップを咲かせるよ。絵本もいっぱい読もう。いろんな景色に心を揺らして、日々の煌めきをたくさん胸に閉じ込めよう。どんな日も愛を注ぎ続けるから、だから安心して出ておいで。

 君に聞こえるように、はっきりと。
 「待ってるよ」
 画用紙の右端。大人ぶって書かれた「あいをこめて」。
 私のほうがもっともっと大好きなんだからねって、ぎゅーっと君を抱き締めた。


あとがき
お世話になっている上司への贈り物。先日書かせていただいた「ぼくらがとどけるよ」のお友だちです。またまた、その人にしかわからないことを散りばめて、今日はピンク色のリボンで優しく包みました。
愛を注ぎ続けてくれることは当たり前じゃないから。両親や恋人、お仕事でお世話になっている方々。私に愛を注いでくれるみんなに感謝でいっぱいです。

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