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ぼくらがとどけるよ

 なんとなく寄った本屋さんで、なんとなく見つめた棚の隅っこ。一冊だけ妙に古びた藍色の背表紙。なんだか懐かしくて。記憶を探ってみるけど何とも結びつかなくて困った。でも、絶対に買わなきゃって想いだけはあって。愛しさで溢れた想いと一緒に、静かに手を伸ばしてみた。

 帰り道、待ちきれず。たんぽぽ揺れる公園のベンチ。テイクアウトしたカフェインレスのコーヒーとそっと撫でる背表紙。
 その本は、絵本のようで。表紙には小さな翼のイラストが二つ描かれていた。やっぱり、どこか恋しくて。愛おしい。
 今から読むねと小さく合図して、「はじまり、はじまり」。

【藍色のポスト】

 とある島で。
 ひとりの女性が先生になりました。
 彼女は毎日、生徒と向き合い続けています。
 しかし、難しいこともあるようで。彼女の頬には涙のあとが。


 空の上。
 その様子を見ているのは、小さな翼の天使たち。
 「大丈夫かな?」
 「たすけてあげたいなぁ」
 そんな二人に神さまが言いました。
 「あの雲の向こうに、“藍色のポスト”があってな………」
 天使たちの目はきらきらです。
 「にいちゃん、ぼく…!」
 「よし!」


 ピンク、あかのクレヨンに、えんぴつ。
 ふたりは楽しそうに画用紙を彩っていきます。

「「できた!!!」」

 それをしっかり封筒に入れて。
 ふたりは“藍色のポスト”をめがけて走り出しました。

 大好きなひとに届くよう、元気いっぱい、大きな声で。
「「ぼくらがとどけるよ!!!」」

 絵本の最後。挟まれた、藍色の封筒。
 そっと開けてみると、画用紙一枚。
 元気いっぱい4Bの「いつだってだいすき」。
 クレヨンのカーネーションは、ピンクのリボンが結ばれている。


 胸に手をやれば、トクトクと。私がここにいる証。
 お腹に手をやれば、愛おしい感触。あなたが元気でいてくれる印。
 愛おしさに染まった涙が封筒の藍を滲ませる。あなたとあなたが結んでくれた想い。いつかあなたたちが私の元から飛び立っていく日が来ても。いつだって大好きで、いつだってぎゅーっと抱き締め続けるからね、と誓う。ずっとずっと注ぎ続ける「愛してる」。あなたとあなたはどんな顔で受け取ってくれるのだろう。

 絵本の結びを思い出す。

 “藍色のポスト”
 それは、空の上に住む天使たちが。
 一度だけ、大切なひとに手紙を出せるポスト。想いと想いをぎゅっと結ぶ、素敵なポストなのです。

 帰ったら、返事を書こう。
 そしていつか、彼らにそれを渡そう。想いを記すこと、そしてそれを受け取ったときの心の温度を。彼らと分かち合いたい。


 お腹にそっと。
 そして、空を見上げてはっきりと。
 「待ってるからね」
 それはそれは、とびきり優しくて柔らかい声だった。


あとがき
 いつもお世話になっている上司に向けた物語。その人にだけ分かるような言葉を散りばめて、あったかい色のリボンでぎゅっとしてみました。最近、お母さんってすごいなぁと実感。愛情たっぷりに育ててくれた自分の母にも感謝しながら紡ぐことができました。

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