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電車の乗り方講座


あなたは鉄道を使って移動したことがあるだろうか?
日本人にとって移動手段の中でも鉄道は非常に身近であり、利用頻度も高い。通勤・通学で毎日使う人もいれば、旅行で利用する人もいるだろう。

私も鉄道員になる前から旅行ではもっぱら鉄道を使い日本各地に赴いた。切符を買って目的地へ向かう列車に乗り込む。或いは遠くへ行く場合は乗り換えも必要だろう。しかし車のように免許も要らず、飛行機のように予約システムが煩雑でもない。誰でも簡単に乗れる乗り物だ。

しかし昨今、駅to駅の移動でもさまざまな要素が含まれ、複雑化している都市圏の鉄道網ではインターネットや乗り換え案内アプリが必須となってくる。素人より数倍は鉄道に詳しいと自負する私ですら調べなければわからないことが沢山ある。
鉄道と利用ケースが似ているバスもアプリなどの進化で一昔前に比べ格段に乗りやすくなったと感じる。鉄道会社もいかに便利で乗りやすくするか日々研鑽を怠ることは許されない。

今回電車の乗り方講座と題して前段を長々と書いてきたわけだが、この複雑化した鉄道網に対する利用方法について語りたいわけではない。

さて、あなたが今いる駅から目的地まで鉄道を使って行くとする。
その時あなたはどの列車に乗れば最適に目的地に行けるか、計画的に考えたことはあるだろうか?

勿論通学・通勤で使っている人は何となく「〜行き」に乗れば、いつも通っている駅に行けることぐらいは把握しているだろう。しかしいつも通っている駅の2個先の駅の名前を知っている人はもしかしたら少ないのかもしれない。

乗務員として働いている中で肌で感じる利用者の疑問の質について私自身驚くことが最近多い。「一体私はどの列車に乗ればいいのだ…」と迷子の子猫ちゃんたちは、あれほど便利な鉄道を難しく捉えているが、鉄道員からすれば利用促進の観点からも鉄道は利便性の良い乗り物だと認識してほしいと常思うわけだ。

ではあなたが鉄道を使って移動をする時にまず何から始めるか。
ここからが本題の電車の乗り方についてである。

①目的地である駅を明確にする
駅名というものは地名からとったものが多いが、地名にしても旧地名、愛称などさまざまである。私が駅員として働いていた時に昔の呼び名で「〜まで行きたいんですが」と尋ねられた経験がある。しかし私は駅員として、その土地で働いているが、その土地の人間ではないため土地勘がない。特に営業エリアの広い鉄道会社の駅員は、地元から離れたところで駅員をしていることも珍しくない。駅員はその土地の歴史を知ることも一つ勉強だ。しかし利用者にお願いしたいことは、自分が行きたい駅は現存する駅名でしっかりと把握してほしいということだ。この辺に行きたいとアバウトな目標を立て駅員に相談されたところで、駅から離れた瞬間に我々は案内に責任を持つことができない。地図アプリなどを用いて簡単に案内することはできるかもしれないが、最適解をお伝えすることは結局専門外なので難しい。つまり「〜駅に行く」という明確な目標を持ってから鉄道を利用してほしい。

①の説明から複雑化した鉄道網の攻略について語りたいわけではないという私の意図は読めてきていると思うが、はっきり言って乗務員として感じることは「係員への質問の質が悪い」ということだ。「そんなこと言うなんてお客さまに失礼だろ!」「係員は聞かれたこと何でも答えろ!」と炎上しかねないが、それをも跳ね返すほど質が悪いのは鉄道会社のせいか、はたまた時代が悪いのか。時々攻撃的な記述もご愛嬌。さて電車の乗り方について続きを書こう。

②目的地の駅が決まったら路線図と時刻表を確認する
目的地の駅が決まった。仮にその駅をA駅としよう。はじめに駅に設置してある路線図を確認する。路線図を見ればあなたが行きたいA駅を見つけ、それが何線なのかを確認する。駅は線路に所属しており、大半の鉄道会社はすべての線路に名前をつけている。有名どころで言えば東海道線や山手線といったところだ。路線図を見る限りA駅はB線だ。次に今自分がいる駅は何線に所属しているかを確認する。今あなたがいる駅がB線所属であれば、大抵は乗り換えすることなくA駅に直接行ける列車があるだろう。しかしB線とは違い、C線の所属であれば最寄りのB線とC線のどちらにも所属しているD駅に一旦向かい、B線の列車に乗り換える必要がある。こうして乗るべき列車を決定していく。路線図が複雑になればなるほど、それが難しい。したがって都市圏の方はアプリを使えば一瞬で乗るべき列車がわかるので路線図を見るのはおすすめしない。もはや路線図を見た方が最適解を出すことは難しいだろう。またB線からC線へ直通している列車がある時もあるため、路線図だけで一概に乗る列車を決定することは難しいのだ。だからこそ時刻表を見て、この駅は何行きの列車が存在するのか確認する必要がある。さて時刻表にはB線のE行きの列車が10時50分に発車だ。路線図を見て今いる駅からE駅との間に目的地A駅がある。10時50分の列車は普通列車、すべての駅に停まる。乗る列車は決定した。

さて目的地を決め、自分が何駅に行くかは利用者の大半はわかっている。しかし、自分が何行きに乗れば良いのか分からないままホームで電車を待っている人は意外にも多い。自分が運転していて停車駅に停まった途端、乗務員室のドアをノックされ「A駅に行きますか?」と聞いてくる人は少なからず存在するのだ。ただの心配性で確認しただけならまだしも、「A行き」と電車の外側に行き先字幕として表示しているにも関わらず聞いてくる人もいるから驚きだ。A行きと表示してある列車が最終的にA駅に辿り着かないかもしれないと思う人はあまりにも用心深く自分の目を信じれないのかもしれない。またあなたの行きたいA駅は終点になるような駅ではかったとしよう。というよりも終点駅に行く時は結局A行きの列車に乗れば良いのだからイージーだ。問題は終点駅ではないところへ行く場合である。さてその時は時刻表から見ることをお勧めする。時刻表を見た時E行きの列車とF行きの列車がある。その後で路線図を見て、今いる駅とEとFをなぞってみる。Aがなぞった線上にあれば、それに乗れば良いわけだ。時刻表には何時何分に何行きの列車、そして複数乗り場がある時には乗り場の番号まで記載してあることがある。鉄道会社の職員が汗を流して作った案内情報たちはお客さまに見られることを大好きな恋人に渡す誕生日プレゼントの如く準備がされている。視覚情報は絶対的なバリアフリーとは言いきれないが殆どの利用者は視覚情報だけで目的地に着けるようにできている。

話は脱線もしつつ次の行動へ移ろう。



③乗り場へ行く
さてここが電車の乗り方の中で1番の難関であり、肝である。今あなたがいる駅はどのような構造をしているだろうか。ホームや乗り場が沢山あったり、ホームが2階建てになっているところもあるかもしれない。専門用語で島式、対面式など色々とあるが、やはり構造は電車に乗るだけであればどうでもいい。大事なことは乗り場の番号である。何番乗り場、何番線など色々と言い方はあるが皆さんには数字に着目していただきたい。多くの路線が集まる東京駅や新宿駅などの駅を利用したことがある人はよくご存知かもしれないが大抵の知りたい情報は上を見れば必ずと言っていいほど細かく書いてある。ここでいう「上」は目線で表すと斜め上である。一昔前は上を見て歩いてる奴は田舎者だと揶揄されていた。それはまさしく上を見ていれば案内が至る所に書いてあるからだ。私も田舎出身だが東京に行った時は大抵上を向いて歩いている。今でこそ攻略した迷宮新宿駅も、最近寄ってみたらまた駅構造が変わっていたことに驚いた。しかし事前に調べた最速の乗り換え列車に間に合わなかったことはない。鉄道会社が定めた乗り換え時間で十分乗り換えることができる。上を向いて案内板を見ることの重要性は体験してみなければわからない。スマホを凝視して道を細かく把握し今自分がどこにいるのか分かったところで何の意味もないのだ。大切なことは自分が何番乗り場へ行けばその列車に乗れるのか、そこが重要である。更に鉄道会社も案内を見れば誰でも辿り着けるように丁寧かついたる箇所に案内を設置している。駅員、そして事務方の社員も頭を悩ませながら案内を作っているのだ。鉄道会社の努力も無駄にしてほしくないところである。さて上を向いていれば目的の乗り場に行けることは都会の駅だけでなく田舎の駅も例外ではない。改札をくぐる前から案内は始まっており、あなたが目指すべき場所を電光掲示板や矢印を使った案内板で示してある。時には足元にも「何番のりば」を示すラインまで書いてあることがある。最寄りの駅で是非観察してみてほしい。
さて今回乗る列車は10分後の普通列車E行きだ。駅設置の時刻表にのりばが書いてあれば、そこで解決する。あとは乗り場へ行くだけだ。しかし乗り場の表記は様々であるのも現実。そして駅には電光掲示板を設置している駅もある。電光掲示板には発車時刻、行き先、乗り場、車両の編成数など大量の情報が掲載されている。その情報と駅構内の壁の案内と睨めっこをして乗り場へ向かおう。

この駅の電光掲示板は2段。下の段に10時50分発の普通列車E行きが2番乗り場、そして10両と表記してある。目的地は2番乗り場、ホームへ上がるエスカレーターが2本あるが、右側のエスカレーター近くの壁に2番乗り場と案内が書かれている。このエスカレーターを上がればゴールは後少しだ。



④列車に乗りこむ
エスカレーターでは歩かずベルトを持ってほしい。さてここまできたら、もう間違わないだろう。多くの利用者は確信を得たようにホームにいる列車に乗りこむ。いや待て、先程見た電光掲示板に示されたE行きの普通列車は2段目だった。現在時刻10時40分、果たして10分後の列車がこんなにも早く乗り場にいるのか、一旦冷静に考える。列車に乗りこむ前に確認すべきことがある。それは車両の行き先字幕である。大方の列車には行き先字幕が車両の正面と側面に記載されている。何行きかを示すものだ。ホームで乗務員が聞かれる質問は、この行き先字幕を確認すれば分かることが大半である。何行きなのか、何経由なのか、電光掲示板と照らし合わせればあなたが乗る予定だった列車なのか一目瞭然だろう。しかし自分に自信があるのか、よく利用しているわけでもないのに、ホームに列車がいたらとりあえず乗るという行為に至ってしまう。乗務員たちはこの行き先字幕を自分で設定するのだが、この設定が間違っていれば一発アウト。すぐに新聞やネットの記事にされてしまう。それだけ重要な役割を担っている。だからこそ、利用者の方にもここを見て乗ってほしいと切に願う。
果たして今乗り込もうとした列車はE行きだっただろうか?一旦降りて確認する。いやこの列車は今から5分後のF行きだ。今いる駅から線路は分岐しており、A駅やE駅がある目的地方面とは別の方面行きではないか。この駅では列車の行き先は3方向で今いる乗り場は2種類あるということだ。また1つしか乗り場がない駅で2方向3方向に行く駅もあるだろう。1つの駅、1つの乗り場でも乗り方に差が出てくる。逆の方面に行っちゃったなどアニメや漫画のような話は日常茶飯事でリアルのこの世界でも繰り広げられている。それが笑い話で済むのは都会だけで1時間に10本ほど同一方向に列車が来るような駅であればの話である。私が乗務している地域では1時間に2本、デイタイムでは1本しかない駅がざらにある中で逆方向に乗ったりなんてすることは、その日の予定が根底から覆されるような事態に陥るわけである。
F行きの列車が発車した。
「ご案内いたします。次に2番乗り場に参ります列車は10時50分発E行き普通列車です」
駅の放送案内が流れた。そう今から乗る列車はこれだ。

列車がホームに進入する。
「ただいま2番乗り場に参りました列車は10時50分発E行き普通列車です。ご利用のお客さまは、降りられるお客さまが降りた後にご乗車ください」
また音声での案内が流れた。

このように駅では視覚情報の他にも聴覚情報も常に入るようになっている。
しかし現代ではイヤホンをしてゲームをしながら歩いている若者も若者を憂うおっさんおばさんも例に倣ってスマホを見ている。そして係員がホームにいないから利用の仕方がわからない、サービスが悪いと叫び散らかすのだ。自分から鉄道会社からの案内情報にシャットアウトしておきながら、その様で恥ずかしくないのだろうか?





さて電車の乗り方について想定駅からなるべく簡素な例を出してみたが、いかがだっただろうか。普段から電車を使っている人は「なんだこれ」と思う内容だったかもしれない。しかし田舎に行けば行くほど電車を使ったことがない人は多く、この記述を1回読んだだけでは理解できない方もいるだろう。また田舎では駅できっぷを買えないため、整理券を取って車内で運賃を精算したり、あるいは特急などの乗車券だけでなく料金券と呼ばれるきっぷが必要な電車に乗る機会も出てくるかもしれない。しかし読者の皆さんにやってほしいことは、分からなければ何でも調べるということだ。鉄道会社各社、電車に乗るために必要なきっぷや運賃の支払い方法、乗り方まで情報を掲載している。何も分からないまま行き合ったりばったりで駅に来られたところで、駅員がいない可能性もある。何でも簡単に調べることができる世の中になったが、鉄道の利用方法を調べないまま乗車しにきたという人はやはり多いのだ。逆に身近になったからこそ調べるまでもないと思う人もいるだろうが、あなたが使っている普段の電車と旅先ではルールが違うかもしれない。流行病が収まり国内旅行も人気となってきたが、やはり鉄道を使った旅行をしてほしいと我々鉄道会社職員たちは切に願っている。しかし多忙こそ幸せだが、そんな時こそ利用者の方にはルールやマナーを把握して頂きたい。


まもなく子どもたちが夏休みに入る。家族旅行で知らない土地の鉄道を使う場面が来る前に、是非各鉄道会社のHPを確認し計画を立てて頂きたい。そして調べても分からないこと、HPを見ても理解できないことは必ずある。そんな時こそ我々を頼りにしてほしい。説教じみたことを言っても本音は鉄道を利用してくれる人が増えてほしいだけなのだ。筆者の不器用さに私も呆れるばかりである。



さて鉄道会社にとって収入の見込みがある夏は戦友であり、大敵だ。夏の暑さは乗務員をも熱中症にさせるが、利用者の方も十分気をつけてほしい。そして豪雨には各鉄道会社も頭を悩ませている。また8月中旬のお盆の帰省ラッシュでは、安全にかつ取りこぼしの無いよう利用者を目的地まで運んでいく使命が我々に重くのしかかる。どんな天気でも油断は許されない。おじいちゃんおばあちゃんの元で甘やかされた子どもたちの笑顔が、約束された連休のない我々のモチベーションを上げていく。

親御さんたちにはこの夏、一緒に乗り方などを調べながらお子さんたちに電車に乗る経験をさせてあげてほしい。その経験はお子さんが大人になった時、必ず役に立つ時がくる。考えて行動する力は子供の時の経験から全て決まると大人になって感じるものがある。何も考えず、調べることができるものも調べず、すぐ人に聞いてしまう大人のような見た目をしたお子ちゃまがこれ以上増えるのは見ていられない。せめて自分が乗る列車くらいは自分の力で乗れるくらいの逞しさは必要だと常思う。


そして一緒に調べていくうちにお子さんの方が電車に乗るのが上手くなっていくかもしれませんね。

良き夏の思い出を

皆さまが私の乗務する列車にお越しになることを心からお待ちしております

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