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むかい風を歩くんだ。〜全ての成人にむけて〜

 今日は成人式だという。昔と違い祝日が毎年変わるから、私はまわりから知る事が多い。
 昨年お亡くなりになった作家の伊集院静さんが、成人の日に文章を寄せておられた。サントリーの広告欄で、もう何年前だったかわからないけど、思わず切り取って引き出しにしまっていた。目にした当時、とっくに私は大人だったけれど、そこからまた生き直した気さえする。
 そんな珠玉の文章を、新成人の皆さんに、そして既にベテランの成人の皆さんに、贈ります。

(以下、本文より)

むかい風を歩くんだ。

成人おめでとう。
今日からみんな大人だって?そんなはずがない。1日で大人になれるわけがない。
どうしたら大人になれるかって?
こうだ、という答えはどこにもない。
その上、大人になるには近道もないし、特急券も売っていない。
まずは家を出て、一人で風の中に立ちなさい。
そうして風に向かって歩き出すんだ。
歩きながら自分は何者かを問いなさい。そうすれば君がまだ何者でもないとわかる。それでも一人で歩くことがはじまりなんだ。
上り坂と、下り坂があれば、上り坂を行くんだ。
甘い水と、苦い水があれば、苦い水を飲みなさい。
追い風と、むかい風なら、断然、むかい風を歩くんだ。
どうして辛い方を選ぶかって?
ラクな道、甘い水は君たちに何も与えてくれないし、むかい風の中にだけ他人の辛酸の声が聞こえるんだ。
真の大人のいうものは己だけのために生きない人だ。
誰かのためにベストをつくす人だ。
金や出世のためだけに生きない、卑しくない人だ。
品性のある人こそが、真の大人なんだ。
どうだい、大人って大変だろう。しかしそうでもないさ。
ひと休みに一杯やれる。さあ大人にむかう君と乾杯。
          伊集院  静


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