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2-26 黙って早く穴を掘れ

\環境は人を洗脳する。奴隷根性に染まると、その外の世界があることもわからなくなる。だが、常識に根拠などない。自分の心の枠組を変えれば、世界は変えられる。ただし、それは、足を引っ張り合う奴隷だらけのここではない。だから、黙って壁に穴を掘れ。\

 天空が回っているのではなく、地球が回っている。コペルニクスは、それに気づいた。デカルトやパスカルを経て、カントは、それを哲学に応用した。世界が回っているのではなく、自分が回っている。それなら、自分が変われば、世界は変えられる。ここから多様な実存主義も生まれてくる。

 人は、生まれたときから、他人が捏ち上げた環境に投げ込まれる。親も、家族も、しょせんは他人。そして、他人の作った村、他人の作った国、他人の作った学校、他人の作った会社。環境は人を洗脳する。ああすべきだ、こうすべきだ、あれが当然、これはダメ。ここでは、これこそが「常識」だ、と洗脳される。そうやって、環境は、人の心を殺し、奴隷根性を植え着ける。心底までそれに染めて、奴隷として何も考えられなくする。ああ、ぼくはダメなんだ、何をやってもムダだ、だからこれでいいんだ、と。

 それだけではない。きみもまた、奴隷を増やす仕事を手伝わさせられる。きみは、周囲にも自分と同じ奴隷根性を強いる。自分が苦労してこうしているのに、同じようにしようとしないなんて生意気だ、潰してやれ、と。だから、その環境にいる連中は、足の引っ張り合いで、だれひとり、そこから脱出できない。いや、洗脳が徹底すると、そもそも脱出しようなどとも思わなくなる。その外の世界があるなどと想像さえしない。人生はミジメなものだ、それで納得して、ミジメな一生を送る。

 それは、インチキ宗教に騙されているのと同じ。「常識」なとどいうことに、じつはなんの根拠もない。それは、その環境が、その中の古い連中が勝手に決めていることにすぎない。白人が絶対だ、黒人は奴隷だ、と言われ、その中でいくら従順に努力しても、黒人はけっして白人にはなれない。重要な第一歩は、与えられた環境そのものを撥ね除けること、自分自身の意識の枠組を変えること。ブラック・イズ・ビューティフル、黒人の方が美しい、と言って、奴隷の心情から飛び出した人々こそが、世界の差別を変えた。

 しかし、実現まで余計なことはなにも言うな。心の底まで奴隷根性で硬直してしまった連中は、話しても聞くわけがない。連中は、すでに人生の大半が蝕まれ、もはや変われないのだ。新しい世界には対応できない。彼らにとって、いまさら世界が変わるなどということは、大地が崩れ去るほどの恐怖でしかない。軍国主義や社会主義の安逸な生活に慣れきった旧体制の特権連中が、最後の最後までその崩壊に抵抗したのは、知ってのとおり。余計なことを言えば、きみは危険分子として徹底的に叩き潰される。

 脱獄は、黙ってやるものだ。スプーン一本しかなくとも、コンクリの壁であろうと、努力を続けていれば、いつか穴が開く。だが、時間がかかる。先に気づかれれば、かならずジャマされる。だから、いつもにこやかに笑っていろ。そして、夜中に密かに穴を掘れ。きみの世界は、ここじゃない。外にある。外の世界がきみを待っている。

 騙されるな。きみが変われば、世界は変えられる。きみは自分の世界を手に入れることができる。しかし、それはここではない。きみはここから出て行かなければならない。グチを言っても、だれもなにもしてくれない。それどころか、危険分子として監視を強化し、ジャマをしよう、揚げ足を取ろうと狙うだけ。そうでなくても、さまざまなシガラミが、きみの決意をくじけさせようとするだろう。だが、諦めたら、そこで終わりだ。だから、黙って密かに穴を掘れ。振り返るな。壁の向こうにきみの世界が待っている。

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