2-5 あなたの言葉は悪用される!
\ニュースを売る連中は、記事を飾るために、センセーショナルな有名人の言葉を必要としている。だから、彼らは、最初から人の「話」を聞く気などなく、言葉のシッポだけ切り出して筋肉反射する。\
前農水大臣が反対集会で推進を表明! なんていう記事は、ニュースヴァリューがある。えっ、あの人が推進? と思わせれば、週刊誌は売れ、ネットのヴューも増える。で、実際に本文を読むと、反対運動の推進だったりする。でも、冒頭の見出しはウソじゃない。読むヤツがかってに誤解しただけだ。いや、わざと誤解するように作っている。
記者本人が何を言っても、誰も関心を持たない。だから、売れるニュースを作るために、連中は、人々の注目を浴びている有名人にぶら下がる。そして、その人が言わなそうなこと、言ってはいけないことを言わせようと、誘い水を撒く。文脈なんか、知ったことじゃない。とにかくその言葉を発したという事実さえあれば、ウソにはならない。
新聞記者は帰ってくれ!と怒った政治家がいた。左翼がかった連中が、この手の言葉の切り抜きをやったからだ。しかし、いまや、作為的な映像編集をやるテレビでも事情は同じだろう。ふつう、話は、前置きから始まって、その前置きを踏まえて、その後の言葉の意味が決まり、積み重なっていく。それが話というものだ。たとえば「まったく犬はイヤだね」という言葉も、何にでも鼻を突っ込む同僚の悪口を言い合っていた文脈では、ふつうとはまったく別の意味を持つ。そこだけ切り抜いたら、意味が変わってしまう。
ところが、え、なに、犬、嫌いなの? と、途中から話に割り込んでくるバカがいる。脳みそが無く、耳から舌へ筋肉反射する野郎。それどころか、えーっ、犬ってかわいいですよ、僕んちも飼ってるんですけどね、と、かってに話を続ける。そのうえ、山田さんも、佐藤さんも、みんな犬が嫌いなんだってさ、などと、あちこちで言い散らす。だがね、みんなが「犬」と呼んで嫌っているのは、それこそ、おまえのことなんだよ。
小難しいことを言うと、連中のやり方は、脱構築(デコンストラクション)と言う。もとの文脈もなにも無視して、部分をかってに自分の都合のいいように、自分の中で引用する技法。言ってみれば、他人の家の部材をかっぱらってきて、それで自分の家を飾り立てるようなもの。もとが廃屋なら資源の再生だが、古臭くては飾りにならない。だから、連中は、むしろもっとも旬のところから強奪する。ほら、見て、見て、これ、あの有名なXXさんちの床柱だったんだけど、僕んちじゃ、便器の蓋にしてみたんだ。
連中は、あなたに、自分の記事を飾り立てられるセンセーショナルな言葉しか期待していない。言ったか、言わないか、だけが問題だから、最初からあなたの「話」を聞く気など、かけらも無い。連中には、自分の話の方が先に出来ているのだ。ただ、それの飾りに流用できそうな、知名度のあるあなたの言葉を求め、耳だけをピクピクさせている。
もはやマスコミだけではない。ネットから何から、知名度に対する憧憬と憎悪のコンプレックスが満ちあふれている。有名な話題、人気の人物にぶら下がり、それを踏みつけて、自分を大きく立派に見せたい。連中は、人の話を聞かない。それよりも、自分の話を人に聞いてほしくてしかたないのだ。彼らが必要としているのは、上に登るためにぶら下がれる、他人の言葉のシッポだけ。
しかし、スキャンダルで売る芸能人でもなければ、ウケを狙ってペラペラしゃべり、連中にエサを与えることもあるまい。賢人は、難しい顔をして、たいへん重要な問題だ、とか、前向きに検討しなければならない、とか、あー、とか、うー、とか、ガラクタ言葉ばかりを並べて、連中を窒息させてしまう。けだし、雄弁は銀、沈黙は金。
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