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1-31 本物のブランド品の見分け方

\ブランド品は、上流階級のものではなく、働く人々のためのものだ。そして、そのメーカーが売っているのは、モノではなく、顧客の生き方そのもののデザインとサポート。だから、持主が本物であってこそ、持物も本物になる。\

 こう不景気になっても、円高を利用してなのか、あいかわらず、海外まで出向いて高級ブランド品を買いあさる人々は少なくない。だが、それはほんとうに本物なのか。どうやら根本から勘違いしている人が多いのではないか。

 高級ブランド品は、もとより上流階級のものではない。フランス革命以前、貴族の女性は扇子より重いものを手にしなかった。その後も、せいぜい化粧室で使う口紅一本が入るだけのポーチ。荷物など、召使いか、男が持つもので、カバンなど必要がなかった。旅は自前の馬車で出かけるので、スーツケースは、雨を流すために、上面は半円の屋根状で、召使いが二人で運ぶように両側に取っ手がついていた。海賊の宝箱のような形だ。これらには自分の家の紋章がついており、作った人の名など、どこにも記されていない。

 革命後、上流の貴族は没落し、自分で働く人々に取って代わった。彼らは、信用ある市販の量産品を使った。これが現代のブランド品の起源。たとえば、あるバッグは、もともと重いワインのビンを何本も自分の肩に担いで運ぶ人のためのもの。スーツケースにしても、鉄道の貨物室で、上に他人のものが重ねられても潰れない頑丈なものとして梱包業者が作り始めた。まして女性が財布を持つということは、自分で払う、ことを意味する。

 なにしろ仕事や旅行に使うのだ。簡単に壊れたのでは、途中で難儀する。それゆえ、ブランド品は、その品質の証として、そのメーカーのマークが刻まれており、厳格に生産管理されている。しかし、ニセモノは跡を絶たない。でも、本物には本物の質の良さがあるはずだ、と言うかもしれない。だが、べつに壊れにくい特別な高級素材など使っているとは限らない。あるデザイナーなどは、働きやすいように、あえて好んでジャージやカーテン生地など、とんでもない安価な素材を使う。くわえて、そのメーカーを辞めた職人たちが、メーカーの規格通りに、かってに独自生産してしまうこともある。こうなると、いくらひっくり返してみても、本物とニセモノを見分けるのは容易ではない。

 だが、ブランドとしての品質保証というのは、製造過程だけではない。カバンなど、もともと中身を守るためのものなのだから、使っていれば、むしろあちこちが傷むのは当たり前。だから、ブランドは、その修理を世界中で即座に行える体制を整えている。あの法外な価格は、この保証体制の維持費だ。いくつスーツケースを持っていても、鍵は顧客ごとにひとつ。サイズ直しや、ヴァイオリンケースなどの特注にも応じる。

 だから、多くのまともなブランドでは、顧客管理を徹底している。旅先でなにかトラブルがあっても、どんな顧客がいつのなんのモデルを持っているかわかっているから、修理部品調達を先行し、即応できる。つまり、本物とは、このように、世界のどこの支店に持っていっても、修理を即応してもらえるもののことだ。たとえ、本物のメーカーで作られたものであっても、持主不明になって、市場をさまよい、どこかのだれかに流れ着いたような幽霊品は、メーカーの方も、ブランド保証という意味では対応しかねる。

 持物が本物かどうかは、持主が本物かどうかで決まる。持主が顧客名簿に載っていてこそ、その手元のモノもブランド品として生きる。ブランドメーカーは、モノを作っているのではなく、その持主の生き方、働き方、暮らし方をデザインし、プロポーズし、それを背後からサポートするのだ。この意味がわからないのであれば、いくら高い買い物をしても、それはけっして自分のものにはならない。

『百日一考: 働く人のための毎朝の哲学』

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