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1-03 あなたこそが最大最悪の元凶

\黄色いサングラスをかけていると、世界すべてが黄色く見えてしまいますが、ほんとうに世界が黄色いわけではありません。\


 最近のやつはどいつもこいつも、とか、近ごろはあっちもこっちも、とか、言いたくなったら、それは危ない。というのも、まわりがそんな風になっているのは、まわりをそんな風にしてしまっているあなたがいるからかもしれません。

 十七世紀前半、ヨーロッパでは、新教徒と旧教徒の対立が国際的な三十年戦争にもつれ込んでしまいます。この混乱の時代、フランスの虚弱な文学青年デカルトは、部屋にこもって本を読んでばかり。立派な司法官僚だった父親は、そんな息子を心配し、本なんかよりもっと現実の世界を見ておいで、と、遊学に送り出した。ところが、数年と立たずに、すぐに帰ってきてしまった。それで、どうした、ドイツやイタリアはそんなにつまらなかったのか、と父親が聞くと、いえ、おとうさん、おもしろそうな本がいっぱい買えましたよ、と、デカルトは答えた。

 いまでも、ハワイに行ってもバッグを買い、香港に行ってもバッグを買い、パリに行ってもバッグを買っているOLがいる。出張に行って、札幌でも、大阪でも、福岡でも、飲み屋ではいつもの同じ芋焼酎というオヤジもいる。デカルトも、国に帰ってきて、また引きこもっているうちに気づいた。そうか、どこへ行っても、自分がついてきてしまう。自分は、どんな遠くへ行っても、自分からはけっして離れることができないんだ、と。それで、デカルトは、世界のことよりも、まず自分自身のことの方をよく知って、それをきちんと整理し直そうと考えた。

 あれもつまらない、これもつまらない、と思うなら、それは、あれやこれがつまらないのではなく、あなたがつまらない人なのです。あいつも使えない、こいつも使えない、と思うなら、それは、あいつやこいつが悪いのではなく、あなたこそがだれも人をうまく使えないダメな人なだけです。黄色いサングラスをかけていると、世界すべてが黄色く見えてしまいますが、ほんとうに世界が黄色いわけではありません。

 また、あなたの眼が小さければ、あなたには大物を見ることはできない。針の穴から象を覗き見て、毛の生えた灰色の壁、と評するようなもの。たとえ、よくわからん、と思っても、一呼吸置いて、でも、そういうのも、いいんじゃないか、と言える度量があれば、あなたは象をも腹に飲み込むことができる。

評論家のように、他人や物事にあれこれと文句を言う前に、あなたがそこに行く前の、あなたがそれを見る前の、素のそのものを思い浮かべてみましょう。あなたがその前に現われたことで、それらがうまく行かなくなってしまっているのだとしたら、もういさぎよく身を引くか、さもなければ、うまく行くように、それどころか、自分がいることで、さらによりうまく行くように、自分の方を鍛錬し直しましょう。

 あなたがおもしろい人ならば、あなたはなにをやってもおもしろくて仕方がない。あなたが有能ならば、どんな人からもよいところを引き出すことができる。要は、あなた自身こそが、あなたの全世界を乗せている支点なのです。

 なんでもかんでも自分の視野の中に無理やり押し込めて監視しようとしたりせず、あるがままに遊ばせてやって、良いことでも、悪いことでも、自分が思いもしなかったような結果でも、受け入れてやる。そういう腹の据わった人のいる前では、だれも、なんでも、うまくいくように、それぞれが最善に努めるものです。

『百日一考: 働く人のための毎朝の哲学』

禁無断転載


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