通称マルエフに思う日本ビールの歩み
アサヒから出た〈通称マルエフ〉を飲んだ。
これがまたうまいのなんのって、まろやかな口あたりにビール特有の苦みが抑えられていて飲みやすい。
「うまい」
とつい声に出してしまうほどだった。
通称マルエフのパッケージにはこうある
1986年、低迷するアサヒビールを救った「アサヒ生ビール」。開発記号〈マルエフ〉は幸運の不死鳥を意味しています。「ビールの味の違いは分からない」と言われていた時代に、人々の味覚を信じ、アサヒの王道ビールが誕生しました。今でも限られた飲食店でしか味わえない幻のビールをご自宅でも。2021年の復活をぜひ、お楽しみください。
ビール好きを自負しておきながら、存在を知らなかったのだが、この一文を読み日本ビールの呪縛とも言える辛口・喉越し戦争においての一つの節目を感じた。
アサヒがスーパードライで国内ビールシェアNO.1となったのは1997年。2009年に一度キリンに明け渡すものの、20年以上その地位を保っていた。
それまで業界3位に甘んじていたアサヒが研究に研究を重ね開発した渾身の作品。それがスーパードライだった。
スーパードライの売りは「洗練されたクリアな味、辛口」
そう、ドライは味の美味しさをそこまでアピールしてはいないのである。
シェアNO.1となるためにアサヒは味ではなく、どれだけ多く消費されるかを突き詰めた。
その結果がキレであり、辛口。軽くていくらでも飲めるビールだった。
キレや爽快感を売りにしたスーパードライは着実に支持を拡げ、1987年の発売からすぐにアサヒはサッポロを抜き業界2位に躍り出た。当時50%近いシェアを誇っていたキリンとの距離はまだ離れていたが、業界地図は明らかに動き始めたのであった。
そして、アサヒはこの勢いのままスーパードライと共に躍進を遂げる。
当時の食事スタイルに合わせて作られたドライは主張の強い味ではないため、料理の邪魔をしない上に消費がススム。これが業務用の需要を伸ばしたのだ。飲食店の売上が上がるのはドライとなり店先にはスーパードライの幟が急増した。
それまであったビールの概念を覆す辛口は売れに売れ、数年後には首位銘柄であるキリンラガーを脅かす存在となった。
この辛口の流れに追随するように各メーカーもドライ系商品を導入する。しかし、スーパードライには遠く及ばず今なお残っている銘柄はない。
そして、発売から10年後の1997年ついにアサヒがビールシェアNO.1の座を射止めたのだった。その当時のキャッチコピーが先述した
「洗練されたクリアな味わい、辛口」
辛口が日本ビール市場を制した。それ証明をするかのようにこのコピーが日本中を席捲した。ドライ発売当時は10%ほどだったアサヒのシェアはこのとき40%に迫るものだった。
スーパードライは何よりも消費された。
味わうのではなく”喉越しを楽しむ”。これにより消費は爆発的に増えた。飲めば飲むほど飲みたくなる。これはアルコールのなせる業なのだろう。
ビール好きが「別に味がうまいワケではない(いや、めっちゃうまいのだけども)」と口を揃えるのは喉越しの感覚がうまく伝わらないことに大きな理由がある。ドライによって日本ビールの常識が変わった部分もあるだろう。
いわゆるキンキンに冷えたビールと言うのも、ドライビールだからこその感覚だ。冷めたら味が落ちるので、冷たいうちに飲まなければならない。これも消費を促した要因の一つだ。
そう言えばエクストラコールドを市場に投入したのもアサヒだった。
これに対し本場ドイツのビールやクラフトビール、今回のマルエフもそこまで冷えてなくても十分美味しいと思える味わいだ。
ドライの大ヒットによりガラパゴス的な歴史を歩んだ日本ビール。
辛口・喉越し戦争に一石を投じたのが「一杯の贅沢」を商品にしたプレミアムモルツだった。消費量とは逆をいく攻めた戦略。これが数少ない非上場大企業サントリーというのがまた面白い。
ここ数年は度重なる増税により発泡酒や第三のビールの台頭にはサッポロが大きな役割を担った。大手メーカーによる市販最初の発泡酒はブロイ、第三のビールはドラフトワン。共にサッポロの商品だった。
ブロイはめっちゃまずかった。
ドライが牽引する中、日本のビールメーカーは各社が研鑽を積んでいった。その結果、プレミアムビールや発泡酒などの多様化による価格帯や選択肢の拡充。さらに多種多様な美味しいチューハイがコンビニに並ぶ現在に至る。
ビール自体の消費量も年々減少傾向で昨年ついにキリンがアサヒからビールシェアトップの座を奪還した。
コロナにより業務用の需要が激減してしまったこともアサヒにとって大きな影響となったのだろう。
しかし、そろそろビールと言えば辛口・喉越しという時代に終止符が打たれるときなのかもしれない。
ビールが苦手な人は騙されたと思ってマルエフを飲んでみてほしい。おそらく知っているビールの嫌な味は少ないはず。これを機にビールに興味を持ってもらえると嬉しい。
ビールが好きな人にももちろんマルエフを飲んでほしい。クリーミーで美味いと感じるものの、何杯も飲むのならドライとどちらに軍配が上がるのか。
私自身は狂人の如くビール党なのでジャンルを問わずビールというもの全てを愛している。そして、マルエフの存在を知りビールをもっと好きになった。
通称マルエフが幻としてここまで暖められたのもスーパードライの存在があったからだろう。
ドライの台頭によって日本のビールの歴史はどう変わったのか。そんなことをマルエフを飲みながら思った。
今日もビールはうまい。
参考
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