誰でも自由に過ごせる私設図書室【材木座文庫】〜居場所探訪〜
材木座文庫を訪ねました
スミカ探求舎の直している家を活用していくにあたり、いろいろな使われ方をしている場所を見学させていただいています。
今回訪れたのは鎌倉の材木座の路地にある『材木座文庫』。
チラシには
「小さな町の図書室 どなたでも、本を読んだり、宿題したり、工作したり、おしゃべりしたり自由にすごせる無料の私設図書室です」
とありました。
1階には文庫や古い画集などが並ぶ本棚が。横に座り心地の良さそうな椅子が置いてあり、ここでゆっくり本を読んで下さいね、というメッセージが伝わってきます。
2階には漫画や絵本が沢山。昔懐かしいタイトルから、今の小学生に人気のシリーズまで。パズルやオセロなどのゲームもあり、子ども達は自分が好きな物を探して、読書をしたり遊んだりしていました。
子ども達が没頭して遊んでいる間に私は、材木座文庫を運営されている通称ノラさんにたっぷりお話しを聞くことができました。
私設図書室を始めた理由
材木座文庫には、Wi-Fiもあり自由に飲めるお茶もあり、基本的には無料、時間制限無しで誰でも利用できます。運営費は大人からのドネーション(寄付)と本箱主さん、壁アート主さんの利用料のみです。つまりノラさんのボランティアどころか持ち出しの方が多いのではないかという状況。
何故そこまでやるのか?
「自分がやってもらったから、ですね。」
それはノラさんの幼少期に遡ります。近所にイギリス帰りのおじいちゃん先生が住んでいて、時々森の中のご自宅を開放して下さっていたのだそうです。そしてそこには彫刻家、写真家、作家の卵などクリエイティブな若い人がたくさん集まっていて、同じ場所で子ども達も遊び回っていた。その時はそんな場所が特別だとも思わず、ごちゃ混ぜの居心地の良さだけが体感として残っていました。
時は流れ大人になったノラさんは自宅と会社を往復するだけの日々。そんな中コロナ禍がやってきて立ち止まる時間ができた時思い出すのは、個性豊かな大人達が集まる場所に子ども達もいる風景。今まで何かのために、と貯めていたお金は今使うべきなのではないか、と思い立ったのでした。
そこからノラさんは自宅の近くの、街道沿いの使われていないガレージがあるお宅などに一軒一軒飛び込みで自分が想い描く場のイメージを伝えて回りました。場所は鎌倉の海に近い材木座。家賃が高くて条件が合いません。
諦め切れず町内会の方に話しにいったところチラシを近所の方々に配ってくれたそう。通りから中に入った路地に空き家を所有していたご婦人がそのチラシを見て、
「そういうことなら貸しましょう。お店にはしたくなかったの。」と言ってくれたのでした。
そこは大正14年築のもうすぐ100年になる古民家。いろいろなハードルを乗り越えノラさんはこの家を借りる決意をします。床を直す費用などは持ち出しで。息子さんのお友達の大学生達が空き家や古民家活用に興味があり、DIYでの改修を手伝ってくれました。
2階の奥にハシゴがついたスペースが。息子が見つけ「登っていいの!?」とノラさんにOKをもらい目を輝かせて遊び始めました。
「ここ物置だったんですけど、ハシゴをつけたら楽しそうだなぁって。でも子どもって敏感で始めはここに入るのに一段下がってて少し暗い感じがしてたら誰も寄り付かなくて。コルクで高さを手前の床と合わせたら、段々遊ぶ子が増えてきました。」
小さな布団も敷いてあり、小さい子が寝てしまったらお昼寝スペースにもなりそうです。
熱い想いを応援する人達
いっぱい人が来ていて、私がいろいろ質問攻めしている間にも、子ども達の様子を見て対応してくれたり、ご近所さんや初めて来たお友達と挨拶したり、ノラさんは目配り気配りを絶やしません。
沢山の本、漫画や絵本、古い物や新しい物もあるので、どうやって集めたんですか?ときくと
「この棚の漫画はほとんど大家さんのですね。この新しい漫画全集は小学館に勤めている友達からの寄贈です。」と。
無料で利用しているのに子ども達にジュースとビスケットを下さったので驚いていると、賞味期限が近いからという理由で「子ども達に」と寄付があったそう。
本箱主さんはどのような方がいるんですか?ときくと教えてくれた本箱。そこにはシールやアートの絵葉書を「ご自由にお持ちください」と。利用料を払って、更に来た人を喜ばせようとしている気持ちが伝わってきました。
他にもこの日は鎌倉竹部のあやこさんによる竹ヒンメリ作りがあったのですが、ノラさんの活動に賛同したあやこさんは参加費の全てを材木座文庫の運営費として寄付をするとのことでした。
管理人ノラさんの熱い想いと行動力に吸い寄せられて、この場を盛り上げたい、応援したい、という人達が集まってきていました。そのみなさんの想いがまた置いてある物一つ一つに宿って、この材木座文庫の「ここにはいつ来てもいいんだ」という雰囲気を作り出しているように思いました。
「なんかこういう変なことしてる人がいると、いろいろ変なことがやりやすいんじゃないですか?」
というノラさんの言葉には私も共感しました。
私達がボロボロの空き家の改修と活用をやろうと踏み出せたのも、近所に自由な発想でいろいろなことをやっている人達がいたからで、今もご近所では「こういうのがあったらいいな。」というものがどんどん生まれています。私達の活動を面白がってくれる人がこういうことをやりたい!とアイデアを持ってきてくれることもあります。
「子どもだけの居場所にはしたくなかったんです。こういう場所って学校に行けない子のサードプレイスになったりするのかもしれないけど、子どもばっかり集まったらそういう子達は来づらいかもしれない。大人やお年寄りもいればごちゃごちゃになって、誰でも来ていいんだ、という雰囲気が作れるかも。そういうことはどこにも謳ってないんですけど。だからあくまでも『図書室』ということだけしか言ってないんです。」
実践者としての試行錯誤が感じられる言葉一つ一つに勇気をもらいました。
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