見出し画像

オオカミ幼女

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/618350/

妹は狼だ。例えではなく、本当に狼だ。

「ねねちゃん、食べるときは口を閉じなさい」
叔母はマナーにうるさい。すこし行き過ぎているが、間違ったことは言っていないのでなにも言い返せない。妹はまだ5歳だが、言うことをよくきいた。もぐもぐもぐもぐ。

「さつき、箸を舐めちゃいけませんよ」
やってしまった。叔母の前であることを忘れていた。それにしてもいちいちうるさい。こんな食事は楽しくない。みんなが楽しく食べるためのマナーじゃないのか。食事中にマナーの話ばかりしてはいけない、というマナーがあればよかったのに。しかしそのマナーを守らず相手を不快にさせた私にも非はある。ここは素直にごめんなさいしておく。

妹は必死になっておにぎりを食べている。ぱくぱくぱく。ごはん粒がついた指をぺろり。あぁ、かわいい妹。
「指を舐めるのもだめよ。それと、おにぎりは歯形が残らないように食べなさい。一口食べたら、その両端を食べて噛み口を水平にするの」
歯形…?そんなマナーは聞いたことがない。うるさいうるさい、あほらしい。助けをもとめて母をチラリと見るが、そもそも話を聞いていないのか、もくもくと食べ続けている。

瞬間、妹が叔母に食らいつく。頭。肩。腹。むしゃむしゃばきばきばきむしゃ。叔母に残った「噛み口」は、ものさしで引いたように美しい水平線だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?