見出し画像

【短歌】マニラへの旅|文語の定型短歌を詠む 20

亡き父の学友フロレンスおうふマニラへの旅 幾度いくたび目かの

赤き靴幼き我に買ひくれしフロレンス翁 去年こぞより仰臥ねたきり

両手拡げ My Japanese daughter! マイ・ジャパニイズ・ドオタアと 呼ぶ声と笑み 昔のままに

ケネディーの時代留学生仲間なりき 父の思ひ出 に語る翁

日本兵に父も兄姉けいしも殺されし翁 アメリカで我が父を知る


2012年9月詠 『橄欖』2012年12月号初出


2022年5月10日記 
今朝のニュースで、フィリピン大統領選の結果を知った。
かつての独裁者マルコス元大統領の長男が当選した。
あのイメルダの息子である。

長期に渡って富を私物化し、格差を引き延ばし、国の経済発展を遅らせていた腐敗しきったマルコス政権の悪夢が甦る。

今は天国にいるフロレンス翁は、EDSA革命でマルコスを倒した市民たちの力で擁立されたコラソン・アキノ大統領に任命され、最高裁判所の判事を務めた Justice Florenz D. Regalado である。

自由と民主主義を愛し、前政権が残した汚職まみれのフィリピン官界と産業界に立ち向かった名判事として知られた。

フロレンス翁と私の父は同じ大学の法学部で「アジアからの留学生」として学んだ仲である。ジョン・F・ケネディー大統領の時代だった。

二人の友情は子と孫の代に受け継がれ、80年代には子の世代が2国間を行き来したし、今は翁の孫たちが来日して私の母の家に泊まる。

私は、フロレンス翁のひ孫にあたる A ちゃんの Godmother となった。
翁の長女で小児科医師の Dr Regalado-Garcia さんの初孫である。

フィリピンは再び「マルコス大統領」が率いることになったが、
A ちゃんのためにも、未来への希望を捨てずに歩みを進めたい。

日本兵に父も兄も姉も殺され、少年ゲリラ兵として闘ったフロレンスと、
かつての軍国少年から戦後に弁護士を志して法学部へ進んだ我が父が、
米国の大学で出会い、親友同士となることができたのだから。