見出し画像

【短歌】悲の記憶 |文語の定型短歌を詠む 7


さらさらと流るるときもふつふつと沸き立つときも我が心なり


悲の記憶に襲はれ黙すに気づき運転席よりつまは手を延ぶ


何も聞かず何も語らず左手で我が右の手をつまは包めり


たちまちに温かきもの流れくる手に腕に胸に我が身すべてに


右を向きてつまの横顔見つつも声にいだせじ感謝の念を


2011年9月 詠

初出:『橄欖』2011年12月号