公募戦士への海外就職のススメ(給与編)

本noteは特にテーマが決まっているわけではないのですが,若い研究者を目指す人に向けて書くように努めております。「公募」と言った場合,ほとんどの場合日本の大学を指すわけですが,(内部にいる人間としては非常に言いにくいですが)昨今の我が国の国立大学事情はあまりよいものとは言えません。その理由はいろいろありますが,今回は「懐事情」に絞ってみようと思います。

国立大学30代後半准教授の懐事情

そもそも,明治・大正あたりの本を読んでいると「学者は貧乏」というイメージで描かれることが多いように思います(もしくは金持ちの親を持った息子の道楽,という感じ。女性は想定されないことが多い。)。一方,昨今では某漫画(ドラマ)のように「お金を稼いでる」という華やかなイメージがあり,いつの間にこのイメージが入れ替わったのか不思議でなりません。

で,そんな大学教員の懐事情ですが,国立大学の給与は概ねどこも同じで,地域手当ですとか,大学によっては科研費を取ると+αの給与があるとか,そういった点での違いしかありません。そして,国立大学というのは給与を概ね公開しているという点が明瞭です。

ここでは,地方大学として島根大学,中規模な都市の大学として広島大学,都市の大学として東京工業大学の給与をそれぞれ比較してみましょう。

島根大学のモデル給与

https://www.shimane-u.ac.jp/_files/00276450/yakuin-houshuu-r3.pdf

【教育職員(大学教員)】
○ 35歳(助教)
月額 329,200円 年間給与 5,907,712円
○ 50歳(教授)
月額 485,500円 年間給与 8,416,273円
※扶養親族がいる場合には,扶養手当を支給
配偶者:6,500円(職務の級が5級の職員は3,500円)
子:1人につき10,000

令和3年度島根大学役員の報酬等及び職員の給与の水準の公表 より抜粋

広島大学のモデル給与

https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/188722/%E4%BB%A4%E5%92%8C%EF%BC%93%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E3%80%80%E5%BA%83%E5%B3%B6%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%81%AE%E5%BD%B9%E8%81%B7%E5%93%A1%E3%81%AE%E5%A0%B1%E9%85%AC%E3%83%BB%E7%B5%A6%E4%B8%8E%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf

【教育職員(大学教員)】
○ 27歳(大学院(博士課程後期)卒初任給)
月額 312,400 円 年間給与 4,723,867 円
○ 35歳(助教)
月額 362,766 円 年間給与 6,044,406 円
○ 50歳(教授)
月額 524,167 円 年間給与 8,966,402 円
※扶養親族がいる場合には、扶養手当(配偶者6,500円、子1人につき
10,000円)を支給

令和3年度広島大学役員の報酬等及び職員の給与の水準の公表 より抜粋

東京工業大学のモデル給与

https://www.hit-u.ac.jp/guide/information/pdf/R3/R3_salary.pdf

大学教員
○27歳(助教:博士修了初任給)
月額 301,900円 年間給与 4,419,234円
○35歳(助教)
月額 401,069円 年間給与 6,509,824円
○50歳(教授)
月額 591,980円 年間給与 9,846,988円
※扶養親族がいる場合には、扶養手当(配偶者月額6,500円(教授は3,500円)、子1人につき月額10,000円)を支

令和3年度国立大学法人東京工業大学の役職員の報酬・給与等について より抜粋

概ね,35歳で地方大学は600万円程度,都市部では650万円程度が想定されているようです。なお,医療職は概ね上記と異なる給与体系となっていますので,ここでは考慮していません。

また,参考までに,35歳の年収の中央値は,諸説ありますが概ね450万円程度のようです。

筆者の場合は地方の国立大学勤務ですが,幸いなことに30代前半で准教授になれましたので(運ですけど…),35歳の頃は概ね650万円を少し超えていたような記憶があります。

さて,中央値(もしくは平均値)と比べると,大学教員は概ね150万〜200万円程度高くなっており「高級取り」の部類と言えなくはありません。一方,ほとんどの人は博士課程を出た後オーバードクターを経験していて就職の年齢が遅いこと。また,博士課程在学中の生活費や学費の支払いを考えると,実際のところはそれほど高い給与ではありません。
学会やその他の付き合いで吹っ飛んでいくお金もそれなりにありますし,領域によっては教員が出張や資料の費用を自腹で賄っているケースもあるそうです。

海外の大学も視野に入れよう(入れてほしくはない)

トータルで見ると,「安くはないが恵まれているほどではない」のが国立大学の教員です。また,東日本大震災の際に「復興財源に充てるから給与を7.8%カットな^^ 」という非常にぶっ飛んだ政策が通ったことがありますので,今後似たようなことがないとは言えません(ほぼ確実に来るであろう東南海地震とか・・・)。ちなみに,これに関しては裁判所も合法の太鼓判を押しています。

そこでおすすめが,領域と事情が許すなら海外の大学に就職することです。いくら給与が高くても,色々な意味で課題の多い中国の大学とかはオススメしにくいですが(個人の感想です),各国の大学では言語力さえあれば結構日本人でも就職は可能です。
例えば,私の領域の同じポジションで検索してみると,某先進国の大学で1200万円程度の待遇がヒットしました。その場合,英語で授業ができることと同時に,5年程度を目安に当該国での言語で講義を持てるようになること,という条件がついています。

ちなみに,筆者個人の経験談を言えば,某国の大学から「2500万円4年の契約でうちの大学に来ない?審査に通れば教授としてずっといてもいいよ!」と言われたことがあります。ちょっと心が揺れました(笑)

個人的に印象深い出来事といえば,若い頃に若手研究者を集めるJSPSの会に関わったことがあります。

そこに参加している若い優秀な方は多種多様なバックグラウンドで,灘高から京都大学医学部に行って博士になった!というエリート街道を爆走しているような方もいれば,地方の工業高校から工専,そこから編入した大学で博士になった!というような方までおられました。が,(悲しいことに)かなり多くの方が海外での就職を視野に入れるか,既に就職をきめていました。
これには今回テーマに挙げた懐事情ということもありますが,研究面での待遇が良いこともあります(後者は別の機会に筆を改めます)。

我が国の現状を憂えるならばオススメしたくはないのですが,個人の生活を考えるなら海外就職もなかなかアリです。何も定住まではしなくても,5年程度働いてハクをつけてから日本に戻るという選択肢もありますしね。
公募戦線で悩んでいる方,リフレッシュしてみるという意味でも,海外の公募情報も眺めてみてはいかがでしょうか。

以下は投げ銭用の短文で,ご購入いただいても何の情報もありません。

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