すまほらいとにん

あなたの辛い話、苦い話、悲しい話などおしえてください。

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もう誰もが信じられなくてイライラした。 都内まで40分のベッドタウンに買ったこのマンションのリビングは当初モデルルームのような生活感のない綺麗さがあったが、今はモノが散乱し見る影もなかった。 昨日の夜使った爪切りを棚の引き出しに仕舞うこともできない自分にイライラしたし、ソファに読みかけの女性誌と食べ終わったキャラメルコーンの袋を置きっぱなしにしている妻にもイライラしていた。 1年程前に親友に結婚することを話した時、 「思った通りにいかないし、苦労することも多いから気楽にやれよ

    • コントロール

      この日光を浴びない生活になってからどのくらい経つだろう。 一月ほど前に住んでいた居住区は政府の管理区域になり、現在の地下にある居住区に移った。 湿気が酷い。コンクリートが剥き出しの壁は模様のようなカビが目立っている。 生活に必要なものの殆どは地下にあり、徒歩での移動が面倒だがそれ以外で不便を感じることはなかった。 今は昔と違って仕事は政府から与えられるもので、配給品の管理をリモート操作で行っていた。配給品といっても生活用品から食料まで様々だ。 今は食料の管理を行ってる。粉末

      • 冬の終わり

        「ねえ、一緒に買い物行かない?」 都内で働いていた頃は誰かと買い物に行くことなんてなかった。 最近車も買い替えた。以前の車は車高が高く、彼女が乗り降りするには少し大変だったからだ。 今では当たり前のように一緒にいるが、彼女との出会いは偶然だった。 実家の会社を継ぐために勤めていた都内の会社を退職し、引っ越しを母親と妹に手伝ってもらい高校3年まで過ごした実家の一室に戻ってきた。 大学から会社を退職するまで市川のマンションで過ごしてきたが、成田に比べれば彩りのある生活だった。

        • 旨味

          「届きました。いつもありがとうございます。 また写真アリできますか?エプロンを着て旦那さんとのツーショットならありがたいのですが。」 いつものようにSNSのDMの返事を書いた。 母乳を買い始めたのは40歳に近くなったぐらいからだと思う。鏡を見て明らかに生え際が後退してきたあたりから誰かに甘えたくなった。 身近に甘えられる人どころか気軽に話せる人もいなかった。大学時代の友達は皆結婚して子育てに忙しい。最後に付き合った彼女も10年ぐらい前に結婚した。 会社では名ばかりの主任で口

          コンビニのあの子

          梅雨の時期になると必要以上にジメジメするこのマンションが嫌いだった。大嫌いだった。 部屋の湿度は80%近くまで上がることもある。室内にいるだけで疲れるような重い空気は温水プールの更衣室より酷かった。 部屋の木製の棚にカビが生えているのに気づいてすぐにヨドバシカメラで1番評価の高い除湿器を買った。 除湿器なんて買う人いるんだって思ってたけどまさか自分が買うとは。 けど、それからはかなり快適になった。 マンションの住んでいる部屋は北向きで通りとの間に背の低い飲み屋の入ったビルがあ

          コンビニのあの子

          パパは母乳ソムリエ

          会社員山村孝之は結婚2年目、妻のユキエと生まれたばかりのユミがいる。 ユキエは母乳が出にくく、粉ミルクに頼らざるを得なくなったがユミはいまいち満足していなさそうだ。 こうなったら俺が粉ミルクを選んでやる。孝之は趣味でワインソムリエの資格をとっておりテイスティングには自信があった。 俺ならユキエの乳に近い粉ミルクを選べる。 会社員山村孝之が妻ユキエの母乳に似た粉ミルクを選んだことをきっかけに、たくさんの「母親」の母乳をティスティングし生み出すストーリー。 誕生と別れありの驚き

          パパは母乳ソムリエ

          おじさんとおばさん

          私がまだ小さい頃、家におじさんとおばさんがいました。 お母さんとお父さんは仕事で家にいないことも多かったからおじさんやおばさんと遊んでもらったりすることが多かったです。 家には家族団欒ってものはあんまり縁がなかったし、それでもちょっとお母さんとお父さんは仲が良さそうだったから不安に感じることもなかったと思います。 たまにみんなが家にいるときは近くのサイゼリアに行きました。 私はグリーンピースに卵がついてる料理が好きで真っ先に頼んでいました。 おじさんは「コスパ最強だからな」

          おじさんとおばさん

          記念写真

          部屋を片付けていて、ずっと昔に心のどこかへ置き忘れた写真を見つけた。 その写真は僕とその時付き合っていた彼女が東京タワーの展望台で記念に撮ったものだった。 僕らは今より少しふっくらしていてまだぎこちない振る舞いで手を繋いで笑っていた。 懐かしかった。もう10年ぐらい前か、と思いながら小さな達成感と恋のカケラを切りとった瞬間を再び頭の中で組み立てていた。 僕と彼女は友達の紹介で出会った。会社で働き始めて2年目の頃だ。 当時はmixiやメッセンジャーが流行っていて、街を行く人が

          宝探し

          部室を出て建物前の喫煙所で一服しながらこの後何をしようか考えるのが放課後の楽しみだ。 いつぞやの文化祭の時にアイツと一服して仲良くなったのも懐かしい。強めのメンソールで少しむせたが、平然を装い出発する。今日もカードショップに寄っていこう。 横断歩道をそさくさと渡り、坂を降りると向かいの通りのファミマがファミチキを買えとささやく。いや、絶対買わねえ。 ファミチキを買う金でストレージのカード何枚買えると思ってるんだと心の中で突っ込みながら、今日は誰かストレージ漁ってるかなと考え

          潤滑油

          「私は例えるならば潤滑油です。人と人の間に入りうまい具合に物事を進めるのが得意です。」 面接の場ではいつもそうアピールしていた。他に取り柄がなかった。 2着買えばパンツが1枚ついてくる量産型のリクルートスーツに身を包み、乗り慣れない満員電車に揺られる毎日。 吊り革に掴まりながら「自分が何をしたいのか」をあらためて考えてみたが、特に思いつかない。 目の前にある合同説明会の中吊り広告には眩しいくらいキラキラした就活生が写っている。 こいつは何をしてたんだろう、サークル活動を頑張っ