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「映画バカ塗りの娘を観た」について

お気に入りの食器だと飯は美味くなる

縄文時代から焼き物(陶器や磁器や土器など)の歴史が続くここ日本には、名産地と呼ばれる地域が何ヶ所かある。有名どころだと「有田焼」とか「備前焼」とか。
焼き物の知識はあまりないけど、以前訪れた「益子焼」で有名な栃木県益子町に行った際には そこに並ぶ数多くの焼き物屋の店内を見回るだけでとてもワクワクさせられた。
その日以降、家の食器棚の食器は全て益子焼の器となることとなるし、今では推しの陶器作家もいる。
今でも年に一回は益子まで行って、ビビッとくる陶器はないか探しに行っているのだ。

食器は益子焼。 それと普段使っている箸は青森県弘前市にある『津軽塗の源兵衛』という店で買った津軽塗りのものである。
この津軽塗の箸なのだが食事に使うのはもちろん、炒め物などする際に菜箸としても使うくらいハードな扱いを長年されているにも関わらず、塗装が剥げたり欠けたりが全くない。
この箸のデザインが好きで購入したのだが、見た目もいいし更に頑丈ときている。

適当な食器を使っていたらずっと気がつかなかったことだが、普段使っている食器を自分で厳選し、その職人が拘って作った作品に替えると飯が美味くなる気がするのだ。これはホント。

 

舞台が弘前という理由だけで観に行った作品だったが…

「私、漆続ける」その挑戦が家族と向き合うことを教えてくれた――青木家は津軽塗職人の父・清史郎と、スーパーで働きながら父の仕事を手伝う娘・美也子の二人暮らし。家族より仕事を優先し続けた清史郎に母は愛想を尽かせて出ていき、家業を継がないと決めた兄は自由に生きる道を選んだ。美也子は津軽塗に興味を持ちながらも父に継ぎたいことを堂々と言えず、不器用な清史郎は津軽塗で生きていくことは簡単じゃないと美也子を突き放す。それでも周囲の反対を押し切る美也子。その挑戦が、バラバラになった家族の気持ちを動かしていく――。

朝から渋谷まで行ってきたのよ

青森県の空気が肌が合うというか、ナンダカンダでよく青森に赴いている。興味深い歴史と文化をもっと知りたくなるのが青森という土地だ。

その青森県を舞台にした映画『バカ塗りの娘』が先日公開されたので早速、映画館に行ってきました。青森が舞台の上「津軽塗り」の話ということで、これは僕のための作品なのかと思っていた。 ただ過度な期待は禁物だ。面白いと思える作品なんてそんなには出てこないしね。

でも先に結論からいうと凄く僕好みの作品でした。もはや2023年に観た映画で暫定No. 1です。
基本的に最初から最後まで静かに進む話で、奇をてらうような派手な演出は全くない。ただ後から内容を振り返ると、各登場人物の発言や立ち振る舞い、それを映像にするカット割、全てに意味が含まれているのではないかと思うようになった。

男とは 女とは 家族とは 価値観とは

この映画は津軽塗り職人の家族の物語である。
不器用な人達の物語である。
ほつれた糸のような関係性から目を背けていた家族が、長男の恋人が現れたことがきっかけで、自分自身と家族の関係に向き合わされることになる。

「家業は長男が継ぐもの」「女は結婚して子供を産むことが幸せ」「愛し合えるのは男と女のみ」
一昔前の当たり前が 当たり前でなりつつある今の世の中で、その価値感の変化に嫌でも向き合わなければならなくなった "古くから続く伝統工芸を生業としてきた” 人々の心が徐々に動かされていく。
漆塗りでほつれた家族が、再び漆塗りで生まれ変わっていく様がこの作品では丁寧に描かれている。

長男の恋人が結婚式場中庭の新婚夫婦の写真撮影をぼんやりと見つめるシーンとか、通夜振る舞いの際に女性達だけが台所に立ち食事の準備をする中 男たちはテーブルを囲んで酒を飲み始めているとか、この作品を観終わった後に振り返ると それは意図的なシーンだったのかなと思った。

いろんな角度から感じることが出来る素晴らしい映画だったけど、ここまでネタバレ無しで書いてみてうまく言語化出来ない自分に苛立つ。
だが安心して欲しい。『バカ塗りの娘』のパンフレットに載っている月永理絵さんのレビューが素晴らしく、僕の言いたいことを全て代弁してくれているので、この映画を観て良かったと思った人はぜひパンフレットを見てもらいたいです。

こんな文章が書ける人になりたい

なんか伝統工芸である「津軽塗り」のことをもっと知りたくなった。

映画の中でも触れられていたが、伝統工芸の後継者不足やマーケットの縮小などで前途は多難だ。廃業せざるを得ない職人も多いという。
津軽弁のような方言も含めてそういう「文化」がなくなることは日本が日本でなくなってしまうということ。それを無くさないためにはその「文化」について人々に興味を持たせ続けることも重要だと思う。そういった意味でもこの映画の価値はあるのではないでしょうか。

あと、王さんもJさんもとても良い演技をしているのでfarmerの皆さんはぜひ観てやってください

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