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現代イスラーム思想

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近代性という「猛獣」を手懐ける―イスラーム的アプローチ(3)精神の隠遁

イスラームの歴史から見てこのような状態は極めて例外的である。例えばムラドはインドネシアのジャワ島のイスラーム化の過程を例に挙げる。インド洋によって南アジアや中東などのムスリム世界から分け隔たれていたため、イスラームは軍隊の遠征を通じてではなく、ムスリム商人によってジャワにもたらされた。それらの中には、神話的要素も含む「9人のイスラーム聖者(ワリ・ソンゴ)」がおり、ジャワ先住民の間でイスラームの普及

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近代という「猛獣」を手懐ける―イスラーム的アプローチ―(2)近代的アイデンティティの崩壊

エヴォラについての話に戻ると、ムラドは彼を「預言者のようでありながら悲劇的な人物」と呼んでいる。彼の近代に対する洞察は有用でありその予測は不気味なほどに正確であるが、ファシスト的な観念と「ヨーロッパの第三の遺産」であるイスラームに対する悲劇的なまでの無関心によって汚染されている。伝統主義として知られるエヴォラのイデオロギーは、現代世界の行く末に対する警告を顧みない反近代的悲観論である。ムラドによれ

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近代性という「猛獣」を手懐ける―イスラーム的アプローチ―(1) リベラリズムの虚構

近代という「猛獣」を手懐ける―イスラーム的アプローチ―

ティモシー・ウィンター教授としても知られるアブドゥルハキーム・ムラド師は、現代を代表するムスリム知識人の一人である。英国のケンブリッジ・ムスリムカレッジの運営から世界各地での講演、研究活動や論考の発表など多くのプロジェクトに携わっている。2016年にムラドは近代性とその課題について講演を行った。そこで彼は「虎を乗りこなす」という表現を用いて

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