『キッズ・ザ・カフェ』第3話(最終回)【創作大賞2024 漫画原作部門 応募作品】
【本文】
○佐伯家・梓の部屋
原稿を書いている梓。と、梓のスマホに通知が来て、LINEを開く――グループLINEにメッセージ。
健太のLINE「大変! 『キッズ・ザ・カフェ』が無くなる話、三ヶ月前から決まってたらしい」
梓「はあッ……?」
と、慌てて返信をする。
梓のLINE「え、どういうこと?」
それぞれ返信が来る。
真由のLINE「そうなの?」
拓也のLINE「マジで?」
かおりのLINE「知らなかった……」
健太のLINE「うちのクラスの子の親が、『キッズ・ザ・カフェ』に飲み物をいつも配達してるらしいんだけど、三ヶ月前に店が無くなる話を増田さんから直接聞いたんだって」
梓、返信をする。
梓のLINE「ねえ、明日お店に来れる人?」
と、真由、拓也、健太がスタンプで『OK』と返信。
○『キッズ・ザ・カフェ』・店(翌)
梓、真由、拓也、健太、増田がテーブルを囲んで話している――一同、険しい顔をしている。
梓「ここが無くなる話、前から決まってたんですね」
増田「ごめん……」
真由「悔しいわ、すごく……。みんなそれぞれに頑張ったのに、何も変えられなくて」
健太「怒りたくなるのも分かる。けど、一番悔しいと思ってるのは増田さんなんだから」
真由「……」
梓「そういえば、最近かおりとみのりちゃん見ないけど、どうしたんだろう?」
拓也「確かに。もう一ヶ月は来てないよね」
と、みのりが入ってくる。
みのり「ハッハッハッハー。この世の全てを征服する、そう俺様こそが頭脳派ユーチューバーたっくんだ!」
拓也「みのり!」
みのり「こんにちは」
梓「どうしたの、しばらく来てなかったけど」
みのり「パパが、行っちゃいけないって」
健太「え、パパ?」
みのり「(振り向くと)あれ、お姉ちゃん?」
と、出ていく――店前で立っているかおり。
みのり「どうしたの、お姉ちゃん?」
と、かおりを連れて入ってくる。
かおり「(うつむいて)……」
梓「どうしたの?」
かおり「……増田さん。この店を売ってほしいと言ってきてる人って、竹下っていう人ですか?」
増田「ああ……。竹下商事っていう会社の社長さんだけど、どうしてそんなこと……」
かおり「その人、私たちのお父さんなんです」
増田「え?」
一同、驚いてかおりを見る。
かおり「私たちが配っているチラシを、会社の人がたまたま見たんです。それで、お父さんにもそのチラシが渡って、私とみのりがここに来てることを知ったんです。それで、もう行くなって言われて」
増田「そうだったんだ……」
真由「ずっと仕事で家にいないって、この店の立ち退きのことだったの?」かおり「うん……」
真由「じゃあかおりは、ここがどうなるのか初めから分かってたんじゃない?」
かおり「それは違う! お父さんの仕事のことなんて何も知らなかった」
拓也「もしかして、ここを調べるために近づいたの?」
健太「俺たちの気を引くために、チラシ、作ったとか?」
増田「おい、やめないか、みんな」
かおり「いいんです。何言ったって信じてもらえるわけないから」
一同「……」
かおり「今日はみんなにお別れを言いに来たの。もう、二度と会うことはないと思う……さようなら。(とみのりに)行くよ」
と、一礼すると、みのりを無理やり連れて逃げるように出ていく。
梓「かおりッ……! (と追いかけようとするが立ち尽くして)ちょっと、みんないくら何でも言い過ぎじゃない?」
一同「……」
梓「かおりは、本当に私たちと友達になりたかったんだよ。居場所が欲しかったんだよ。それなのに、私たちがかおりの居場所を奪ってどうするのよ!」
真由「その私たちの居場所だって無くなるの。それを奪ったのは……それで、かおりたちとどう接しろって言うの」
梓「私たちが、また居場所作ろうよ」
真由「どうやって?」
梓「それは……」
真由「答えも出てないのに、そういうこと言わないでよ。小説みたいに、ひらめきやアイデアでどうにかなるものじゃないんだよ」
拓也「増田さん、どうにもならないんですか?」
増田「立ち退きまで、一ヶ月だからな……」
真由「決まったことに何を言ってもムダだってこと。諦めるしかないよ」
拓也「あー! ちくしょー!」
○公園
ベンチで座って泣いているかおり――心配そうに見ているみのり。
みのり「お姉ちゃん?」
かおり「みのり……また新しい友達作ろうね……」
みのり「うん……。でも、『キッズ・ザ・カフェ』は?」
かおり「……もう、あそこには行かないの。行けないの」
みのり「……」
かおり「私はただ、友達を作りたかっただけなのに……」
みのり、ポケットからハンカチを取り出し、かおりに渡す。
かおり「ありがとう……(と涙をふく)」
○『キッズ・ザ・カフェ』・店
T『数日後』
増田が掃除をしている――それぞれテーブル席で小説執筆中の梓、台本黙読中の真由、タブレットで動画編集中の拓也、勉強中の健太。一同、何となく元気がない。
梓「増田さん、立ち退きって、いつまでって、具体的な日にちは決まってるんですか?」
増田「それが、あれから何の連絡もなくて」
一同「えっ!?」
健太「まさか、だまされたとか?」
真由「え、詐欺ってこと?」
梓「そんなバカな……」
拓也「え、どういうこと?」
などと皆が言い合ってる――と、増田の携帯電話が鳴る。
増田「(着信を見て)あー! おいおい、ちょっとみんな静かにして。(と電話に出て)……はい、もしもし。はい。ええ、大丈夫です。……え……はい。本当ですか? はい……分かりました。ありがとうございます。失礼します(と電話を切る)」
真由「どうしたんですか?」
増田「立ち退きの話、白紙にしてほしいって」
一同「えー!?」
増田「急にどんな心境の変化だろ……」
梓「……もしかして、かおりたちが、お父さんに頼んだんじゃないかな」
健太「まさか……」
梓、かおりとみのりが店前に立っていることに気が付く。
梓「かおり……みのりちゃん……」
と、ドアを開ける――かおりとみのり、入る。二人を取り囲む一同。
真由「……かおり。本当にごめんね」
梓「ごめんなさい」
拓也「ごめん」
健太「ごめん」
かおり「……私の方こそ意地張っちゃって……ごめんね」
みのり「ねえねえ、それよりさ、あの話、無くなったでしょ」
梓「うん。それってもしかして、かおりたちが、お父さんに話してくれたから?」
かおり「うん。(と頷くと)でも最初は、仕事のことに子どもは口出すなって何も聞こうとしなかった」
真由「じゃあ、どうして?」
かおり「みのりのおかげなの。私たちの活動を、自由研究みたいにまとめようって言いだしてくれて」
みのり「うん! パパたちの前でちゃんと発表もしたんだよ」
かおり「そしたら、ここを残そうって言ってくれて」
真由「ありがとう! かおり、みのりちゃん!」
拓也「良かったぁ。何はともあれ、この『キッズ・ザ・カフェ』が残るんだから」
一同「(それぞれに頷く)うん!」
増田「何だかみんな、明るくなったな。そうだ、この際何か新メニューでも考えようかな?」
真由「メニュー考えるほどメニューないじゃん」
増田「だからこそ増やしたいんだよ。せっかく店が残ったんだから」
真由「それもそうだね」
梓「ねえ、みんな。またここで集まろうね」
拓也「もちろん!」
真由「当たり前でしょ」
健太「やっぱりここじゃないと」
かおり・みのり「うん!」
と、ドアが開き、かおりとみのりの父・竹下康介(42)が入ってくる。
竹下「ごめんください」
増田「竹下社長……」
かおり「(同時に)お父さん!」
みのり「(同時に)パパ!」
竹下「(増田に)先ほどは、失礼しました」
増田「いえ……あの、本当に、立ち退きの話は白紙にしてくださるんですか?」
竹下「子どもたちのパワーには敵いません。娘たちの話を聞いて、数字やデータでは表せないものがあるんだと、気づかされました。『キッズ・ザ・カフェ』が、家でも学校でもない、第三の輝ける居場所になるんなら、ここは残すべきだと私は思います」
増田「ありがとうございます!」
拍手をする一同。
拓也「よーし、かおりもみのりちゃんも戻ってきてくれたことだし、ここが残ったお祝いしようよ!」
梓「賛成ッ! 増田さん、私コーヒー牛乳」
真由「私はレモンティー!」
健太「俺はブラック」
拓也「俺、ココア!」
かおり「私はオレンジジュース」
みのり「私はメロンソーダ。(と竹下に)パパは?」
竹下「え……じゃあ、いちごミルクで」
増田「あいよー! コーヒー牛乳、レモンティー、ブラック、ココア、オレンジジュース、メロンソーダ、いちごミルク一丁!」
真由「やっぱりそれが一番似合ってる」
増田「ありがと! じゃ、時間節約。みんなも手伝え!」
わいわい仕度をする一同――微笑ましくその様子を見ている竹下。
増田「よーし、揃ったね」
子どもたち「はーい」
増田「それじゃあ、かおりちゃんとみのりちゃんが戻ってきたことを祝って、あと、『キッズ・ザ・カフェ』が残ったこと、そして、ここがこれからも君たちの輝ける居場所になることを願って……」
一同「かんぱーい!!」
一同、談笑しながらお祝いをする――それぞれに明るい子どもたちの笑顔。
おわり
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