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『キッズ・ザ・カフェ』第2話【創作大賞2024 漫画原作部門 応募作品】

【本文】

○『キッズ・ザ・カフェ』・店

梓、真由、拓也、健太が、それぞれの席に座りながら話している――グラスを洗っている増田。

梓「あれから考えてたんだけどさ、あの子たち、友達がほしいんじゃないかな?」
拓也「え?」
梓「私たちってさ、学校はバラバラだし、それぞれ忙しくて学校でもあんまり友達いなかったじゃん。でも、ここで顔を合わせるようになって、友達になれたわけだし」
健太「確かに、そうかもな」

と、そこへ、かおりとみのりがやってくる。

増田「いらっしゃい! (とさわやかに)いらっしゃいませ」
真由「あ、掛け声変わった」
増田「どう、どう?」
真由「キモイ」

シュンと落ち込む増田。
かおりとみのり、テーブル席に座る。

みのり「お姉ちゃん、私メロンソーダが良い!」
かおり「うん……(と増田に)すいません、メロンソーダ二つ」
増田「メロンソーダ、二丁!!」
健太「(一同に)ねえ、ねえどうする?」
一同「……」
真由「それじゃあ、私が」

と、かおりとみのりに近寄る――思わず真由を見るかおりとみのり。

真由「友達ほしいの?」
梓「ちょっと待った! (と真由を連れ戻すと)直球すぎる。もっと言い方あるじゃん」
真由「しょうがないでしょ、こういう時どう声かけていいか分からないんだもん」
拓也「よし、やっぱりインパクト勝負だ。ッハッハッハー。この世の全てを……」
健太「(遮って)分かったから」
拓也「早いよ、止めるのが」
真由「(再びかおりたちのところへ行き)あのね、私、ここに来て友達できた。そりゃ喧嘩するときだってあるよ。だけど、ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うしね」
かおり「……」
増田「(メロンソーダを持ってきて)はーい、メロンソーダ二丁」
かおり「私……、私たち、親がずっと仕事で家にいないんだ」
みのり「いつもお姉ちゃんと二人っきり」
かおり「お手伝いさんも家庭教師もいるんだけど、時間になると帰っちゃうから。だから、誰かといろいろ話がしたいなあって思ってたら、たっくんちゃんねるっていうユーチューブを見つけて、ここを知ったの」

一同、唖然として拓也を見る。

拓也「えッ! えーーーー! ありがとうございます! こんなところに、俺の動画を見てくれている人がいたなんて」
かおり「ここに来たら、絶対楽しいだろうなと思って、妹と一緒に来てみたんだけど、何だか緊張しちゃって……」
梓「だったらさ、今日から友達」
かおり「え……?」
梓「友達になるのに、理由なんていらないでしょ。緊張することもないよ」
真由「(梓に)そっちも結構ド直球じゃん。そうだ、歓迎会やろう!」
梓「良いねぇ! (とかおりたちを見て)あ……名前、聞いてなかった」
かおり「私は、かおり。こっちは、妹の……」
みのり「みのりです。よろしく!」
拓也「それじゃあ、かおりとみのりの歓迎会だー!」
梓「かおり、チケットって持ってる?」
かおり「これだよね。(とチケットを見せて)最初は何かなと思ったけど」
健太「このお店は、増田さんが子どもたちの居場所を商店街に作ろうっていうプロジェクトを立ち上げたことから始まったんだ。十八歳未満の子どもが住んでいる家にこのチケットが配られてて、これがあれば、キッズ・ザ・カフェのメニューが注文できるんだよ」

仕度をする一同――と、拓也のタブレットの通知が鳴る。拓也、タブレットを見ると、

拓也「何だこれ?」
真由「どうしたの?」
拓也「動画編集手伝ってくれてる子から連絡来たんだけどさ……」

と、タブレットをテーブルに置く――梓、真由、拓也、健太、タブレットの画面を一斉に見る。
タブレットのメールの画面『なあ、キッズ・ザ・カフェって、立ち退くように言われてるって噂だぞ』

梓「え? 立ち退きってことは、ここが無くなるかもしれないってこと?」
真由「(増田のもとへ行き)どういうこと?」
増田「実はさ、新しいお店をオープンしたいから、ここを譲ってくれないかって言われてて。何とか残そうと努力はしているんだけど、このプロジェクトに反対の人もいて」
拓也「冗談じゃない! せっかく新しい友達ができたばっかりなのに」
健太「絶対、この店は俺たちが守ろ」
真由「そうね。私たちの力を合わせれば、どんな人が来たって怖くないよね」
梓「もちろん!」
拓也「よし、早速作戦会議だ!」
一同「おー!!」


○同・全景

T『数日後』


○同・店

テーブル席で、それぞれ作業をしている梓と健太――拓也が、タブレットを持って勢いよく入ってくる。

拓也「なあなあ、見てくれたー? ほら、この間アップしたやつ。ここの宣伝動画」
健太「(タブレット画面を見て)ああ、これね。再生回数順調に増えてるよね」
梓「自分が映ってる動画よりも、再生回数多いのもどうなんだろうね」
拓也「(愕然と)一番気にしてたのに……」

と、奥から増田が出てくると、

増田「拓也君、いらっしゃい!」
拓也「(落ち込んで)……」
増田「どうした?」
梓「『キッズ・ザ・カフェ』の宣伝動画が、自分が映ってる動画よりも再生回数多いこと気にしてるの」
拓也「(大きなため息)……」
健太「けどさ、再生回数が増えてるってことは、ちゃんと宣伝ができてる証拠だよ」
増田「ありがとうね、拓也君」
拓也「へへ……。(と梓に)そっちはどうなんだよ、新作書けたのか?」
梓「最新作、第三章まで書けたよ」
健太「どんな内容なの?」
梓「カフェに集まる子どもたちの物語」
拓也「それって……」
梓「私たちのこと。事実は小説よりも奇なりって言うじゃない」
拓也「(不思議そうに)事実は小説より……え、何だって?」
健太「お前、頭脳派ユーチューバーじゃなかったっけ?」
拓也「(ドヤ顔で)もちろん!」
梓「事実は小説よりも奇なり。実際に起こる出来事は、小説とか空想の世界よりも不思議なことって意味」
拓也「なーるほど」
梓「身近な人をモチーフにするとこんなにも面白く書けるんだと思って。ここを舞台にしたら、話題にもなるでしょ」
増田「そうか。聖地巡礼ってやつだな」

と、真由が走って、入ってくる。

真由「良かった、やっぱりみんな来てた」
梓「どうしたの、そんなに慌てて」
真由「オーディション受かった!」
一同「ええ!」
増田「やったじゃん。おめでとう真由ちゃん」
梓「映画? それともドラマ?」
真由「この辺りを舞台にした市民映画なの」
健太「何の役?」
真由「主人公の一人娘の役」
健太「結構メインどころじゃん」
真由「うん。でね、この辺でもたくさんロケするみたいだから、この店も使ってもらえないか、お母さんからプロデューサーに相談してもらってるの」
梓「市民映画のロケ地になれば、もっといろんな人にここの存在を知ってもらえて、良い宣伝になるね」
真由「そう! エキストラも募集してるから、良かったらみんなも参加してみない?」
拓也「いやぁ、とうとう俺も映画デビューか。この際、ユーチューバーやめて俳優にでもなろうかな」
健太「それ本気で言ってる?」
拓也「……なんてね。俺は、やっぱりユーチューバーだな」
健太「そうだよ。みのりちゃんっていうファンだっているんだから」
拓也「だよね。ハッハッハッハー。この世の全てを征服する、そう俺様こそが頭脳派ユーチューバー、たっくんだ!」

冷めた目で拓也を見る一同。

真由「ここに来て一回はそれやらないと落ち着かないの?」
拓也「まあね」
梓「気が済んだ?」
拓也「もう、満足!」
健太「俺も考えてみたんだけど、クラウドファンディングやってみたらどうかと思って」
真由「何だっけ、それ?」
健太「何か企画をするためにお金を集めようっていうやつだよ。お金を出してくれた人には、お礼品を渡さなきゃいけないけど」
拓也「何だか難しそうだな」
梓「(煽るように)あれー、頭脳派じゃなかったっけ?」
拓也「お……おお、そうだな」
真由「やっぱり、頭脳派は限界でしょ?」
拓也「(ムッとして)そんなことないし」

と、かおりとみのりが入ってくる。

かおり「こんにちは」
みのり「こんにちは!」
増田「いらっしゃい!」
かおり「良かった、みんな揃ってて」
梓「どうしたの?」
かおり「これを持ってきたの。(とチラシをテーブルに置く)」

一同、チラシを見る。

真由「何、このチラシ?」
かおり「私が作ったの」
一同「え!?」
みのり「お姉ちゃん、絵描くの好きなんだよねー」
かおり「可愛いイラストのチラシで、宣伝するのも良いかなと思って」
増田「わあ、上手だね」
真由「かおり、すごいよ」
健太「こういうスキル持ってるなら、これからもいろいろ活躍できるじゃん」
拓也「俺のユーチューブにも載せよう!」
みのり「やったー!」
梓「(突然)ああ!」
拓也「な、何だよ!?」
梓「表紙!」
健太「表紙?」
梓「私の最新作の表紙、かおりに描いてもらう」
かおり「え、私?」
梓「いつも表紙は、編集担当の人が決めるんだけど、何かしっくり来てなかったんだ」
健太「かおりのイラストが表紙になれば、また話題になるな」
みのり「すごいすごい!」
かおり「私、何もそんなつもりで」
真由「でも、かおりのイラストがこのお店の危機を救うかもしれないんだよ」
みのり「良かったね、お姉ちゃん」
かおり「うん」
健太「このチラシ、早速配ろうよ」
真由「もちろん!」
梓「私、安くコピーできるとこ、心あたりある!」
拓也「じゃあ行こうぜッ!」

勢いよく出ていこうとする一同。

増田「おいおい、気を付けるんだぞ」
一同「はーい!」

と、出ていく子どもたち。

増田「ごめんね、みんな……」

心に何かを抱えた寂しい顔した増田。


つづく

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