プレゼンテーション1

全盲の新入社員はサイボウズに出社できるのか?

こんにちは、サイボウズ株式会社の小林(@sukoyakarizumu)です。

2019年10月に、全盲の杉崎くん(@blindsoup2p1)が、エンジニアとしてサイボウズでアルバイトをはじめました。杉崎くんは2020年4月に、新卒でサイボウズに入社する予定です。

入社の経緯については、杉崎くんが以下の記事にまとめています。私の記事では、杉崎くんの出社にあたって、準備したことや気づいたことをまとめようと思います。

出社の練習をしよう

もともと杉崎くんは、面談や面接があるときに、何度かサイボウズの東京オフィスに来ていました。その際はサイボウズの社員が、オフィスの最寄駅である日本橋駅改札まで迎えにいっていました。

杉崎くん一人でも出社することができるように、杉崎くんと出社のルートを覚える練習をしました。練習は人事メンバー数人が主導し、私はそれに同行することにしました。

写真:点字ブロックに沿って歩く杉崎くんと見守る社員

「壁」が重要な手がかり

オフィスのある東京日本橋タワーと最寄駅である日本橋駅は、直通の改札口でつながっています。まず杉崎くんと、改札口からオフィスまでたどり着く練習を行いました。

日本橋駅には改札口から点字ブロックが続いており、駅構内は点字ブロックを手がかりに歩くことができます。しかし、東京日本橋タワーに入ると、点字ブロックは途切れてしまいます。

杉崎くんは点字ブロックがないときにどのように歩行しているのでしょうか?杉崎くんに聞いてみると「壁」を手がかりにしているようでした。壁があることで進行方向との平行・垂直が認識しやすくなり、道を間違えることが少なくなるそうです。

点字ブロックが途切れた地点で、左右にある壁のうち、どちらに沿ったほうが歩きやすいかなどを相談しながら、出社ルートを決めていきました。

写真:壁伝いに歩く杉崎くんと付き添う社員

歩行する上で難しい場所

練習していく上で、いくつか歩行が難しい場所もありました。ここでは主な場所を列挙してみたいと思います。

壁が少ないフロア

上述のとおり、杉崎くんは、点字ブロックがない場所では壁伝いに歩いていくため、壁が少ない場所では歩行が難しくなります。典型的なのはサイボウズオフィスへと繋がる待ち合わせロビーです。ここには点字ブロックもない上、ほとんど壁がありません。それにもかかわらず、複数のゲートがあり、そのうちの1つだけがサイボウズのオフィスに繋がっているため、位置を細かく理解しなければなりません。

写真:サイボウズオフィスへの繋がる待ち合わせロビー

また、サイボウズのオフィス自体も、コミュニケーションを促進するため、壁を取り払ったオープンオフィスの構成をしています。このような構成では手がかりを探すのが大変とのことでした。

壁際の障害物

壁際には、看板や消火器、サイネージなど、障害物になるものがたくさんあります。常にその場所に設置されているものであれば、杉崎くんは練習によって予測したり避けたりすることができます。問題になるのは一時的に置いてある物です。予測ができないために、つまづいてしまったり戸惑ってしまうことがあるようでした。

写真:壁際にある木のオブジェに触れる杉崎くん

平行・直角に歩行できない場所

杉崎くんは平行や直角を意識して歩いています。特にサイボウズオフィスの中には、斜めにしか歩行できない場所があり、こういった場所では細かく角度を意識しなければなりません。開発フロアにはブーメラン形のデスクが配置され、進行方向に対して斜めになっている通路があります。練習が終わった後でも、杉崎くんはスムーズに歩行できないことがあるようでした。

また、このような斜めの通路は、経路を教える側にも負担が大きいです。平行と直角のみで構成されている経路は「直進する」「右に回る」といった単純な誘導で事足りますが、斜めの経路を案内する場合、角度や目印を細かく伝えなければならず、うまく誘導できないことがわかりました。

最大の難関!?到着したことがわからないエレベーター

東京日本橋タワーには、日本橋駅改札のある地下入り口から、待ち合わせロビーまでを繋ぐシャトルエレベーターがあります。このエレベーターがとても厄介でした。

エレベーターは全6機あります。エレベーターの脇にあるボタンを押すと、6機のうちどれか1機が到着します。6機のエレベーターにはそれぞれランプがついていて、到着予定となったときに点灯します。到着したエレベーターが出発すると、ランプの光が消えるようになっています。再びエレベーターを待ち合わせるには、もう一度ボタンを押す必要があります。

杉崎くんはランプを確認できないため、どのエレベーターが到着予定となっているかどうかを認識することができません。一応、到着したエレベーターからは小さい音が鳴るのですが、エレベーターホールには人が多くざわざわしていて、音が聞き取りづらいようでした。そこで1つのエレベーターに決め打ちして、そのエレベーターが到着するまで待ってみることにしました。しかし決め打ちしたエレベーターが到着するまでに、運が悪いと10〜20機ほど、別のエレベーターを見送ってしまうことがあるようでした。これでは出社に時間がかかりすぎてしまいます。

私たちはシャトルエレベータとは別の場所にある、人荷用エレベーターを検討しました。通常、このエレベーターは荷物の搬入に使われていますが、人を乗せることもできるようでした。人荷用エレベーターは1機のみのため、シャトルエレベーターのように迷う心配がありません。ただし、人荷用エレベーターも荷物の搬入の状況によっては乗りづらかったり乗れないことがあるとのことでした。

どちらも、私たちの見立てでは出社時間がかかりそうでした。杉崎くんと相談した結果、実際の出社時にどちらのエレベーターを使うかを選んでもらうことにし、両方とも難しければ経路やサポートを再検討しようということになりました。

写真:人荷用エレベーターに乗りスイッチを操作する杉崎くんと社員

人の行動・人を信じること

私たちの心配は杞憂に終わりました。杉崎くんはシャトルエレベーターを使って、遅刻することなく、スムーズに出社できています。一度も人荷用エレベーターを使うことはありませんでした。どうしてシャトルエレベーターを使うことができたのでしょうか?

杉崎くんの回答は以下のようなものでした:

・時間をかければシャトルエレベータを使って自力で出社できる。
・ただし、エレベータホールで待っていると、通りがかりの人などが声をかけてくれることが多く、とても助かっている。
・道に迷ってしまった場合は、人に声をかけることもあるが、その場合も、助けてくれる人が多い。

もちろん、施設の構造や経路を適切に設計・改善していくことは必要です。でも人の行動によって解決できることもあるのだと思います。周囲の人が杉崎くんに手を差し伸べることが、そして杉崎くん自身が人を信じようとする気持ちが、とても大切なのだということを、杉崎くんの出社を通じて教わりました。

サイボウズには毎月、全社員を対象としたミーティングがあります。私はここで、杉崎くんのサポートの方法や、出社する際に難しいポイントを社員に説明しておくことにしました。今後は、杉崎くんと一緒に、施設と人の行動、両方の面から改善を進められるといいなと思っています。

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サイボウズ株式会社 アクセシビリティエキスパート。 2014年にロービジョンの方のユーザビリティを見たことをきっっかけにアクセシビリティの啓発活動を開始。「すべてのユーザがチーム参加できるように」サービスをつくる方法を模索中。

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サイボウズ株式会社 アクセシビリティエキスパート。 2014年にロービジョンの方のユーザビリティを見たことをきっかけにアクセシビリティの啓発活動を開始。「すべてのユーザがチーム参加できるように」サービスをつくる方法を模索中。
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