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ダンサーたちの交換日記 「こうふく日記」 2020年8月23日(日)

「こうふく日記」とは

2020年4月に上演を予定していたダンスパフォーマンス作品の出演者4人による、いつか4人で踊る日までの交換日記。週ごとの担当者が1日分の日記を書いてゆきます。

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石原夏実(すこやかクラブ)

二女が生まれて、ひと月が経とうとしている。
その後の経過はすこぶる順調で、長女のときより少し大きいかな?くらいに思っていたのが、先週あたりからメキメキと、安定感バツグンのむちむちボディへと成長した。
抱っこしていればスヤスヤと眠り、おっぱいがほしくなればちょっと泣いて知らせる。いろんなことに敏感で泣きじゃくりだった長女とは比べものにならないほど、赤ちゃんのお手本のような子である。今年の赤ちゃんオブ・ザ ・イヤーを選ぶのなら、私は間違いなくこの子にする。

午前中、スヤスヤ眠った二女を夫に見守ってもらい、長女と2人きりで短い散歩をした。
「ここのは ちいさいんだよ!」と、壊れてチビた車除けのポールを見せてくれたり、自販機のジュースをせがまれて、お茶ならいいよと言うと「おちゃ じゃ のどかわいちゃうからさぁー。」と謎の理屈で押し切られそうになったりするのも、愛しいなあ、と味わいながら歩く。

新生児に付きっきりなので、長女との時間はだいぶ減ってしまって、なんだかちょっと心まで遠く離れてしまったような気がしていた。
そのうえ長女は、一見すると妹に嫉妬しているどころかめちゃくちゃ可愛がってくれる最高のお姉ちゃんだけれど、そのぶん以前よりもイヤイヤが増していて、気付けば私は「ダメ!」ばかり言っている。

朝は保育園に行きたくないと言ってテレビから離れず、夜はお風呂に入りたくないと逃げ回り、ご飯も食べずにおやつを要求し、おもちゃは絶対に片付けない。どれだって前からやってることだけど、強度が格段に増してる。本気で窓ガラスが割れるのを覚悟するほどの叫び声と、どんな説得にも折れない粘り強さ。それに、こちらが困り果てている頃合いを見計って、お菓子をくれるならやってやる、と言ってくる巧みな交渉術。モンスターが知性を身につけはじめたのだから、これはもう、えらいこっちゃである。自ずと、こちらの対応も、強固になる。声も低くなるし、言葉尻も柔らかくなくなる。このぉぉぉ、と、歯を食いしばり、こめかみの血管が浮き上がってくることもある。

やっぱり、赤ちゃんはめちゃくちゃ可愛い。おっぱいをくわえさせれば、胸の奥からグゴゴゴーッと愛おしさが込み上げてきて頭のてっぺんから吹き出しそうになるし、プニプニのほっぺを見れば永遠にハムハムしていたくなる。
この小さくて尊い生き物を愛でた目で長女を見ると、思わず、え、毛穴でかくない?と目を擦ってしまうくらいスケールが違う。

私はずるいので、保育園の送り迎えからお風呂まで長女のお世話をまるっと引き受けてくれてる夫に、イヤイヤ対応も、お任せしてしまったりする。
すると、一緒にいる時間が短くなる。夫が先に夕飯を食べ終えて席を立ち2人きりになっただけで、なんとなくぎこちなくって、妙な距離を感じる。

そんな矢先のデートだった。
倦怠期に差しかかったうえにお互い仕事も忙しくなってきて関係がギスギスしてきたカップルが、やっぱり、大好き!と、気持ちを確認しあうデート。みたいなデートだった。

「くるま きまーす」と言いながら、私の手を引いて道の端に寄せてくれた。
図書館で、夏休みのお楽しみ袋とやらを借り、中にはどんな本が入ってるんだろう?と2人でワクワクした。
小学校の前を通って、あと4年したら1年生になるんだねえと言い、「いちねんせいのつぎは?」と聞かれて、2年生と答え、「にねんせいのつぎは?」と聞かれて、3年生と答え… 「ちゅうがくさんねんせいのつぎは?」と聞かれて、高校1年生。それか、もっと好きなことが見つかったら、それをやればいいよ。と答えた。

こういう夏があったことを、どうにか忘れないでいたい。

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