ダンサーたちの交換日記 「こうふく日記」 2020年大晦日と2021年元旦
「こうふく日記」とは
2020年4月に上演を予定していたダンスパフォーマンス作品の出演者4人による、いつか4人で踊る日までの交換日記。週ごとの担当者が1日分の日記を書いてゆきます。
・・・・・・・・
石原夏実(すこやかクラブ)
大晦日。晴れ。昨晩から朝方にかけて、とても強い風が吹いたからか、空気がキリッと澄んでいる。
道向かいの蕎麦屋へ、年越しそばの販売は何時からかと聞きに行った夫が苦笑しながら帰ってきた。今年は予想以上に予約が多く、当日販売はしないとのこと。例年行列ができるものの、なにせ玄関を出て10秒でたどり着いてしまうので、予約なんてしたことがない。
あそことあそこと、それがダメなら駅前蕎麦屋か、と見当をつけながら二女を抱っこ紐にくるんで、年越しそば捜索に出掛ける。
雲ひとつない空、肌を刺す冷たい空気。年末年始はいつだってこんな天気だったような気がする。結婚するまで、年越し、年明けといえば必ず父方の実家がある甲府で過ごした。まだ祖父が元気だった頃には、祖父が淡々と皮を剥き均等に吊した大量の柿が冬風に耐えてひたすら甘くなっていくのを横目にコタツでぬくぬくと買ってもらったばかりのドリームキャストに明け暮れ、ラブラドールレトリーバーの泰三が元気だった頃には、寒がる泰三と妹を引っ張り出して、カメラ機能がついたばかりの二つ折り携帯電話でじんわり登る初日の出を録画したりした。いつのときも、今日みたいな晴天だった、気がする。
歩いていると、否が応でもあの虹が目につく。飲食店に限ったマークなのだと思っていたけど、ネイルサロン、クリーニング店、あと民家だと思い込んでいたところにもフィギュア販売店らしき名前で貼り出されていて驚いた。どこまでも高い空の下に、虹、虹、虹。なのに全然晴れやかじゃない。
結局、年越しそばは、わが家から2番目に近い蕎麦屋で買うことが出来た。
あとはひたすら掃除、掃除。横にすれば泣く0歳児と、暇さえあれば布団にダイブする3歳児がいる家で、満足のいく大掃除なんて、出来るはずがない。いや、こなせる人だっているはずだけど、私には絶対に無理だ。心が折れたまま年を越すのは勘弁なので、とにかく、いつもよりちょっと入念なトイレ掃除と、いつも見ないフリしていたキッチンの換気扇の油を落とすことに集中。
それとなくチャンネルを合わせたラジオ番組は、どこぞの教授が秘蔵レコードをかけまくるというもので、何十年も前に録音された第九を聴いていたら、ものすごい既視感とともに、ちょうど1年前にも同じ番組を聴きながら同じ場所を掃除していたことを、つい最近のことのように思い出してゾッとする。その番組の途中で、臨時ニュースが入った。今日の東京の感染者数が、過去最多の1300人を超えたらしい。さらにゾワッとして、思わず茶の間の襖を開けると、2匹の動物に振り回される飼育員さんみたいな顔で夫が振り向いた。1300人、超えたって。え?いきなり?と言う顔が半笑いで、いまそれどころではないのが分かる。日本中で、どれだけの人が、同じような反応をしたことだろう、と思う。
・・・
石原家では、年越しそばを、ほんとうに年を越しながら食べる。紅白歌合戦で大トリが歌い始める頃に湯を沸かし、ゆく年くる年を見ながら茹で上がった蕎麦を慌ただしく食卓へ運び、ズルズルとすすりはじめたら、あ、もうすぐだ、突くぞ、鐘突くぞ、と言って、ボーーン。
あけましておめでとうございます。
3分割された携帯の画面には、実家の父母と、妹夫婦、そして私と夫と目が覚めて機嫌の悪い長女。眠ってしまった甥っ子と二女には申し訳ないけど、起きてる人だけで、記念のスクリーンショットを撮った。
今年もどうぞ、よろしくお願いします。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?